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2009年08月 アーカイブ

2009年08月22日

成功する企業には新商品開発がある

第21回  山﨑登志雄

6.開発管理の要点
- 新商品の果実を結ぶ -

6-3.予算管理の要領

〔お金の側面から計画〕
 一時は、研究開発に力を入れ過ぎた『開発倒産』といったうわさを耳にしました。が、このような例は「開発投資が過ぎた」というよりも、投資に見合う売上高や利益がなかった、つまり計画に対する「見込み違い」だったとみるべきです。
 もちろんそれも「売れない新商品を開発した」という意味で、新商品開発の失敗に違いないでしょう。たしかに売上収入が見込めないのなら、支出を切り詰めるどころか、もともと予算など組めないのですから、予算管理などといえるレベルのものではありません。
 予算管理というと、どんな予算でも「経費の切り詰め」など、随分と窮屈な印象があります。が、予算管理は研究開発を『金銭的に計画』し、一定期間内に研究開発の実施を『金銭的に統制』するプロセスのことです。
 ここでの窮屈な印象は、統制でなく計画の中身である『予算不足』に対する感情であって、予算管理制度自体が窮屈なものではないのです。
 要するに予算不足への恨みですが、だいたい「有り余る資金を自由気ままに使ってよい」という「研究開発環境なんてない」はずです。当然、研究開発テーマに相応する必要投資の額というレベルがあるものです。
 また逆に「存分に使え」といわれても、無駄遣いでもしないかぎり会社のお金なんて、そんなに使えるものではありません。ですから「金は十分に出す」といわれるよりも、研究者の立場からは、きっと「人材と時間をくれ」といいたいところでしょう。
 一般的に研究開発予算は、図表6-7のように人件費、外注委託費、試験材料費、関係経費等で構成されます。つまり予算の範疇には、人材と所要時間、単位人件費と開発工数がそれぞれ含まれてきます。
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 ですから「金をくれるより人をくれ」という現場から要請があったとしても、企業経営的にみれば、予算管理の側面も要員管理の側面も同義です。つまり『人の管理』も『お金の管理』も同じだということです。「人は出せない」が「お金ならいくらでも出す」という研究開発環境なんてないわけです。
 業種や開発目標によって違いはあるでしょうし、中小企業では設備不足で『信頼性試験』などで『意外な外注委託費』が必要になるケースもあるでしょう。が、研究開発費予算の中では一般的に、『人件費が大部分』を占めるはずです。
 零細企業によくあるケースでは、社長が一人で研究開発費に没頭しているが、役員報酬が会計処理的に人件費でないため、開発コストの感覚がなくなります。しかし社内で一番付加価値の高い仕事をする人が、只働きをしていて会社がもつはずがありません。
 人件費はコストですから「開発資金は自由に使え」といわれても「金を使う人間がいなければ」意味がないことになります。アウトソーシングの時代、外注委託費予算をたっぷりとって、社外の機関に開発を委託すれば「金はいくらでも使えそう」に感じます。
 しかし研究開発という仕事は、社内の開発体制が万全でなければ、いわゆる「丸投げ外注」ができません。社外の開発会社を活用する企画会社などの場合でも、外注先に仕様書を提示するだけではないのです。
 企画会社では目的達成の「手段、方法を指示」し、開発費の「見積もり評価」ができ、技術的指導ができる「社内要員が新商品開発の全体を進展」させていくのです。その中に外部パワーが織り込まれているのに過ぎません。
 ですから、「儲かっているうちに、大先生にお願いして新商品を開発して貰う」とおっしゃる経営者がいたとしたら、その考えは間違いです。
 人件費の次に大きな開発予算は、研究開発設備ではないでしょうか。ですが変化の激しいとき、設備自体の陳腐化や研究開発テーマの急な変更などにより、高級な設備が不要になることがあります。ですから予算面で研究開発設備は、経営資源を固定化する減価償却費とするよりも、長期リースや短期レンタルなど、一般経費に組み込いれることを考えるのが得策かもしれません。

〔決めるときが肝心〕
 予算管理を窮屈に感じさせるもう一方の犯人は、予算要求から決定、実行、記録、統制といった、一連の手続きが面倒なことでしょう。
 まず、予算要求です。これは予測のつく限り、できるだけ「細かく積み上げ」させるべきです。そして決定と実施及び統制は、全体の大枠で融通を効かせながら管理するのが、研究開発における予算管理のコツになるでしょう。「的を大きくとって射させる」ため、まず「あらゆる可能性を広く予測」して、『的を大きく』とるのです。
 ところが多くのケースでは、予算を大まかに要求させます。これでは『的はずれ』なのですが、そのくせ実施段階で「稟議書を提出」させたり、内容を細かくチェックしたりします。この手順は「的を大きくとって射させる」のとは、まったく逆だというべきです。
 予算を細かく積み上げるためには、テーマの内容とその攻略方法をかなり練らないと、金額の予測がつきません。また予算要求時に、開発実施者が「テーマの細かい内容と、その攻略法の予定」を展開してくれると、トップにとっても「事前に判断するための情報」が伝わり、安心して予算を承認できます。
 こうしておくと確定した予算は、実施段階で予測のつかない事態が起こっても、後で「ストライクを取って」くれるよう、予算執行のリーダーに任せることができるわけです。
 予算というと、有名な格言が「入るを量りて、出ずるを為す」です。しかし、これは官庁予算など税金で賄われる予算のことです。たしかに、出ずるを先に量られて「これだけ必要だから」とばかり、どんどんと税金を取られてはかないません。
 したがって初めに、どれくらいの歳入があるかを計ってもらう必要があります。つまり「国勢に合った予算」を組むことです。ですから赤字国債の発行が、前提になった昨今の国家予算は、まったく論外だというべきです。
 それはともかく、企業経営の研究開発予算に関する格言は、図表6-8のごとく「出ずるを量りて、出ずるを制す」です。つまり支出は極力抑えなければならないのですが、必要と予測される研究開発予算の最低限だけは確保しないと、『開発業務の基本が進展しない』ということです。
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 その意味で「総枠、一律何%カット」式の予算決定方法は、官庁の予算編成では仕方ない場面もあるでしょうが、企業経営では戦略的予算編成にならないのです。だからといって、『研究開発費の垂れ流し』は絶対にだめです。結局、出るべきものは十分に量らなければならないのですが、なおかつ出費も、セーブしなくてはならないというわけです。
 オーバーな表現をすれば、新製品開発や新商品開発は企業が必要とするばかりでなく、社会経済的なニーズに基づくものです。売れる新商品、つまり人々の欲する新商品が生まれ、市場に供給されれば経済社会が潤ってくるのです。
 ですから行政機関でも、新商品開発のための経営資源のうち、少なくとも資金面では力の劣る中小企業に対し、各種の補助金や融資、税制上の優遇策などの支援策がとられていることを頭の隅においておくべきです。


6-4.開発スケジュールとは

〔期間管理は価値を生む〕
 『時は金なり』は、企業経営のどの場合にも当てはまるのですが、特に研究開発において『時は大金』です。
 例えば、発売が時期尚早で売れないこともあるでしょう。逆に、あきらめていた開発品が、忘れたころに売れ始めることもあります。が、それらは生きものである市場の、成熟度と開発時期のタイミングが違っただけです。
 また仮に、開発のタイミングが早すぎたとしても、依然として「他社に先駆ける優位性」に変わりはありません。ですから、計画を立てて実施段階に移った開発テーマは、とにかく早く完成させることです。
 古い記録で、著者のご芳名は失念して恐縮ですが、1988年の日経メカニカルに「新製品の開発期間短縮法」という興味ある論文がありました。そこには、図表6-9のようなデータが載っていました。このデータは、機械製品と電子製品にかなりの違いがあるものの「開発遅れがいかに大きな損失をまねくか」だけは十分にわかります。いくら古いデータであっても、このような傾向が未だに残っていることだけは確実です。
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 開発遅れと早期開発は意味が違いますが、ある研究開発テーマを完成させるためには、相応の開発工数を要します。研究開発計画を立てるにあたり、ある特定なテーマへの投入パワーの計画は「2名を2年間投入」するのも「4名を1年間投入」するのも開発工数としては同じです。
 さらに、結果的に生まれてくる新商品が同一水準の品質であるとすれば、投入量対獲得利益額の比も計算上は変わりません。さらに「現在価値は早いほうが高い」のですが、開発に「2年かかる」のと「1年で仕上げる」のとでは、その他計算に表せない総合的効果は、マーケティング的先行利益もあって、実に「倍以上の重み」を示すというものです。
 開発期間の短縮技法では、コンカレント・エンジニアリングの概念があります。端的にいえばこれは、『直列的な研究開発工程』に複数の人材を投入し、時間的に『並列的な工程に変更』して「仕掛かりから完結までの期間短縮」を図ろうとする手法です。
 わたし自身がこの開発管理手法を試みたこともありますが、プロセス管理上難しい問題もあったので、ここでの詳述は避けることにします。

〔早ければ早いほど〕
 会社の技術活動のうち、生産リードタイムが伸びては困りますが、決められた期日より早く作る必要もありません。最も必要な要件はtime is moneyではなく、むしろjust in timeです。したがって製造部門では、同じ期間内に必要な『一定の生産量』を、できるだけ『少ない人員』で達成することです。それに比べると、人数を「増してでも期間短縮を図る」方が得策な研究開発の仕事は、正反対の特質だというべきでしょう。
 もしも開発期間が半減できれば、開発資金の利息や信用保証金などの資金コストや、間接費などの期間原価が半分ですみます。逆に、開発資金の現在価値は、新商品の発売が早まることにより激増させます。
 さらにリスクの軽減は「マイナス要素の減少」であり、逸速く市場を押さえて開発競争に勝つことは「プラス要素の増加」です。まさに図表6-10のとおり、宝の山が築けるというものです。
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 宝の山を手にするための開発政策としては、社外の『シンクタンクの利用』や『研究者アシスタントのアルバイト利用』など、露骨な言い方ですが「金で買える時間」は金のある限り買っても十分に取り戻せる理屈です。
 また「開発リスクは開発期間に比例して増大する」のですから、早期開発、短期間開発は、新商品が『成功する最大要因』になります。が、反面「拙速を尊ぶ」ことができないのも、新商品開発の特性です。
 そこでせめて「計画した期間内には開発を完了させよう」とするのが、開発計画が遅れがちの昨今の傾向として、スケジュール管理の意義深いところだというわけです。

〔管理者の役割〕
 研究開発の部屋を覗いてみると、やたらにお茶を飲んでいる奴がいれば、夜遅くまで捩り鉢巻きで実験する者がいるかもしれません。が、研究開発という仕事は、テーマの難易度や開発要員の資質など、多くの要素がからんでひとつの結果がでるため、ここで『お茶飲み組』はだめだが『捩り鉢巻き組』はよいと決め付けるわけにいきません。
 開発要員は、あたかも企業内の開発請負人みたいなものです。発注者としては「家の建て方」や「大工さんの仕事ぶり」は総て任せるから、要するに期日までに「目標通りの建築物を引き渡してくれればよい」というのが請負契約です。ですからつい、業務の進捗は総て請負人たる棟梁の自覚に任せます。
 それにしても開発プロセスの途上で、業務の進捗度がまったくわからず、期限がきてから「家は建ちませんでした」では、スケジュール管理の意義がなくなります。スケジュール管理とは、設定した目標期日までにテーマを終了させるよう『プロセスを誘導』することです。
 請負業の大工さんにだって「棟梁という管理者」がいます。開発者の自主管理は結構なことですが、開発業務が「いつ頃まで」に「どの辺り」まで進むという、プロセスまでおさえないと、スケジュールを管理することになりません。
 トップが自身で、業務の内容がわからなければ、開発計画の策定時にテーマ終了までの全プロセスを担当技術者に予定させます。「的は大きく設定」するのですから、管理目標である「終点はいつ頃か」でもいいのですが、ストライクゾーンだけは押さえておかなければなりません。
 そこでトップが難しいのは「ボールと判定」した後に、次のスケジュール段階までには、きちんと「ストライクを投げさせる」ことです。できれば、四球を出す前に取り返して三振を奪えるように「アドバイスし、リードする」ことです。
 つまり名監督としては、本人が自覚しているにもかかわらず『前にボールを投げた』ことを責めるより、開発技術者自身も気付かない『フォームの乱れ』を正してやらなければなりません。それこそ管理者が、管理者としての『腕のみせどころ』だというものです。フォームの矯正方法は、重要なポイントなので次に述べることにいたします。
以上、第22回につづく

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