第25回 山﨑登志雄
7.販売ルートの考え方 - 新製品の収穫を得る -
7-2.ルートへの攻勢
〔販売促進策をもって攻める〕
大メーカーは資本力にものをいわせ、新商品を大々的な宣伝広告によって市場浸透させてきます。この直接的なはたらきかけだけで、消費者やユーザーが「新商品の存在を知り」十分に売れるなら、販売ルートまたはマーケティングルートへの新商品攻勢は後回しにしてもいいわけです。
たしかに商品というものは、消費者やユーザーに『知られなければ』売れません。が、『知られるだけ』で売れるとはかぎりません。特に新商品は、ルートのパワーがプラスされないと売れないのです。
その理由は明白で、商品が店先や販売員の手によって、消費者やユーザーに直接「見たり、聞いたり、試したり」させないと売れないものだという、ただそれだけのことです。
商品の存在を知られることで、消費者やユーザーの『購買意欲』は喚起できます。が、さらにその上に売り手の一人ひとりが、購買意欲を満たすための積極的な売り込みをしないと、『購買行動』までは起きてこないというわけです。この売り込み即ちセールスこそ、ルートパワーの本領です。
しかしまた、売り手側からの強力な売り込みがなければ、買い手側としてのルートに「仕入れ行動が起こってこない」のは、メーカーとルートの関係においても同じ理屈です。
他社ルートを活用して新商品を売りたければ、メーカーはまずルートに『売り込み攻勢』を掛けなければなりません。そして消費者やユーザーへは、ルートが売り込みを掛けるという連鎖です。これが新商品をルート販売する手順です。
ルートは「自分でも新商品を売りたい」パートナーですが、ルートより「もっと売りたい」メーカーが、自身がもてるすべての販売促進手段をもって、攻勢をかけなければ売れないということです。
ルート攻勢には、図表7-9のような販促活動を繰り出すわけですが、手段の体系としては、消費者やユーザーへの販売促進手段と同質です。

異質な点は、攻勢をかける『対象範囲』と『タイミング』だけです。不特定多数の消費者やユーザーへは、浅く広くはたらきかけ、狭い範囲の特定なルートへは、『素早く』『深く』攻勢をかけるのです。
ここで、価格政策を物的販促に入れるのは、異に感じられるかもしれませんが、平たくいえば『卸価格の設定方式』による販売促進のことです。価格政策のアレンジが、ルートに対する刺激になることだけはたしかです。
ルートに対する販促策で最も効果的なのは、何といっても『人的販売促進』です。ルート側からみれば、新商品が売れるような指導・支援が欲しいのです。いくら卸値の割引率が大きくても、ルート側は「売れなければ粗利が稼げない」のです。
ですから新商品の生みの親であり、かつその「売り方をよく知っている」メーカーの販売員に、売り方のコツのような『勘どころ』を教えて貰いたいのです。
人的販促はどんなケースにおいても、人件費がかさむ『最も高価な手段』です。したがってメーカーは、自社ルートの販売員をもって他社ルート、すなわちディーラー側に多数いる販売員にはたらきかけます。
消費者やユーザーには、ディーラーの販売員を通じて「間接的にたらきかける」形態が、メーカーとルートの連鎖的な販売活動になるのです。
マーケティングとは、どんな企業にとっても最も重要な情報活動を意味します。ルートに対するセールスプロモーションは、人的販促と物的販促の情報活動をミックスし、相乗効果を狙います。
事実、メーカーが「よくPRしている商品」は、ルートも強い関心を示し、メーカーの販売員は出張先のルートにおいて、新商品の普及活動がし易いということです。
〔情報キーマンを攻略する〕
攻勢のきっかけは、ルート側の「馬を射る」ことです。ディーラーの社長や営業本部長など、トップ自らが興味を示さない新商品には、第一線のバイヤーやセールスマンが興味をもつはずがありません。
その理由は、新商品販売によって「新しい利益源を確保」しようとするのはトップだということです。日常業務が多忙な第一線の現業セールスマンは、新商品の導入に対して保守的になりがちです。
それはともかく、ここで「将を射ろう」とすれば、その馬はこちら側の「将が射る」必要があります。それが、いわゆるトップセールスです。
トップ同士の合意があればメーカー側の現場が、ルート攻勢をやりやすくするのは当然です。が、現場の考え方は、図表7-10に示すように、これだけで必然的に変わるほど生やさしいものではありません。これを突破する仕掛けが、現場キーマンの存在です。
新商品導入の取り掛かり点で、普及活動をリードするキーマンが、ルートの拠点それぞれに最低1名でも居てくれれば助かります。キーマンが文字通り『核になって』、拠点の守備範囲内に「情報を伝播」してくれるからです。
各々のキーマンが、次のキーマンを育ててくれれば、『ねずみ算的』に新商品がわかる販売員を増やします。ですから先ずキーマンをみつけて、重点教育することです。
問題は、標的とするキーマン候補の動機付けです。標的は個人ですが、あくまでも他社ルートの一員ですから、個人的なリベートなど「金品の供与」を動機付け手段に使うのは絶対にいけません。
新商品開発を機に新ルートを開拓するのなら、そのアプローチ段階で担当キーマンをトップに指名して貰う手もあります。が、そんなことをせずとも、ルート社員の中に新商品に興味をもちそうな人物は、平素のルートとの付き合いの中で目星をつけておくことです。
〔身方はあざむかない〕
新商品や新サービスに関する教育原点は、メーカーからマーケティングルートへの商品知識の『移植』です。そのネタは図表7-11のような体系になるでしょう。が、問題は下線したように『標準原価』や『価格政策』、さらに『ウイークポイント』までも、ルート教育に取り入れることの真意です。

第一線の販売員は、競争現場でライバルに「新商品の弱点」を突かれたときの防戦に困るものです。また「価格競争」に巻き込まれたときは、撤退ラインがわかりません。が、販売の現場で孤軍奮闘する販売員の商品知識は、市場に発信する最も濃い商品情報ですから、正確を期さねばなりません。
もちろん近時は、社会問題にさえなる『欠陥商品』は、発売されるべきでない『開発未熟品』ですから、その内容は商品知識ではありません。が、価格政策や未解決課題などは、いずれも重要な企業秘密の部類です。
ですからこの種の商品情報を移入するのは、販売員に諸刃の剣を与えるようなところもあるわけです。したがって自社ルートと他社ルートの商品知識教育は、使い分ける必要がでてきます。
自社の販売員は、新商品企画の初期段階から参画させていれば、開発終了時期にはかなりの商品知識が吸収されています。特に市場関係情報は、開発の各段階で販売員が自ら、市場導入の予備調査をしていれば、ルート教育用の「セールスマニアルさえ自分で書ける」ほど、詳しくなっているはずです。
また開発過程の『仕様検討会』や『DR:デザイン・レビュー』など、開発の各段階に販売員を参画させることにより、開発担当者と同じくらいに「自分で開発した新商品」という愛着心が生まれます。
この愛着心が、新商品の市場導入にエネルギー源となって、商品知識を深めさせる相乗効果があるのです。当然、参画してきた販売員は、社外ルートに対するインストラクター(指導員)が務まります。社内ルートの販売員は、自分の商品知識を「ルート販売員に教える」となると、大いに励んで商品知識を身につけようとします。
〔技術的知識を身につける〕
技術的な理解を要する商品知識は、「門前の小僧式」だけで身につくものではありません。ものによっては、改めてかなりの時間と経費を投入する技術教育が必要です。
また、対面販売をしないような新商品や新サービスであっても、ルートの技術的商品知識は必要です。それは情報そのものが、本質的に「人から人に伝播される」ものだからです。
どんなに詳細なカタログなどの『商品説明ツール』があっても、売り場の関係者が「まったく知らない新商品の情報」は、消費者や最終ユーザーまで伝わり難いこと確実です。
たとえば東京秋葉原の家電量販店の販売員は、競って新商品を拡販しているためか、大変な商品知識をもっています。あの場で、お客様の質問に答えられないような販売員のいるお店は、新商品の市場導入をする資格がありません。
かなり以前から、エンジニアリングセールス、コンサルティングセールスのため、セールスエンジニアの敬称をもった販売員が注目されました。このような販売員の技術知識は、ルート要員を開発か生産の「プロセスに繰り入れ」て、実作業を通じて『現場実習的』に技術知識を身につけさせるのは非効率です。また、開発・生産技術を知ることが、商品知識を身につけることにはなりません。
そこで、ルートの技術教育は、逆の方向を考えます。つまり新商品の市場導入時に、開発や生産部門が販売活動の応援に行きます。この考え方は、コンカレントエンジニアリングの理念が入っていますが、中小ベンチャービジネスでは手っ取り早く、ピカ一技術者を販売現場に出向させているわけです。
ただ、開発技術者や生産技術者が、新商品の「市場反響を膚で感じ」自身で「市場実態を把握する」意味でならともかく、この種のルート教育の方法には問題が残ります。なぜなら、せっかく「ピカ一技術者が来てくれて」顧客に説明しているのに、ルートの販売員は技術者と「同行するだけの道案内人」となり、自分の知識にする態度を示しません。
技術的な説明は、横から聞くだけで容易に理解できないので、仕方ない面もあるのですが、わからないことを放置すると、新商品や新サービス自体の興味を失わせます。挙句は、秋葉原のような、優れた販売員は生まれません。
したがってこの場合はレクチャーなどの形式で、あらかじめ『基礎的知識』を身につけさせます。基礎知識が入っていれば、技術者同行のようなロールプレイング(実演)方式の教育は、具体的技術知識の習得に効果を発揮するのです。ルートの販売技術教育はどうしても、それだけの「時間と費用を掛ける」初期投資が必要です。
セールスエンジニアの養成に限らず、産業教育は図表7-12のような、体系的な『カリキュラム』、ドキュメント類をベースにした『テキスト』、目で見たり手で触れたりする対象となる『教材』、三つの要素が欠かせません。

たしかに「教育投資まで手が回らない」という中小企業は多いでしょう。が、その実態は、教育のための投資余力がないからではなく、基礎的な三要素が整えられないことの方が大きいのです。もう30年以上も前に、筆者がサービス技術のルート教育を四年ほど実施したときの事例を、図表7-12に重ねておきます。

産業教育には図表7-13のような特性がありますが、いずれにせよこの種の教育は、メーカーもルートもコストがかかるものです。反面、対象はルートに勤める販売員とかサービス員個人ですから、「育ってきた人に辞められる」という損失もあります。メーカーには『人事権』の及ばないディーラー側の結果ですから、この損失を止めようがありません。
結局、産業教育の効果は「歩留まりで考える」よりほかにないでしょう。が、それでもルート教育は、新商品情報が十分に伝わるように継続しなければならないのです。
7-3.新規ルートの開拓方法
〔開拓のベースづくり〕
新商品は、技術革新によったり新しいアイデアが創造されたりして生まれます。これに対して新市場は、従来から知られていた潜在需要が、新商品の開発や供給を認識することによって顕在需要となり、その集積が市場となって創成されます。
しかしルートは、新市場が生まれた時点から、新商品販売への対応がやっと始まります。つまりルートは商品を『仕入れ』顕在化市場に『売る』ビジネス体です。顕在化市場に新しく形成された需要を『飯の種』とするわけです。ですから自らの商品をもって、潜在需要を掘り起こしていくのではありません。
こういう構成ですから新規ルートの開拓は、今まで自社商品を流通させていなかった、既存ルートに「新しく取引を求める」ことを意味します。その意味から、自社ルート内に新市場開拓プロジェクトチームなどを創設し、新商品に対する需要創成の活動を始める場合でも、それが新規ルートの開拓になるわけではありません。要するに、新市場開拓と新ルート開拓は別ものです。
またルートを強化するために、別途の新しいルートを開設する場合もあります。が、それは既存市場へのパイプを太くする補強策であって、自社に今まではなかったルートを、新しく開拓することにはならないのです。
大企業の場合は、既存ルートを新市場に仕向け、結果的に新ルート開拓と同じ効果を生むことができるでしょう。しかし「マーケティング力が弱い」中小企業や、全く「販路をもたない」ニュー・ベンチャーなどは、従来活用し切れなかったルートに、自社の新商品を流通させて、新規のルート開拓をするのです。
自社で「需要を創造したか」「否か」にかかわりなく、自社にとっては新ルートであり、新市場であれば、新商品が売れていきます。自社からルートへのはたらきかけは、図表7-14のルート側からみたメーカー群の一角に、食い込みを図ることです。

いわばルートが築いてきた独自の『市場』『得意先』『顧客』『個々のお客様』などと、『販売力』といった、ルートが独自にもっている「経営資源を利用させてもらう」のです。そのためにメーカー側のベース、つまりルートと自社の繋がりが「メーカーの経営資源だ」といえるまで、着実に築いていかなくてはなりません。
〔既存ルートに食い込む〕
メーカーとしては、ルートが独自に掌握する既存市場に、自社商品を流通させて貰うためのはたらきかけをしなければなりません。このような『新ルート開拓』のケースは、大企業のシェアー争いや中小企業の新商品発売においても多くみられます。
とはいえ中小企業の場合は、ルート開拓のベースに弱さが残ります。その基盤とは、自社そのものの存在や商品の『市場認知度』です。たとえば未開の市場に、新商品を発売するにあたって、自社が単独で需要を喚起し、特定の地域的な新市場を形成する必要性があったとします。
必要性を満たすひとつの方法は、自社が「単独で開拓」した新市場を、逆に地域の販売業者に認知させます。そうすればむしろ、地域業者の方から取引の申込みがあり、定常ルートの関係が確立する可能性が高まります。地域の販売業者にしてみれば、メーカーが開いてくれた市場を譲ろうとするのですから、こんな上手い話はありません。
しかしこの方法は、その地域に営業拠点があり、拠点から新商品情報を地域に「流し続けている」ことが条件になります。メーカーはまず、対象地域のルートにあらかじめ『渡りを付けて』おきます。そして「既存ルートとともに新市場を開拓する」のと同じ要領で、市場を開拓していくわけです。
ただしこの場合も、メーカーに相当な名声でもないかぎり、容易なものではないでしょう。市場実績と名声があれば「あの会社が開発した新商品だから」という期待がルート側に起こり、新市場開拓に独自の努力を惜しみません。
しかし地域に『会社自体の知名度』が低ければ、これから渡りを付けようとするルート側で、新市場の芽が顔をだしていることが確認できるくらいに、メーカー独自に地域の地ならし、つまり『発売前PR』をしておくようにします。
そうでないと、ルートは容易に関心を示しません。やはり開拓のベースは『新商品の存在』が何らかの情報として、ルート側に知られていることが必要です。
〔ホームページとパプリシティの活用法〕
新商品をルートに知らしめる有力な手法は、能動的なパプリシティと受動的なホームページ(HP)の活用です。このどちらの方法も、広告宣伝費科目の経費・いわゆる『販売促進コスト』がほとんどかからないので、情報量あたりのコストパフォーマンスに優れた手段です。ですから中小・零細企業が、新商品の市場導入にもっとも適した情報伝達手段といえます。
とはいえ、プロのWebデザイナーにHPの作成を依頼したり、インターネットの検索エンジンに有料掲載をしたりする場合は、もちろんそれなりの販促コストがかかります。もちろんかけたコストに相当する宣伝効果は、それなりに必ずあるものですから、予算があればWebデザイナーや検索エンジンの「選択だけ」が関心事になるわけです。
ガリ版刷りではあるまいし、新商品ポスターやカタログなどの印刷物媒体は、予算のない中小企業などでは、どうしても粗末なものにならざるをえませんでした。しかしHPの作成なら、ブログなどで日常的に鍛えた技術で、プロはだしのページがつくれる可能性が増しました。
さらに印刷物と違ってHPは、自分たちでつくれるなら『速報版』でも『簡易版』、『詳細版』、『今週版』、『来週予告版』等々、原版もゲラ校正もなく安く直ぐにつくれます。
また印刷物媒体は販売員が持ち運び、またはダイレクトメールなどによって配布のための経費も嵩みます。が、得意先名簿などのデータベースさえ整備できていれば、HPはメルマガなどによって無料配布することも可能です。
ただディーラーのほうから「見にきてもらう」必要がある点で、受動的にならざるをえません。が、定期発行のメールマガジン(メルマガ)とコンビネーションをつけるなどの情報ミックスが必要です。
このようなニューメディアによる新商品紹介に対し、オールドメディアとはいわないものの、従来から中小企業でもよく用いられてきたのがパブリシティであるわけです。新商品情報を欲しているルートの人々は、IT化時代に苦戦しつつも健闘する新聞・雑誌は、貴重な情報源であることに違いありません。
ですから新商品がもつ『話題性』や『意外性』は、新聞や雑誌に掲載して貰って販売拠点のない遠隔地ルートの関心を誘います。いわゆる販促手段のパブリシティの活用ですが、その手順は図表7-15のような要領です。

メーカーに名声があった方が、パブリシティに載り易いのは事実ですが、現在の情報化社会では、名もないベンチャービジネスが一発のグッドアイデアをもって、新聞紙上で一躍名声を上げることもめずらしくないのです。また各種の専門紙誌もあるものです。
新商品が新聞、雑誌へ公表された場合、市場に認知される効果は絶大です。つまり自前でつくったHP、いわば「手前味噌な情報」よりも、元のコンテ(contents情報内容)も「手前味噌なのに」全国紙だと、掲載当日の午前中は電話が鳴り通しといった経験があります。
したがって能動的なパブリシティがかかれば、新市場が自然に開けることもあるわけです。が、それよりも多いのは、常に飯の種を追い求めているルートの目に、新商品情報が触れるのですから、名も知らぬディーラーからの引き合いも、十分にあるということです。
また、できれば無料掲載のパブリシティに併せ、有料の広告を打って相乗的なPR効果を考えます。つまり、お客様がパブシティで新商品を知った後で、まだ微かな記憶が残っている内に、別に広告を打つのです。
すると「ああ、あの新商品が広告に載っているのか」とばかりお客様と同時に、ルートにも「より深く認識してもらえる」というわけです。もちろんHPとの併用は不可欠です。パブリシティに載せうる情報量の何倍も、HPの方が多く載せることが可能です。要はパブで『引き付け』、HPで『虜に』するのです。
〔各種の新規ルートに挑戦〕
新商品が市場に認知されると、取引のなかったルートからも『引き合い』という形式でアプローチがあります。つまり新商品は、独自の商品力をもって新市場を創造していくのです。
この引き合いに対し、メーカーは新商品の利益性を説くことになります。それはルートに対する「仕切マージン率の大きさ」よりも「この新商品はよく売れそうだ」という見通しを強調することです。いくら、取扱いの「利幅が大きく」ても、売れなければルートにとって『絵に画いた餅』であって、魅力などないわけです。
開拓すべきルートの候補店は、広告クリエーターや宣伝媒体の選択と同じで、効果ある「その筋に的確に当たる」ことです。とはいえ業界事情がわからない新ルートの開拓ですから、「その筋」自体が容易にわかりません。
しかし新商品企画のプロセスは、ずっとマーケットイン思考の態度できています。ですから新商品フレームの設定段階で、狙い市場はそれなりに定めているはずです。それは一般的な形で示すと、図表7-16のような範疇の流通業者に「アタックする」ことになるのでしょう。

これらのアタック先には、人的な販売促進手段、つまり自社のセールスマンを差し向けます。たしかに新ルート開拓は、トップにとってもセールスマンにとっても不安がいっぱいです。が、初めての接近は、何事もやってみなければわからないことばかりです。どこの会社でも、この不安を乗り越えて今日の流通ルートを確立してきたのです。
そこで重要なことは、自社で開発した新商品は「絶対に売れる」という信念を『売り込み方』自身がもつことです。信念さえあれば、見ず知らずの企業へ『飛び込み』でアプローチする不安も、おのずと解消されるというものです。
ところが多忙を極める相手先バイヤーは、全然スキがみえません。中小ベンチャー企業などは、あれほど果敢に新商品を開発したのに、ルートへの接触機会が少ないだけに、特に大手商社などの敷居を高く感じます。
このため、ものの本には「まず、紹介者を得ること」などと書かれます。が、なまじ紹介者があると、その人脈の義理・人情に縛られ、機会損失を呼び込む可能性もでてきます。ですから、紹介者を探したりパソコンの前に座り込んだりする間があれば、アプローチすべき相手候補に飛び込んでみるべきです。
ここで蛮勇を振るえる根拠は、アタック対象であるルートが「ビジネスの世界」にいて彼らの方でも、利益のあがる新商品を「懸命に探している」ことです。利益の源泉である商品は製造業者が生みだし、それを探している流通業者という構造があるのです。
ビジネス界の取引構造から、新商品開発者としての立場をわきまえて、絶対に「自信をもってアプローチ」することです。
自信がないためか、中小企業などが乏しい経営資源の中で「代理店募集」形式の広告を打つのをたまに見ますが、これは感心できません。新商品の安売りにみえるからです。
〔ルートの選択〕
新商品の開発者は、特定業者と継続取引をするために販売ルートを開拓します。契約業者は『代理店』とか『特約店』とか称する特別な存在になります。したがって新ルートの候補店が、今後とも長年の取引ができる会社か否かを評価しなければなりません。
売買契約という法的行為は、図表7-17に示すように、売り手と買い手の双方に権利と義務が生じます。長年にわたって、こんなに大変な約束をするのですから、契約の相手先を慎重に吟味選択するのは当然です。

流通業者は全く「自由にビジネスできる立場」にいます。市場を把握している強みをもっているので、お互いに権利・義務の生じる契約がなければ、いつでも自社に都合のいいときに、両者ともに権利だけを主張できることになります。
反面ディーラー側は、新商品が売れないときに『経常的に売る義務』を果たさないからではなく、『商品に売れる力がない』からだと言い訳をして、売る努力を回避することさえできるのです。
そこでメーカーとしては、図表7-18に示すように販売力と支払い能力の二つの基準で『継続売買契約』を結ぶべきディーラーを選択しなければなりません。

この他にも、流通業者側の社員教育に『自社商品の勉強会を組み入れる』、『販売促進政策への協力度』、『社長の人柄や社員の醸しだす企業風土』など、副次的な選択基準は慎重になればなるほど、数えきれないくらいあります。が、欲をいえばルート開拓ができなくなるほどたくさんの選択基準がでてきますので、『販売力』と『支払い能力』の二点だけを基準に選択すれば十分であろうと思います。
新商品はディーラー側から見れば『目新しい』だけに、換金しやすい商品です。したがって代理店契約によって信用を供与されれば、ディーラーは『買掛仕入れ』によって、『安売り現金化』できる商品になるわけです。ですから契約しておいて、ディーラー側の資金繰り改善に、自社の新商品を使うことだってできるのです。
継続契約の締結に当っては「よく売ってくれ」れば「社長の人柄などどうでもいい」とはいえません。逆に、ある業者に初めてアプローチしたとき、社長の印象が悪かったりすると、まだ「売ってくれるかどうかわからない」のに、それ以上の深追い調査はできにくいものです。
また、調査自体が社長の悪印象によって色眼鏡を掛けられ、冷静な判断にならなくなります。逆に、友人や知人の店であったり、第一印象のよかったりの店には、見る目がつい甘くなって「支払いも確実」なのかまでは及びつかないのが人情です。
ですから代理店など、新商品の継続取引契約を締結するときは『販売能力』と『支払い能力』の二点だけは確実に「当たりを付けて」新商品の売上を伸ばしていかねばならないということです。
以上、全巻の終わり
終わりにあたって
「アーカイブ」欄にあるように、このシリーズは2007年11月にはじまりました。メルマガに連載するハウツーものにしては長きに過ぎましたが、新商品開発はそれほど大変な事業活動だともいえます。
反面、文章にすれば長くなりますが、実務的にはどこの企業でも、多かれ少なかれ展開している事業です。ですから今日の事業が、継続するのです。ただその展開が体系立てられて、ここにまとめられたのだともいえます。
実はわがさいたま総研では、2009年5月からスタートした新体制によって、組合内にある知財を整理・登録しています。その一環として事業性評価システム構築のもとに、この『新商品開発』も再評価して事業家、経営者の方々をご支援できるように整備しています。
次の機会には「文書ではなく」、新商品開発の「実務、実践」面でサポートできるよう精進しますので、さいたま総研ともどもよろしくお願いいたします。
2009年12月22日 のぼる経営 代表
中小企業診断士 山﨑登志雄