2006年01月25日
職種別仕事給の提案
―成果主義賃金から仕事基準賃金への取組み―
横塚由光
1.年功賃金は崩壊した
高度成長期には労使ともにベースアップのみの大幅賃上げに走り、結果として年功賃金を温存し、属人的賃金から仕事基準賃金への構造変革の時期を逸した。バブル崩壊とその後、低成長ないしはゼロ成長期には、定期昇給の原資もなくなり、賃金抑制策から、職能給や年俸制、そして成果主義の導入へと向かったものである。
賃金はようやく仕事に結び付くものだとの認識が浸透し、属人的年功賃金の廃止へと進んだ。例えば、大手小売業が諸手当を廃止した。配偶者手当・住宅手当の廃止、家族手当を縮小ないしは生活手当に改善、などの記事が(日経紙16年3月18日):掲載された。JT(日本たばこ産業)では年功賃金を廃止して職務給へ(日経紙17年2月15日)とある。NTT8社年齢給を全廃(日経紙17年2月1日)とある。富士重も年功賃金廃止(17年1月14日日経紙)とある。
その後の成果主義賃金に疑問を感じて、一部に年功製への回帰の思いを持つ人もあるようであるが、もはや年功賃金に戻る社会経済的条件はない。
2.成果主義には三つの問題点
成果主義は多くの企業で導入されているが、実施した側の企業トップや人事部幹部の間では効果有との評価をしているが、労組や従業員側では、懐疑的で評価は低いものがある。その問題点は主として3つある。賃金は本をただせば、出来高給など仕事の成果を基に決められてきた。セールスマンやタクシードライバーなどである。今日言う成果主義は成果の評価が困難な職務にも、目標管理と絡めて設定したものである。期初に上司と話し合ってその気の目標を設定し、期末に目標の達成度を評価するものである。その評価で賃金を決めようとするものである。最初は高い目標を設定するが、結果が賃金に即結び付くことから、次第に目標の設定が甘くなり、個々には目標が達成されても会社前提では目標は達成されない。そこで会社全体の目標との整合性をはかるとか、精緻な仕組みを編み出しもするが、かえって反発を買い制度の納得性を得られない結果となっている。
また部下や同僚が高い評価を得ることは、必ずしも自分の評価が高くはならない。そこでノウハウは教えないとなり、チームワークが損なわれる。
成果主義の評価は目標の評価であるから、どうしても短期的評価となり、日本のように長期雇用の基で個人の成長を期待する制度化では適当ではない。
こうした問題点のほかに、企業トップには成果主義が適用されないとする従業員の批判があることは極めて痛烈なものであり、制度としての納得性を得られないことに困難がある。
3.職種別賃金制への労使の取組み
雇用の多様化が進み、各企業の中では、同じ仕事をしながらも賃金が異なることに疑問を持つ人々が現われても不思議はない。流通業では人時生産性の追及が始まり、正社員もパートも一人当り時間当たりの実質の作業の生産性を追求すると、同一労働同一賃金ではないことに気づき、経営側から同一労働同一賃金の提案が出てきている。
"賃金「職種別」広がる"の見出しの基にサントリー、キャノン、富士電機ホールディングス、カゴメなどが製造部門、営業職、事務職などの諸熊種別にそれぞれの賃金体系を導入すると伝えている(17年6月29日日経紙)。松下電器産業が職種別賃金制度を検討の見出しもある。営業、人事、情報システム、など10職種に給与体系を分ける賃金制度を06年度に検討するとしている(17年2月17日日経紙)。
また労組側でも、IMFJC(金属労協)では「大くくり職種別賃金水準の形成」を目標とする運動方針を17年12月に決めている。
4.職種別仕事給をどう進めるか
企業側では、キャノンや武田薬品などで職務給を導入している。武田薬品では米国のヘイ・システムを管理職に導入し、一般者には若干変更して導入している。この職務給は職務記述書の作成から始まり、それぞれの職務を評価し点数で決定し、賃金と結び付ける。職務給の端的な表現として、今野浩一郎氏の「勝ちぬく賃金改革」から次の言葉を引用する「ヘイシステムの職務分析では、その職務がどのような作業(課業)から構成されているかではなく、どのようなアカウンタビリティを期待されているかという観点から分析する。このようにして職務の期待効果(アカウンタビリティ)が明確になれば、人はそれを実現するために行動し、成果を上げ、会社はそれに見合って処遇することが必要になる。」
つまりは企業の経営戦略の基での職務編成があり、それぞれの職務があり、それについて分析評価するというものである。これには大変手間と時間がかかり、それを第三者のコンサルティング会社に委託するわけであるから、費用もかかる。ヘイ社には多くの事例があり企業横断的な評価事例により検討でき、優れたものといえる。
しかし考えてみれば、仕事を良く知っているのは当の労働者であり、評価には客観的な物差しが必要であるが、賃金に直接つながる評価は実質的に賃金交渉と同様な性質なものとなるのであるから、これは労使の交渉で決すべき性質のものとなるのである。
仕事の質をどのように分類し、評価するかは、仕事、労働の格付といわれてきた。日本では長い間、年功賃金の功の部分、人事考課は経営権に属するとされてきたが、仕事を格付するとなると、これは賃金交渉そのものであるから、仕事の格付こそは労使で交渉し決すべきものと考えるのである。
ヘイシステムはそれなりに優れたシステムではあるが、分析する職務の単位が細かすぎる。仕事が変われば賃金が変わる制度の中では、今日の労働の質的変化、情報化とそれらよる自動化・システム化が進む中では、アメリカ型のシステムは必ずしも日本への適合には困難がありはしないかと思うものである。
そこで仕事を分析し評価するという手続き的にはほぼ同様なシステムとなるが、次のような職務分析と評価、格付を提案するものである。
図表3―3職務調査アンケートの例
仕事の内容と知識・経験について 作成年月日・作成者
最近の1週間を中心に記入してください。
その他月単位年単位の仕事を思い出して記入してください。
毎日繰り返し行なっている仕事
週単位の仕事
月単位の仕事
年に一度の仕事
その他例外的に行なった仕事
上記の仕事を行なうのに必要な知識はどのようなものですか
上記の仕事を問題なくできるのにはどのような経験が必要ですか
上記のうち上司の指示・命令があるのはどの部分ですか
上記のうち自分の判断でできるのはどの部分ですか
この仕事をする上で必要な資格があれば記入してください。 年 月 日 曜日
作成者氏名
確認者氏名
職務名
仕事の要約
設定等級
知識と経験
仕事の範囲と責任
自主的決定の範囲
作業環境
最終決定者
格付基準
格付の基準は次のような要素を参考として企業としての特徴があれば付け加える。
@必要とする知識と経験
その仕事を実際に行なうに当っての必要とされる知識、その仕事が等級に分かれるとしたら、その等級に必要な経験の程度など。
A仕事の範囲と責任
達成されるべき仕事の範囲、期待される数値責任、管理する部下の人数など。その仕事の及ぶ範囲と結果にたいする責任がどれくらいか。
B自主的判断の範囲
与えられた仕事の範囲の中で、自分の判断で行なわれる部分はどれくらいあるか。意思決定の及ぶ範囲である。
C労働環境
労働環境の状況、高温・多湿、騒音などその他仕事をする環境条件によって、判定する。
D仕事の複雑さと難易度
仕事の困難さを判定する目安として設定する。
上記のDの仕事の難易度と複雑さはAの仕事の範囲と責任の中で評価することもできる。Cについても特段に労働強化の条件がければなく省略できる。通常のオフィスであれば考慮の必要はないものと判断される。その他、自社の労働の状況や特性にあわせて評価要素を決めていくのが良い。
次に筆者の試案である一般的な等級・格付表を提示しておく。
表3―7等級区分・格付の一例
レベル 等級 知識・経験 仕事の範囲と責任 自主的判断の範囲
4
管理職層 9 経営にたいする高度で総合的な知識、会社方針にたいする理解、関連する法律の知識に基づく、高度な経営指導力を大規模組織に対して発揮し、問題点の把握と高度な解決能力の発揮、ならびに管理者としての経験を有する いくつかの組織分野を担当し、数値的責任を持ち、それらを達成する戦略的経営力の発揮、それらを達成するための部下の育成と指導を行なう 会社の理念・方針を理解し、自主的に決断できる責任範囲は広い
8 経営にたいする全般的知識、会社方針にたいする理解と関連する法律知識を基に、中規模の組織の経営指導力を発揮し、問題点の把握と解決能力の発揮、ならびに管理者としての経験を有する 中規模組織の中でいくつかの範囲の仕事を持ち、それらを経営指導し、数値責任を達成するための部下の育成と指導を行なう 会社の方針と本社の指示の基で、中規模組織で自主的判断を発揮できる
7 経営にたいする基礎的知識、会社方針にたいする理解、関連する法律知識の基に小組織の経営指導力の発揮、並びに問題点の把握と解決及び管理者としての経験を有する 数値的責任範囲を達成するとともに、達成するための部下の育成と指導 会社方針並びに上司の指示の基に自主的判断を小規模範囲で発揮する
3
現場監督者 6 担当する仕事に関する知識とその職務を遂行する技能と経験を保持し、小グループを指導する 担当範囲の数値責任を達成する責任と部下の指導と育成 上司の指示の範囲で担当職務の遂行に際し、自主的判断ができる
5 担当する範囲に関する知識とその職を遂行する技能と経験を保持し、グループ長を補佐する 担当範囲の仕事を遂行するとともに監督者の補佐と部下の育成と指導、 上司の指示の範囲で担当職務の遂行に際し、自主的判断ができる
2
上級勤務員 4 係長・主任の指示・命令の元に職務を遂行する。職務遂行の基礎知識と一定の経験 担当範囲のほかに、上級勤務員として一般社員に簡単な指導ができる 委任された範囲で自主的判断もできる
3 係長・主任の指示・命令の元に職務を遂行する。職務遂行の知識と一定の経験 担当範囲のほかに中堅勤務員として新人の指導もできる。 上司の判断を仰ぎながら、自分の工夫ができる。
1
勤務員 2 指示・命令を受け職務を遂行する基礎知識と経験を有する。 定型的業務を自分の判断で遂行できる。 ―
1 指示・命令を受け職務を遂行する基礎知識を有する。 指示・命令の基に定型的業務を遂行する ―
※一般社員の2以下は自主性は評価しない。
仕事を格付するとはどういうことかを示したのが上の表である。知識と経験、仕事の範囲、自主判断の範囲を要素とした。レベル4とは管理職、レベル3 は中堅管理・現場監督者、2以下は一般勤務員である。特に労働環境に問題がある仕事の場合は、労働環境の評価基準を設けるのも良い。これらを参考として是非労使で仕事の格付を行なって、労使が納得の逝く賃金を決定していただきたいものである。