第22回 山﨑登志雄
6.開発管理の要点
- 新商品の果実を結ぶ -
6-5.新技術導入と開発管理
〔ピカ一技術者の特性〕
研究開発要員は、科学技術的な知識の獲得力と、知識を駆使した創造的思考力といった個人的資質が要求されます。技術自体は人間の能力ですから、会社の役員・従業員および関係する人々が、技術を会社にもたらすものです。ですが必ずしも研究開発要員のすべてに、スーパーマン的なエキスパートであることが、要求されるわけではありません。
たしかに昔は、超スーパー・スター的な技術者がいました。またそんなスターにかぎって残業、徹夜は厭わず、ちゃんとヒット商品をかっとばしたものです。今でも、どこかにそんな存在の技術者がいるかもしれないと、期待する経営者がおられるだろうことは、十分に推察できます。
しかし現在の研究開発情勢は、多分野にわたる情報をミックスし、統合して練り上げなければ、確信のもてる方向性がだせなくなっています。新商品を『モノにする』には、学際的に複合化した技術が要求されることになります。また研究開発業務は発想、実験、仮設計、試作、試験、性能確認などのプロセスが、細分化・専門化されています。
中小企業のワンマン経営者が「俺は一人で開発している」といっても、仕事の内容としてはこのように分化しているものです。
つくれば何でも売れるという、モノのなかった時代はもう遠っくに過ぎ去りました。現在はいかに、スーパースター的技術者やワンマン経営者であっても、特定分野の専門技術者が一人だけでは、新商品開発になりません。
にもかかわらず、処遇の面で「相当な無理」をしてでも、外から技術者をスカウトしたいと思っています。社内で「たった一人の研究開発要員」であっても、何とか高級技術者を確保したい気持ちも残っています。新商品開発を強く望む、中小企業の文系経営者などは、とりわけこの傾向が強くあるように見受けられます。
また現在、このように複雑な研究開発情勢にあることは、技術者自身も知っています。ですから「月給を倍にする」といっても、オンリーワンの条件では、容易にスカウトに乗ってきません。
中小企業には処遇が悪いから、技術者が集まらないだけではないのです。「倍の月給」が長続きするわけもなく、大きなプレッシャーがあるばかりです。「掃きだめに鶴」の条件では、やがて「鶴もカラス」になることを恐れているわけです。
また逆に、鶴も「甘やかすと幻の鳥になる」ことも忘れてはなりません。鶴スーパーマン氏は、処遇面などで優遇されると、掃きだめ側の妬みを買って、スタッフとしての協力が得られなくなります。そんな開発環境では、鶴スーパーマン氏が舞い上がって鳳凰になってしまう、図表6-11のようなイメージが現実にあるのです。

〔金の卵を生ませる〕
ただオンリーワンの開発環境であっても、そのピカ一技術者に新商品開発に必要な「情報が集中」され、会社として彼をヘルプさせる体制がとれるなら、事情は相当に違います。
例えば、異分野を含めて広く『情報収集が可能な環境』があり、ピカ一技術者に情報を『受け止める能力』があれば、カラスが「大勢でわあわあやっている」大きな『烏合の衆』がいるよりも、よほど効率的な開発ができることもたしかです。
成功しているベンチャービジネスのリーダーや、大企業のプレイングマネージャーがこの例です。また、大学の研究者や試験研究機関の研究員、コンサルタントやシンクタンクなど、社外の英知を導入するアウトソーシングの場合でも同じです。
これからの高齢化社会において、中小企業にも優秀な人材を確保できる機会が巡ってきました。
たしかに大企業で優れた研究者が、中小企業の経営環境に向かない場合もあるので、ネームバリューだけに頼った人材確保には問題が残ることもあります。だけど定年退職者にかぎらず、リストラに遭遇してしまったような『優れた人材』に巡り合えるチャンスがきたこともたしかです。
また仮にピカ一技術者が確保できても、その人材を『開発部長』などといった管理職位に就けて、全部「預けっ放し」にするのは危険です。そのわけは「名選手、名監督ならず」の名言です。
かつての名選手は、自分の選手時代と目の前の選手を比べ「なんだ、たったこれだけのことができないのか」「君でも十分にできると思ったんだが」とやってしまいがちだからです。これは、『評価の対比誤差』という、誰にでも起こしがちな誤りです。
さらに図表6-12のように、昔の技術で現在の技術を指導、統制しようとしたが、うまくいかないときは、監督も選手も悲劇です。しかもお客様である観客層が、新世代にいるとすれば、会社にとっての悲劇は倍増するわけです。

研究開発の仕事は、マネジメントの仕事と性質が全く異なります。文系の人は、研究開発の仕事を評価し難い事情があります。
しかし唯一の評価基準は、「開発計画に明記」してある開発期限です。ですからマネジメントのP-D-C-Aサイクルにおいて、照合すべきC(チェック)の基準は、「期日内に開発できるか?」ですから、難しいことはなにもないわけです。
研究開発そのものに対する評価は、消費者やユーザーが決めてくれます。要するに「新商品が売れない」という厳しい評価は、新商品企画に対して出されます。が、会社の開発管理は、どの技術者にも「自分の仕事」をさせ、開発スケジュールを守らせてやればよいだけです。ですから管理のためのモノサシは、いたってシンプルにあるわけです。
中小企業などで技術管理者が人材不足なら、社内で最もマネンジメント技量に長けているはずの社長自身が、開発管理の機能を果たします。そしてトップのリーダーシップが有効に機能すれば、鶴はやがて輝く金の卵を生むでしょう。
〔名監督の秘策〕
開発が予定のスケジュール通りに進まないのは、思わぬ「アクシデントが発生」したり、急な「ライバルが出現」したりで、基準となる『開発計画の方』のスケジュール変更を余儀なくされることもあるでしょう。
技術者としては、自身の能力不足より「味方にエラーがでた」とか「相手が豪腕すぎた」とかの要因も配慮してもらいたいところかもしれません。
しかしこのような外的要因がもとで、研究開発スケジュールが進展しないケースは、実態として少ないのです。また管理者の立場では、「逆風でストライクが取れなかった」「横風にカーブが流された」と弁解されても、風向きそのものは直せません。が、名監督ならば、横風を克服するのに最適なように、フォームを矯正しなければなりません。
フォームが乱れる原因は、明らかに技術力不足が第一です。目指すテーマを「実現するために必要な技術力」が、現在「自社がもっている技術力」との間に違いがあるわけです。図表6-13に示すように、担当する開発要員の「個人的な技術力格差」ではなく、会社総体の技術レベルと技術系統の格差です。これを混同すると監督としては、どんな作戦がよいのか、見当がつきません。

技術水準または技術系統や技術分野の格差は、『新技術の導入』によらなければ埋める方法がないのです。一体に、技術知識も情報の範疇にあるのですから、新技術は一般情報と同様に「社外から導入」するものです。新技術導入は、技術社員の「個人的な資質や勉強熱心」に負うところが多分にあります。
社外からの技術は「特許権買い取り」や「契約による技術移転」など、一挙に導入することもできるはずです。そして導入先は、大学であったり試験研究機関であったりします。親会社、取引先、お客様という場合もあれば、いわば選手トレードやM&A(企業の買収、合併)のようなこともあるでしょう。
ときには新入社員に教えられる技術でも、一向に差し支えないわけで、必要とする新しい技術を『もっているところ』から入れられれば、導入した新技術の価値に変わりはないのです。要は、名監督の采配が「どちらに向かって振られるか」だけです。
〔技術水準の向上策〕
新技術導入は、技術分野の格差を埋める手立てですが、技術水準の引き上げにも筆者の好きな野村克也氏のごとく、名監督の秘策が必要になるわけです。
技術水準とは、社員個人の技量が『集積した総体』としての水準です。監督にとって、手持ち選手の『個別な資質』は、既に与えられた管理条件です。が、単純に社員の「経験に依存した技量」だけが頼りでは、勝てる自信につながりません。
監督にとって与えられた『資質と時間』は動かせないようですが、選手のもてる資質だけは、最大限に発揮させるためのコーチング・テクニックをもたねばなりません。
技術格差を補う方法は、図表6-13にも入れておいたようにO・J・T(企業内教育)が有効です。が、選手達の方は社内勉強会などの機会を与えても「現業が忙しくて参加できない」といいます。
しかしそれは口実であって、本心は「勉強したくない」だけです。選手に異分野への興味と技術水準への向上心と基礎知識があれば、放っておいても自主トレという自己啓発は進むはずです。こうであれば、自主トレの動機付けも容易です。
名監督としては、魅力的な教育企画づくりに努めますが、一方では勉強会の「必要性を説く」ことも大事です。またどんな選手側の職務にも『遂行責任』があるのですから、監督側のほうでも『指示命令権限』によって、ときには「研修を職務の一環」として自己研鑽を強制する必要もあります。
ただ、どの選手を対象にして教育するかは、ここでの重要ポイントです。というのは、開発技術者全員の技術力を「一様に引き上げよう」とするのは、いかにも効率が悪いのです。産業の場では重点主義、英才教育を考えなければなりません。
現実の市場では、特定な技術分野の知識と能力が、競合他社に比べて高くなければ勝てません。つまり企業間競争は、技術水準の『頂点と頂点で戦い』ます。新商品は会社の技術総力で開発されますが、企業全体の技術力は『トップ技術者に誘導』されるのです。
優れたリードオフマンがいて、忠実なコマンドがはたらく姿が「組織と組織の戦い」に有利です。1~2名のリードオフマンなら、人材不足の中小企業でも十分に育ちます。
ですから名監督は、選りすぐったリードオフマンを育て、ピンチヒッターにたてます。そしてピッチャーとバッターそれぞれの、オンリーワンをうまく配合し、協力させて味方を勝利に導いてこそ、名監督というものです。
つまり図表6-11で云うなら、ピカ一のリードオフマンが「金の卵を産むツル」になるよう、コーチングするのです。
〔異分野への進出策〕
分野が違う技術の格差は、異分野技術を習得しなければ、矯正することができません。世間でいわれる新技術導入は、まさにこれです。自社技術という根株に、異質の技術を継ぎ木して新しい芽を吹かせようとするようなものです。
「りんごとみかんの入ったフルーツポンチが欲しい」と顧客に注文された場合は、一時的なニーズなら、従来から自社にある「固有技術のりんご」に「みかんを買って」きても提供できます。が、根強い「ウォンツを発見」したのであれば、継ぎ木でもして新技術のみかんを得なければなりません。
最近はサービスの経済化に伴って、『技術の流動性』が大きくなってきました。つまり一般のサービスと同じように、技術も取引の対象となるのです。ですから、例えば「特許権の実施契約」や専門「コンサルタントの技術指導」を受ける形で異分野の技術が買ってこられるアウトソーシングです。
必要な技術の仕入先は、これらの他に価格が比較的安い『公的技術移転機関』や、中小企業なら自治体の『試験研究機関』などの技術指導が、内容によっては無償で受けられます。また『大学のTLO』や民間では『大企業との共同研究』『異業種交流』など、異分野技術の習得策は、その気になって探せばいろいろとあるものです。
ですからとりあえず『みかんの貸し鉢』を入れてみます。後で、みかんが長期にわたって必要なら、貸し鉢を育てた技術的ノウハウを使って、本格的にみかんを移植すればよいのです。イメージとしては、図表6-14の展開です。

外部から技術指導を受ける、いわば『技術のレンタル』で大切なのは、みかんの味を舌のどこかに残しておくことです。調理体験者として一度使ったのですから、みかんの良さは覚えます。
一度覚えた味は、やがて継ぎ木で育つ『新種みかん』にも活かせます。外部指導を受けたのをきっかけに、社内に『新技術の土壌作り』ができると移植の成功は、間もなくだといえるでしょう。
以上、第23回につづく