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2009年10月 アーカイブ

2009年10月26日

成功する企業には新商品開発がある

第23回  山﨑登志雄


6.開発管理の要点
- 新商品の果実を結ぶ -

6-6.開発から生産へ

〔意外な障壁があるものだ〕
 研究開発の結果、設計が完了したものは生産に移行されなければ、当然ながら新製品になりません。が、会社の業務としては、開発設計と生産との間にある壁が、意外に『高くて厚い』のです。同じ会社で、同じ釜の飯を食っている技術者同士でありながら、この間の業務移行がなかなかスムーズにいきません。
 この問題は、開発と生産が組織上明確に分離されていない、小企業においてさえいろいろな形態で存在します。ですからあながち、大企業組織のセクショナリズムだけでは片付きません。したがって、いわゆる『生産の立ち上がり過程』は、しっかりと押さえておかなければならないのです。
 製造業や建設業などのモノづくり業は、新商品開発に必要な専門分野別の固有技術と、モノづくりに必要な共通の生産技術や生産管理技術のバランスがとれていないと、開発設計が新商品になりません。もちろん会社の技術機能バランスがとれていなければ、開発設計業務そのものが機能しないわけです。
 生産技術や生産管理技術は、わが国が世界のトップレベルを誇る技術分野です。しかし個別企業のレベルでは、新商品開発を重視しすぎる余り、開発固有の技術だけに力を入れがちになります。要するに頭でっかちで、技術力バランスが取れない傾向は、成長途上の中小企業に多くみられます。
 消費者やユーザーの多様化時代は、製品ライフサイクルが短くなるため、『開発組織の流動性』や『クレーム対応の迅速性』、マーケティングルートを含めた『情報の総合的フイードバックシステム』などが要求されます。
 つまり極端にいえば、次から次へと新製品開発を実施し、開発と同時に製品化していかなければ、多様化した顧客ニーズに対応できないで、競争市場から落伍していくわけです。そこで新商品開発の最上流を重視した源流管理とか、生産移行時の初期流動管理といわれる図表6-15のような概念が生じるわけです。
%E5%9B%B3%E8%A1%A86-15.gif
 試生産すなわち本生産で出来上がった製品は、販売まで直結するのです。総合的な情報を駆使し、開発、生産、販売を統合するコンカレント・エンジニアリングの概念が出現したのもこのことです。
 生産の品質、コスト、納期を規定する源流の設計段階が管理されます。が、このような管理概念をうまく進める手法は、必ずしも定着していないというべきかもしれません。

〔立ち上がりの阻害要因は〕
 開発から生産に移行するには、いろいろな課題を残します。図表6-16は、体験上考えられる「生産の立ち上げを阻害する」ことの特性要因分析図です。この特性で重要なのは、やはり源流である開発側の要因です。
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 源流側要因のチェックシステムには、開発設計段階で製品化に必要な項目を丹念に確認していく、デザインレビュー(DR)という技法があります。これには、チェックシートなどのDRツールが用意されます。
 開発作業が急がれるとDRの制度など、『後工程へ送るための作業』は無視されがちです。それどころか設計段階のコストダウン手法として、どうしても実施しておかなければならない価値分析(VA)などの手順さえも、開発業務でありながら忘れられるのは、同じく開発終了を早めるからです。
 その理由はDRやVAのような、開発工程途上のチェックシステムが「開発期間を伸ばす」要因になると、開発当事者に誤解されていることです。が、結果としては『不均質な品質生産』や『コスト高の生産』を続けることになります。
 製造品質の安定性が悪く、結果的にコスト高を招けば、生産の後では絶対にこれを取り戻せないのです。ですから開発工程中のDRやVAチェックを置き去りにしたのでは、いくら急いでも新商品開発にはならないということです。

〔ドキュメントの整備がなければ〕
 従来、生産を経験していない新製品は、生産移行の過程を通じて、生産側が新しい生産技術を構築していくことになります。この段階では、開発部門と生産部門が比較的よく協力するものです。ですからコンカレントエンジリニアリングの概念は、従来経験しなかった新製品の開発で、うまく展開されることがあります。
 これに対してモデルチェンジなど、従来製品に類する新製品開発の場合は、生産技術が生産側に既にあるための安心なのか、設計の未熟さが移行遅れに拍車をかけます。未熟設計やドキュメントの不備が、即座に生産立ち上げのマイナス要因となり得るのです。
 生産移行に必要なドキュメント(事実の記録)とは、図表6-17のような書類をさします。設計者側がその「意志を現場の生産者側に伝達」するための諸記録のことです。
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 また、時間を超越した意志伝達の機能があります。ですから、設計者の意志が生産現場にすぐに伝わる中小企業でも、口達やメモのように「記録に残せない方法で伝達」するのはいけません。
 いわゆる『一品料理』のような新規設計品であっても、基本的なドキュメントは残しておきます。記録を残さなかったつけを後で払うのが、中小企業の多くの実態です。
 大企業、中堅企業と小企業、零細企業の間の格差を一番感じられるのは、まさに『ドキュメント類の整備状況』です。
 また最近は、ISO9000Sの認証取得を希望する中小企業が増えました。が、ドキュメント類が整備されていなければ、認証は絶望です。ISOは製造体制を維持する制度と、体制の裏付けとなるドキュメントの整備を客観情勢として、「お客様の代人」である審査員に示せることを要求するからです。

〔製造品質で勝負する〕
 開発は製品の設計品質を『創り』、生産部門が製品の製造品質を『造り』ます。設計品質というのは、頭に描いた計算上の品質であり、製造品質は生産結果で実現する『仕上がり品質』のことで、まさに製品そのものの『でき栄え』を指しています。
 新商品が市場のニーズを満足させるのは、図表6-18で示すように、製造品質であることは明白です。
 つまり製造品質以上の商品は、市場に供給できません。しかし現実は、市場品質を狙った設計品質よりも、製造品質が劣りがちです。これでは「売れる新商品開発」に、当然のことながらなりません。
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 ここで再び、第22回〔期間管理は価値を生む〕の図表6-9に示す、開発遅れと利益減少の関係を引用します。
 機械製品は製品性能が低下した割に利益の低下は小さいのですが、逆に電子製品は製品性能が少しでも低下すると、大幅な利益減少を招きます。機械製品は『製造品質で勝負する』傾向があるのでしょうが、電子製品は流行り廃りが激しく『設計品質のウエイトが大変高い』ことがわかります。
 要するに、市場のニーズが開発商品で満たせないから、利益は減少するのです。この例のように製品の種類によって、市場ニーズを掌握する手段は違ってきます。しかし、製造品質が市場で勝負している事実は、どんな種類の製品でもまったく同じだということです。
 新商品開発は、設計品質が生産現場で的確に製造品質へと具現化するのです。そして市場で、要求品質を満たす実現品質にならなければ、長い新商品開発のプロセスがすべてムダになるわけです。


6-7.販売への連結

〔商品化計画の機能〕
 造られたものは製品ですが、新製品は市場に販売される『商品』にしなければなりません。製品要素は製品の性能や外観デザインなど、開発段階で創造される設計品質と、生産段階で作り込まれる製造品質です。これに対し、市場の要求品質を満たす商品要素は、製造品質だけではありません。
 売るための開発ですから、もちろん新製品は初めから「商品を想定」しています。が、新製品を「より多く売る」ためには、さらに企業活動として「飾り付けて」いくのです。それが、開発計画に対する商品化計画という、別の仕事として考えられるというわけです。開発製品に飾り付けるべき商品化の要件は、図表6-19のような内容です。
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 製品化のための開発期間が長期になるため、開発終了時に改めて商品化計画が必要になります。つまりアイデア開発など新製品企画の初期段階で、あまり細かい商品要件まで追及していると、全体的な構想に集中できなくなって、企画の大筋を見失う恐れがでます。
 また余りにも具体的な商品化目標は、細部の要件にこだわって開発業務を縛り付けかねません。さらに先走って商品化を考えすぎると、開発期間の変化に対応しにくい状況をつくってしまうことにもなります。
 開発期間中に起こりうる変化を考えると、後で考えた方がよい商品化検討項目がでてきます。新製品完成の時点でもう一度考え直すのが、商品化計画だというわけです。

〔価格設定の真髄〕
 製造業の『売価設定』も流通業の『値付け』も、商品の価格やサービスの対価を決めるのは、最も難しい経営政策の部類です。逆に売価設定の作業は、考えれば考えるほど難しいため、かえって安易なコストプラス法に依存しがちです。
 コストプラス法による売価設定の問題点は、経営実務において「コスト自体が変動」しており、市場での実勢価格も変動していることです。だのに『原価』に『経費の配布率』を『掛ける』一本調子で、販売価格を事務的に決めてしまいます。
     【販売価格=発生原価×(1+諸経費比率)】または
     【販売価格=発生原価÷(1-粗利益率)】
 計算式だけならこのとおりですが、さらに一部の中小企業では、原価計算制度自体があいまいです。さもなくば、税理士さん任せで自分では「数字をもっていない」場合があります。ですから『プラスされる元の原価』も、『プラスする配布率』もよくわからないまま、販売価格が決められている実態です。
 このような状況下での値付け方法は『ぐっとにらみ法』と呼んでいいでしょう。つまり原価資料がほとんどないので、経営者が商品をぐっとにらんで、過去の経験と勘から「よし、いくらに決めよう」という、いわゆるドンブリ勘定のことです。
 ただ一面で、これによって対象商品の世間相場に、迅速に迫れるなら『ぐっとにらみ法』も市場価格に沿い、かつ効率的で、合理性があるのかもしれません。が、せっかく開発した新製品の「死命を決する販売価格」が、安易に決定されたのでは、たまったものではありません。
 モノの販売価格は「需要と供給の関係で決まる」のが、物々交換が始まった太古の昔から通用する経済原則です。ですが個別経済の分野では、市場提案型の新製品開発は『新規供給者の登場』によって、従来はなかった『需要を喚起する』わけですから、経済原則さえ超越しています。したがって新商品の発売にあたっては、いろいろな価格政策を考えるというものです。
 もっとも単純なところでは、薄利多売があります。これに対し、高利少売とはいいませんが、適正価格政策の議論があります。またスキムプライス(上澄み価格)といって、競争者の現れない新商品の「発売時期は高値」を設定し、上澄みのいいところだけ吸い上げようという政策です。
 追従者が現れたら、その時点で価格競争に転じ、先行者の強みを発揮しようという政策です。他では、地域価格政策、特定顧客価格政策などがあります。
 しかしこれらの価格政策は、まさにプロダクトアウトのマーケティング態度です。ただプロダクトアウトが間違っているからといって、新商品の値付けに「この方式でやれば問題ない」という、うまい方法がありません。そこで考えるのは、「新商品企画がマーケットインの理念で貫かれてきた」ことです。
 ですから価格設定に当たっても、この理念は貫かなければ、ここまでのプロセスが無意味になるというものです。要するに「市場に受け入れられる価格」を設定する理念です。となると、売価設定だけは開発終了後の、商品化計画課題ではなくなります。
 つまり新商品が出来上がってしまってから、売価設定を考えるのではもう手遅れです。新製品で利益が生めるコストは「開発段階で品質とともに」つくりこみをしなければなりません。目標売価から必要限界利益を差し引いた、許容原価の範囲内に新製品をつくりこむというわけです。
     【許容減価=目標売価-必要限界利益】
 ここで製造業では『限界利益』といい、商業では『粗利益』という利益の概念があります。経営的にも会計的にも、これらの概念に違いがあります。が、経営最大の課題である価格政策自体は、一冊の本にしても余りあるところですから、ここではマーケットイン政策の真意だけを述べるに留めます。
 さて、商品化計画での売価設定は、開発期間中に起きる諸情勢の変化を見極めることです。開発活動の結果、品質、性能、原価は、初期目標に比べてどうであったかを、開発計画書と照合して評価します。
 それが開発段階の、DRに対するコスト・レビュー(CR)というものです。また、需給関係を規定する市場の景況、競合社の出現など「企画書を引っぱり出して」チェックし、できあがった結果を確認します。
 もちろん類似商品の市場実勢価格は、調査しなければなりません。そのうえで、お客様が求める商品価格に決めるのが、開発終了時点で行うマーケットインの売価設定です。
 しかし現実には、開発は終了したものの「コストが許容原価に納まらなかった」ということはよくあります。が、これは明らかに新商品開発の失敗です。こんな失敗がないように、開発過程でDRやCRを繰り返し、軌道修正しながら開発を進めるというわけです。
 これ以上は本題から外れるので、別の拙著にも詳述していますし、機会があればこのメルマガの次のシリーズでお目にかかることにいたしましょう。

〔ネーミングとパッケージ〕
 新商品に名称を付けるといった慣わしは、昔からありますが、最近は商品名によって、他社商品と差別化する、ネーミングのマーケティング的機能が重視されるようになりました。商品に付けたペットネームやニックネームは、商品に新しい魅力を加え、やがて強力なブランドに発展します。
 産業財の場合、従来は「波型鋼板」「NC工作機」のように、新製品のもつ形状や機能などの商品特性を名称としました。また、メーカーや問屋筋などの間で商品を整理するために、符丁のように使われる『モデル番号』や『型式番号』が、そのまま商品名に代わって通用しています。
 その典型がD-51(デゴイチ)ですが、蒸気機関車の愛称もこれほど有名になれば、商品の差別化手段として十分に使えます。が、この例は専門家の呼称が、SLフアンにも浸透したにすぎません。
 新商品のネームは、消費者やユーザーに強いインパクトを与え、短期間に市場浸透さるため、会社が意識的に付けなければなりません。ネーミングでは商品名の有意性、語呂のよさや響きのよさ、または連想されるイメージを強調するわけです。
 最近は名前を聞いただけで、どんな商品かわからないネーミングの『遊び心』が、飽食時代の若者の間で爆発します。しかしその愛称を市場浸透させるには、「相当のマーケィング費用が要る」のですから、資力のない中小企業などはネーミングに「奇をてらう」わけにいきません。
 商品が消費者やユーザーに届くには、物的流通(物流)が伴います。物流には図表6-20のような機能を果たすパッケージ(包装)を必要とします。
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 つまり新製品は、パッケージされて新商品になるわけです。「包装は無言のセールスマン」といわれるように、包装材の外観機能は格好のメッセージ媒体です。そのあり方は「売れる商品」をつくりこむ技というわけです。
 新製品は、いまだ市場に認知されていない商品です。ですから、商品を知っていただくためにネーミングします。この狙いがユーザーや消費者の「耳に響く」のに対し、「目に訴求」して商品の印象を焼き付けるのが、パッケージデザインです。
 ネームやパッージがおもしろいから、商品の存在が浸透して購買活動につながるのなら、パッケージデザインは会社にとって、新製品の研究開発と同じ意義をもつわけです。

〔商品メッセージの効果〕
 近時は、商品という物質の販売だけではなく「商品に情報を付けて売る」時代だといわれます。つまり会社側が商品とともに、消費者やユーザーへいろいろなメッセージを送らなければ、新製品であっても新商品ではないのです。
 メッセージの中には、薬事法や不当景品類及び不当表示防止法(景表法)により、添付が義務付けられた医薬品の効能書などがあります。もちろんこれは、消費者保護のための法規制です。が、仮に規制がなくてもこの種の商品メッセージは、供給者として積極的に提供すべきです。
 また近時は、PL(製造者責任)法が制化され、メッセージの様子が違ってきました。製品を取り扱ううえで、当然の注意事項が明記され、消費者に対して伝達されていなければ、供給者として無過失の対抗ができなくなったからです。
 しかしこれらの商品情報は、『消極的なメッセージ』といえます。これに対し、会社の意志により消費者やユーザーに独自の情報を伝えるための、『積極的メッセージ』があるはずです。
 メッセージの媒体には、包装紙やレッテルがよく使われます。が、積極的メッセージはもっと多くの情報が伝達したいのです。例えば菓子の銘選品や陶磁器、塗り物などに添付される『しおり』類、機器商品に添付される『パンフレット』類などは、消費後も取っておきたいほど、美しく楽しいものがあります。パソコンのハードやソフトの『マニアル』類は便利性もあって単行本として売れるほど、説明書自体で別の価値をもっています。
 マニアル類では、文字離れ人口の増大に伴い、写真や漫画イラストによる表現など、ビジュアルなメッセージが多くあります。近ごろのことですからメッセージ媒体は、コンパクトディスクやテープ、ビデオなどもあるし、ホームページによって直ぐに無償で検索することもできます。
 しかしイラストだけではなく、図面、スケッチなどのビジュアル要素は、インターネット時代になっても印刷物媒体の優位性は十分にあります。伝達する単位情報量当たりの経済性がよく、CGやディジタルカメラ、さらには印刷技術の向上で、品質も数段によくなっているからです。今後はこれら情報媒体の多様性が、新商品の高度化にともなって、新商品メッセージの意義をますます高めることだけはたしかです。

以上、第24回につづく

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