第24回 山﨑登志雄
7.販売ルートの考え方
- 新製品の収穫を得る -
パート7のポイント
[販 売] 販売ルートとのつながりを強めよう
ここでは、新商品開発に関する読本などでは、あまり問題とされない新商品の販売に固有の流通ルート活用法を、筆者自身の体験に基づいてそのルートがもつ特性から順に、説きほぐしていくことにしましょう。
商品がもつ魅力をアピールする
新商品は、消費者や最終ユーザーに向けて開発されます。開発者は当然ながら、想定する消費者や最終ユーザーのニーズに適合する、商品への意識が強いのです。が、この意識が強過ぎるあまり情報収集、商品企画、開発など、どの段階においても中間にいるはずの販売ルートへの意識が、弱まる傾向があるのです。
しかし新商品販売の各段階において、最初の顧客でもある流通ルートには、新商品の魅力を「いかに伝えるか」そしてルートから「逆に何を学ぶか」など、ルート販売固有の課題があるわけです。
これは開発者から、消費者やユーザーに直販する企業であっても、生産即消費に直結しているサービスを創造する企業であっても、経済社会の商流の仕組みとして意識しなければならないことです。つまりルート販売固有の課題を認識することは、とりもなおさず新商品企画・開発の最終段階になるわけです。
7-1.流通ルートとともに
〔マーケティングルートの特性〕
開発製品や役務、つまりサービスを新商品として市場で販売するためには、マーケティングルートに商品を流さなければなりません。ここでマーケティングルートとは、開発企業から個別の消費者またはユーザーへ、商品を流通させる経済社会の仕組み、文字どおり『商品が通る道』のことです。
ルートは一般的に、図表7-1のような形態の道筋をもっています。これは常識の範疇でしょうが、新商品が市場に導入されるのは、図に実線で示す自社ルートすなわち『直販ルート』と、代理店や卸売商、小売店といった、『独立して事業を営む』点線で示した他社ルートの二系統です。マーケティング政策では、これを分けて考えなければなりません。

他社ルートは、独立した法人もしくは個人の『消費者』や『ユーザー』ではなく、新商品や新サービスを事業対象とする『ビジネス体』です。たとえ全額出資の流通子会社であっても、ビジネス形態としては独立企業です。したがって子会社でも、マーケティング政策上は、他社ルートとして考えます。
他社ルートの個々は、独立してビジネスを営む限り、それぞれの企業に固有の経営理念があります。個別の販売政策も、経営環境もあります。したがって他社ルートの『経営的な特性』は、原則として「客先と仕入れ先を自由に選択」できることです。
つまり他社ルートは、それぞれの事情でメーカーに関係なく「自社固有の客先を確保」します。その客先が求める商品やサービスの仕入れ先は、独自に「選んで取引できる」ということです。
このように、経営の自由度が大きいマーケティングルートの特性は、新商品を巡って開発・生産業者とは違った、図表7-2のような三つの事項に表れます。さらにこれは端的な絵にすると、図表7-3のようになるでしょう。

つまり新商品の開発・生産者側は、売れる新商品を目指したのですから、売れれば当然「儲かる」でしょう。が、もし万一売れなければ、莫大な「開発費と時間をロス」するのですから『大きな損』になります。
ところが、他社ルートの企業としては多少の販促に「協力するコストがかかる」ものの、新商品が売れなくても、一向に『損をしない』のです。もちろん他社ルートでも、新商品が売れれば新しい『儲かり源』になるのは確実です。
ですから新商品販売に関し、お互いに『儲かる』という共通点を頼りに『損をしてはならない』開発・生産者側から、あまり『損をしない』マーケティングルートに積極的に働きかけなければならない理屈になるわけです。

〔流通コストが削減できるか〕
第1次、2次産業において、完全下請け企業を除けば、多くの企業はルートを通して商品やサービスを販売します。自社ルートをもたない中小企業などは、オリジナル新商品を開発したとき、100%他社ルートを活用しなければ『売れる新商品開発』になりません。
しかし中には「自社ルートしか使わない」生産業者がいます。意識的・政策的に、他社ルートを使わないのですがその基本的な理由は、だいたい次の三つの項目に整理できるようです。
その理由の第一は流通コストの問題です。
現在は人件費が高く、アウトソーシングの時代です。アウトソーシングは、有用性の問題から、各企業が個別に用いるとコスト高につく、ある経営機能を専門企業に集中させて活用しようという、社会経済的な制度というべきでしょう。要するに、外部の資源です。
ですから販売についても社外の経営資源、つまり他社ルートにアウトソーシングする知恵がはたらきます。が、ルートを通さない直販政策は一般的に、消費者や最終ユーザーに「安い商品を提供」するために採ると考えられます。
ただこの販売政策の特質は、開発した新商品が狙う市場範囲の広さに関係します。たとえば最近、頻繁にみられる『道の駅の産直農産物』のような販売方法は、まさに『新鮮な安い商品を迅速』に提供する直販体制の典型です。また情報網の発達から、いわゆる『ネット販売』という直販形態も増えてきました。
しかし一般的な消費財など、新商品の市場規模が大きく、かつ、薄くて広い需要分布があるケースでは、自社独自のルートでカバーするには限界があります。自販能力の限度を越えた市場規模があれば、限度以上に他社ルートが売り増してくれます。販売量が増えれば、必然的に生産量が増加し、図表7-4のようなコストダウン効果が見込めます。

造り手の生産業者の立場からいえば、流通には俗にマージンという『販売価格の割引』をしなければなりません。つまり、市場販売価格と流通卸価格との割引幅のことです。
生産業者は流通業者への割引のことを『流通コスト』と呼ぶ人もいます。しかしマージンは、自社ルートに要するコスト、すなわち自社の『販売員人件費』とか『宣伝広告費』のように、実際に支出されるお金ではありません。平均売価が割引幅だけ下がるのですから、この『仮装コスト』は直販したからといって削減し得ないのです。つまり消費者や最終ユーザーに「安い商品を提供」することにならないのです。
直販で「頑張って売る」のはいいが、より広い範囲により拡販するために、別途に値引き販売すれば、新商品の『市場実勢価格』が下がります。流通マージンは、あらかじめ設定した定価でなく「実勢価格から割り引く」わけです。直販の値引きによって、市場の実勢価格が低くなると、マージンはますます捻出できなくなります。
マージン幅の小さい商品は、流通にとっても魅力がありません。これでは販売数量が増加しないため、コストダウン効果が期待できず、ますます他社ルートが使えない悪循環に陥ります。
専門用語で解説すれば、『仮装コスト』は『機会原価』であり、適切な販売戦略を採らないばっかりに『売り損ねる』のは『機会損失』です。原価も損失も、どちらも『得すること』の逆ですから、予想される大きな『損を避ける』戦略を採るのが得策です。ですから売り損ねを避ける『他社ルートの活用』があるべきだという理屈です。
〔直接サービスの提供〕
開発・生産業者の販売政策で、意識的に他社ルートを使わない理由の第二は、ルート販売だと「お客様に対するサービスが薄まる」と考えることです。たとえば生産財・産業財など、特定の市場なり顧客に販売する商品が、十分な顧客満足(Customers Satisfaction CS)を得るひとつの手段は、各種のサービスです。
生産財・産業財などでサービスが単独のビジネスとして成り立つのは、機器商品の供給だとオペレーション=操作または運転、リペア=修理、メンテナンス=保守、すなわちORMの三分野だといわれます。
ルートが提供するCSのためのサービス業務は、配達などの『物流業務』やクレジットなどの『融資業務』など多様に繰り出せます。が、機器商品に付随して消費者やユーザーに、商品供給側が直接提供できるサービスは、R=修理業務が代表的な事例でしょう。
新製品が故障すると修理サービスは、商品の販売量つまり「サービス機会の大きさ」と、サービスに要する人件費に対する「付加価値の大きさ」が、ビジネスの採算性を決めることになります。
たとえば自動車整備工場のように、マーケティング活動に付随した業務は、単独で十分な付加価値が得られるため、やがて独立して「自動車整備業」というサービス産業に成長してきます。いわゆる『サービスの経済性』が高まるわけです。
逆に、家電や時計のような比較的低価格の「普及型商品」は、かつて修理サービスがルートの独立した事業になっていました。が、今では買い替える方が安く、サービス単独では事業採算がとても合いません。
しかし、市場には機器商品に対する修理ニーズが依然としてあるとき、これにメーカーとして応えるには、自ら直接「修理サービスを提供するよりほかにない」と考えます。が、市場が広がるとメーカーが単独で行うサービスだけで、十分なCSを得ることは望めません。
つまり市場が『経済のサービス化』傾向を強め、メーカーは商品に各種のサービスを付加して生産・販売しなければ、十分なCSが得られなくなったということです。CSが得られない商品は誰も買わないから販売量の伸張は望めず、ますますサービス・コストが『割高』になります。
ディーラー側の経営戦略も販売商品に関するCSの面では、メーカーと変わりません。ディーラーは量販店でなくても、各メーカーの商品を大量に扱っており、各社の商品にはそれぞれに付随する、多様なサービスがあります。各ルートはそれを集積し、専門化して効率をあげるのです。
ですからメーカーは、こういったルートがもつサービスの集積力に、自社の機器商品のサービス業務を「乗せてもらう」のです。このためにも、新商品を流通ルートに通して各ディーラー独自のサービス力を活用させてもらった方が得策だということです。
ディーラーのもつ『サービス力』を利用させてもらうのですから、サービスに要するコストは「流通コストの先払い」だと考えればよいわけです。
また、サービスに「高度な技術が必要」だから、流通ルートを通せないというのは誤解です。高度な技術が必要なサービスは、経済性が高いのです。
さらにルート側では、図表7-5のように、高度なサービス技術をもつことが、流通業者としてライバル店に対する差別化につながります。そのためディーラーは、サービス技術を「積極的に習得」しようとするのです。

〔情報の直結は〕
作り手企業が、流通業等の他社ルートを活用して新商品を販売しない理由の第三は、他社ルートを使うと、消費者やユーザーからの「正確な情報が入らない」と考えるケースがあります。
この場合は、人から人へと伝達される情報ですから、ルートが長くなるとそれだけ『伝達スピード』が落ち、かつ『伝達機会誤差』が生じるような気がするのはたしかです。が、これは流通政策と情報収集の方法を混同した話です。図表7-6は、商流や物流と「逆に流れる」情報ルートがあることを示します。

マーケティングルートは、商・物・情報三位一体の流通で構成されています。情報収集としては、情報対象と内容別情報ルートの構築方法が問題です。したがって「正確な情報が入るか」「入らないか」の見地から行う流通政策の議論では、ルートの果たす情報機能が、自社にとって「有用な情報ルートとなりうるか」「否か」を検討しなければなりません。
直販ルートの情報は、他社ルートを介する情報より信頼性が高いと錯覚します。が、情報の活用は「多くの情報の中から必要情報を選択」するテクニックに始まります。
ですから情報ルートは自・他ルートの別なく、より多く存在することの方が、情報活用の要件として重要です。さらに情報の『選択技術』が、情報の『信頼性』を高めます。情報が少ないと、信頼性の高い情報が含まれる確率も、それだけ小さくなる理屈です。
情報は『双方向性』を好みます。ある情報を伝達し、その反応をみること自体が、信頼性の確認になるわけです。ですから、まずメーカーはルートへ向けて、十分な新商品情報を流します。
この口火が切られなければ、ルートに自社商品の存在が知られません。知られない商品はルートに流せないから、下流からの顧客情報も上流に昇らない道理です。
ルートに商品情報を流すことは、消費者、ユーザーに商品情報を流すPR活動と同義です。したがって商流と物流ルートの形成は、情報ルートの形成と同義になるのです。
メーカーは、意識的にルートを築かなければ、情報は入るはずがないのです。ルートが長いから多くの情報が入り難いのではなく、情報ルートが「無いから入らないだけ」だということを肝に命じることです。
〔新市場に既存ルートはない〕
経営環境の変化に適応するために、開発・生産業者は新しい分野に指向しようとします。このとき独立ビジネス体であるかぎり、当然ながらディーラーでも同じ新分野を指向しようとするはずです。
メーカーと流通ルートは経済活動において、平たくいえば「儲けたい気持ち」において運命共同体的な社会構造を形成しているのです。メーカーが良ければ既存のルートも良いし、悪ければ悪いのが、ディーラーとの経常的な取引関係というものです。
逆のケースでは、情報力あるルートが先に、有望新分野を指向することも多くあります。ですから一般的な状況においてメーカーは、既存のルートとともに歩むかぎり、新商品開発のために改めて、新しいマーケティングルートを開拓しなくてすむわけです。
企業経営では、新商品開発と新市場開拓が同じ活動形態として位置づけられます。新市場開拓は「既存市場分野へ新商品を売り込む」形式と、新商品をもって「新規需要を掘り起こし、市場を新しく形成する」ふたつの形態に分かれます。図表7-7のとおりです。

しかし、新ルート開拓の活動形態は新商品開発とも、新市場開拓とも違います。従来からあって「他社が得意としていた既存市場」へは、既存のルートがあるはずです。ただ、自社にとっては「従来からの取引がなかった」ため、異分野に見えていただけです。
したがって新ルート開拓は、従来取引がなかった他の既存ルートに、自社の新商品を新しく流すことを意味します。図表7-6において点線で示した手順は、まずありえないであろうという理屈です。
これに対し、新市場開拓は現在認識されていない「市場を創り出す」ことです。ですからエジソンが発明した電球のように、従来なかった「製品を創造」したり、電柱を建て電線を張って電力供給するような、従来なかった「サービスを創出」したりする『完全新製品』(図表1-5参照)の開発に似ています。
今まで開けていなかった新市場には、既存のルートというものがありません。ですから、新商品開発にあたり改めて、ルート開拓が必要になるわけです。ここが新市場開拓と新ルート開拓との違いです。新市場に既存ルートがない理由は、流通業者のビジネス上の性質にあります。
流通業者は、市場と製造業者を「商品で結ぶ」機能を果たすことで、生存している『社会的な機関』です。したがって需要がある市場も、商品の供給業者もいない経済状態では「売るものがない」のですから、いわば『幻の未実現市場』では流通業者が生きていけないのです。
〔ルートとともに歩む道〕
新商品の新規需要を掘り起こすには、自社とつながる既存のルートとともに、市場開拓するように心がけなければなりません。
例えばかつて、若者の間で大ヒットとなった、ヘッドフォンステレオという新製品がありました。この新製品は、既存のテープレコーダーから録音機能とスピーカーを除き、コンパクトにしただけですが、いわゆる当時の『アイデア製品』に違いないのです。
もちろん、消費電力を少なくするためのパルスモーターの開発など、周辺技術の裏付けがあったからアイデアが活かせたのです。またニュー・ミュージックのカセット化など、ソフトウェアー供給サービスと一体になった新しいビジネス・モデルの発生もありました。
ハードウェアーとしては「イヤホーン専用」のように、機能を縮小することで軽量、安価に仕上げられたのがヒット要素となり、かつ、小さくてもステレオ音質がよいことが認知されて売れに売れました。
図表7-8のように、既存ルートは技術革新の進展に遅れをとらない速さで、新市場を開拓するのです。その理由は、有力商品の開拓を指向しなければ、ルートが生きていけないことです。

ほかの例でも、1950年代のテレビ、洗濯機、冷蔵庫といった三種の神器から、これに代わる次世代のカラーテレビ、クーラー、ステレオというポスト三種の神器を経て、市場が飽和すると、電気もちつき機、ふとん乾燥機そして家電業界救いの神であるビデオテープレコーダへと、ルート側の市場開拓が続いてきたものです。
これらのヒット商品の追及努力は、やがてパソコンや携帯電話、ゲーム機、インターネットなどなど、通信、娯楽、教養などの異分野をも巻き込みながら、ただ自分たちの先見性によって育ってきたのだったといえば、メーカーとして思い上がりも甚だしいというべきです。
ルートも情報のフイードバックや、献身的なアフターサービスなどでがんばりました。したがって正確には、専門店自身がパソコン屋や、従来は独占企業であった電気通信事業者の社会的機能も複合化した「総合家電ルートに変身」してきたというべきです。
随分と古い話を持ち込んだようですが、新商品開発と新市場開拓の関係が、メーカーとディーラーの発展形態で、誰でも認識できるパターンを事例としたものです。ご了承あれ。
以上、第25回につづく