2006年03月29日
少子高齢化にはこれだけの問題がある
―労働者不足、労働力の流動化、総需要の減少、生産性向上の必要性―
横塚由光
Email:yokoyoshi@dream.com
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予測よりも2年早く、2005年に人口が減少したことで、政府も少子化対策への取り組みを急いでいる。企業経営の面でも対策を必要とする様々な課題が浮上してきたといえる。労働力不足の問題はその一つであり、関連して賃金・人事制度、IT化と生産性向上などがあり、以下にそれらを概観し対策を考えたい。
1.労働力の不足
すでに15歳から64歳までの生産年齢人口は平成7年の8.716万人から減少し始めており、平成25年には7,198万人にと,18年間に1,518万人が減少する(平成9年版厚生白書)。このことはバブル崩壊後のリストラなどによる人減らし現象の中では目立たなかったのが、昨年からの景気回復過程では、明らかに人不足現象となって現われてきた。これにより平成19年の新卒採用を軒並み増加させているのが大手企業である。
厚生労働省の2月の「労働経済動向調査」によれば、常用労働者の不足が13年ぶりの高水準となったという(3月3日日経新聞)。有効求人倍率も13年ぶりに1倍を回復という(2月1日日経新聞)。特に技術者は足りない、「専門技術職」の求人倍率は昨年12月で1.85倍という(前同)。こうした中で、就職をあきらめていた中高年女性が労働市場に戻りつつあるとして、労働人口は7年ぶりに増加し、2005年の労働人口は6,650万人で前年を8万人上回ったという(2月1日日経新聞)。
しかし、来年からはいわゆる2007年問題という団塊世代の定年が始まり、労働力は減少する。一方で、65歳までは定年延長か、継続雇用か、定年を廃止するかとの改正高齢者雇用安定法の4月1日の施行により急速な雇用者減は若干弱まる傾向ともなる。いずれにしても総人口が減少する中で労働対象人口の減少は加速していくことから、人手不足現象は継続することは明瞭である。
2.労働力の流動化と採用の通年化、賃金の仕事基準が進む
技術者など職種によっては不足が著しくなれば、引抜などもあり労働力の流動化が進むであろうし、そうなれば、新規学卒採用だけでは十分な採用ができず、通年採用が進んでくるであろうと思われる。
そのような情勢の中では、縦来の年功賃金では職種別の採用はできないこととなる。ある種の職種別賃金相場が形成され、若年層の賃金が低い年功賃金では採用は困難となろうと思われる。したがってそうした相対的に高い賃金の技術者が入社してくると、従来の人達の賃金との矛盾が表面化することとなり、全社的に職種別・仕事別賃金を採用しなければならなくなるであろう。60歳以上で継続雇用される人達の賃金も定年後だから、以前の6割だというわけにも行かなくなると思われ、そこでも適切な仕事に見合った賃金を支払うようになっていくものと考えられよう。
バブル崩壊以後、急速に採用された成果主義賃金は、結果が数値に結び付く仕事では納得されても、目標管理と結び付けた成果主義はなかなか社員の納得を得られず、次第に改革・変更を余儀なくされてもいる。
武田薬品や松下電器に見るように、次第に職種別賃金が採用されていく気配が濃厚となっている。仕事そのものを格付する客観的基準による賃金制度を準備しなければならない。こうした労働力不足傾向は、派遣社員やパートの正社員化も進むであろうし、また流通業では同一労働同一賃金の考え方からパート社員の賃金引き上げが会社側から提案され、今後こうした傾向が加速されることも予測される。
3.職務の明確化と女子の採用
通年採用や高齢者の採用では採用する職種の明確化が必要となる。学卒採用では採用後に会社が配属を決めていたが、職種別採用では、仕事の明確化と賃金の明確化が要請される。全体的な労働力不足の中では、男子にこだわることなく、子育て期の女性も積極的に採用していかないと労働力不足は解消できない。ここでも職務の明確化と実践的な教育と研修の実施が必要となる。現在では、肉体的労働の多くは機械装置に置き換えられ、自動化も進んできているから、簡単な操作で仕事ができる例が多くなっている。明確な指示と教育が必要なのである。また自分で工夫できる、改善ができる範囲も明らかにして、担当する範囲を明確にして、自分で考えて仕事をする仕組みを与えることで、モチベーションが高まる例もある。こうした仕事の変化からも職種別・仕事別賃金の普及に伴い人事制度も変化しなくてはならない。
4.総需要減少への対応は生産性の向上が必要
総人口が減ることは総需要が減ることであり、そのなかで高齢者が増え、労働人口がより一層減るのであれば、一人当りの総需要は減少し、つまりはひとり当りの生活水準も低下することとなる。総人口が減少する中で、1人当りの消費を減少させないためには、労働生産性の向上がどうしても必要となる。
そのための一つの対応が、高齢者と中高年の女性の就業率を高めることである。医学・衛生の向上により、60歳代は勿論70歳でも健康で働ける人は多い。この人達の就業率を高めること、そして74%の女性が第1子を出産すると退職してしまう現状を改善して、就業を継続してもらう施策を企業と自治体が実行しなければならない。
大企業では育児施設・育児休暇など様々な育児支援策が進行しているが、中小企業も同様に実施が必要であり、政府・自治体の育児支援策も早急に実行し、就業率を高めるように国全体が実行しなければならないであろう。
次いでは労働生産性の向上が必要であるが、日本の生産性は残念ながら世界では次の図の様に19位である。
出所:社会経済生産性本部資料より
これは産業全体であり、製造業は世界で3位でありかなり高い。常にグローバルな競争の中で成長をはかってきた製造業は生産性は高いが、国内的な緩やかな競争の中にあつた流通業・金融業やサービス業などの世界的競争にさらされない部分の生産性をいかに高めるかが問題なのである。製造業は人件費の安価な中国そのたのアジア諸国に移転があつたが、高付加価値製品は日本国内で作るという例が多くなっている(次の図参照)。今その部分の設備投資も進んでいる。この部分は当然生産性も高い。問題はやはり、それ以外の部分での生産性の向上が不可欠となったのである。
出所:内閣府
今や事務部門でも、フリーアドレス性などという個人の座席がない、組織の壁を越えて仕事をする仕組みが導入され始めた(日立で15000人、IBMで5000人など、3月21日日経新聞)。ホワイトカラーでもIT利用で生産性の進展がある。これからの生産性の向上はまさにITの利活用がポイントである。ITは女性や高齢者でも筋肉労働ではないから使いこなせるのであり、その面からもIT化は必要である。
3月23日に発表された産業構造審議会の「新経済成長戦略」の中で、欧米と比較して生産性の低いサービス部門の生産性を向上させることと、新たな技術革新でデジタル家電、ロボット、先端医療などの技術革新を支援することで、生産性を高めれば、労働力が減少しても、実質2.2%程度の成長は見込めるとしている(3月24日日本経済紙)。労働力不足の中では、生産性向上が必要との認識は共通認識となってきたといえる。
高齢化はまた国民の貯蓄率の低下となって現われてきている。これは従来日本経済の設備投資を支えてきた貯蓄の減少は将来の設備投資に影響を与えるものとなる。就業率の向上と生産性の向上で経済成長を維持する間に少子化を食い止め、出生率をあげる対策を実行し、回復させなければならない。そのための対策が政府と企業に求められている。
労働力不足は外国人労働者の移入による解決の方法も全くないわけではないが、文化の違いの中では、ヨーロッパに見るように困難な面が多い。しかし職種を限定して増加することは容認し、今よりは拡大すべき理由はある。
5.基幹業務の統合化としてのERPの導入進む
業務の統合化としてのERP(Enterprise Resource Planning)も大企業から中堅・中小まで進んできている。これには意思決定の迅速化、決算の4半期別の要請、内部統制の強化など、会社法の改正、金融商品取引法の改正など様々な角度からの経営の透明化、経営者の責任のあり方など、経営の社会的責任(CSR)が要請されており、経営者のモラルと法令順守とともに、道具としての経営のIT化が今や不可欠となっている。日立製作所は「企業の財務報告や法令遵守(コンプライアンス)など内部統制の強化を支援するサービスを始める」という。これは「コンプライアンス強化などを義務付ける法律が2008年にも導入される見通し」(3月24日日本経済紙)からコンサルとシステム・ソフト、機器を含む販売としている。
ここで云う2008年に適用される法律とは、俗に日本版SOX法といわれる2005年12月8日に企業会計審議会が発表した「財務報告に関わる内部統制の評価及び監査の基準案」であろうと推察できる。これはアメリカで、エンロンとワールドコムの2大企業がおこした経営者による粉飾決算とその他の不正行為で倒産し、監査法人のアンダーセンまでが廃業にいたった、この企業不祥事を発端として、企業改革法が米国で「サーベインズ・オクスリー法」として2002年7月に成立した。これの日本版が先の基準案である。
今や、大企業の購買担当者が取引先の法令順守体制をチェックする時代となった。中小企業でもCSRを要請される時代となった。そして大企業からの認定を受けたことをPRする中小企業も表れているという(日経新聞3月13日)。
内部統制やコンプライアンスなども含めて、すべての企業が社会の信頼にこたえる存在とならなければ生き残りはない。経済が減速する中での生存競争は激化することは間違いない。
SCM(サプライチェーン・マネジメント)もCRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)も今や企業経営において不可欠のツールとなった。それらを含む経営情報の統合化としてのERPであり、究極の生産性向上のツールとなるものである。これからの経営革新・技術革新はITの積極活用が必要不可欠となる。