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成功する企業には新商品開発がある

                                    第20回  山﨑登志雄


6.開発管理の要点
- 新商品の果実を結ぶ -

パート6のポイント

[開 発]開発管理のコツをつかもう
 開発管理は重要な経営機能です。が、技術がわからない管理者側にとって新商品開発のマネジメントは、開発者の自主管理に「任せてしまいたい」と思いたくなるくらいに、厄介に思えるものではないでしょうか。
 しかし、開発自体はたしかに技術行為ですが、開発業務も企業経営の一端であるに違いないのです。そのかぎりにおいては、管理対象から新商品開発を抜きにしたり、開発者任せにしたりするわけにはいきません。
 情報収集にはじまり、アイデア開発に基づく新商品企画を実際の商品にするまでには、開発環境を整備し、開発プロセスをコントロールし、ときには開発計画に修正を加えることでさえ必要になります。
 また開発が完了した時点では、商品自体に販売力が宿るように仕向けなければなりません。そのためには、理想的な開発のP-D-C-Aサイクルを築いていけるように、会社の総力を商品開発に注いでいくのです。

6-1.開発環境の整備

〔経営者精神と技術者意識〕
 企業は、人・モノ・金・情報・技術といった資源を最大限に活用しつつ経営を進めます。研究開発についても、技術者、施設、設備、開発資金といった、この分野専用の経営資源が注ぎ込まれる環境のもとで、新商品を生み出していかねばなりません。
 その経営活動の中において研究開発環境は、やや理想的な感がありますが、図表6-1のように考えられます。程度の差こそあれ、このような開発環境の整備は会社が主体となって、推進しなければなりません。
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 とはいえ、図表6-1は「国の試験研究機関」の、しかも「基礎研究の進め方」においての理想ですから、中小企業の目からみれば『雲上の戯言』に聞こえなくもありません。
 ただこれが項目、内容ともによくまとまっているので、ちょっと古い概念ですが引き合いに出しました。しかし「こうでなければ研究開発はできない」といっているのではありません。むしろこれらの諸条件と内容は、開発環境を考えるうえでの、一種のチェック・ポイントいわば留意点だと思っていただいて結構です。
 さて会社が考える、効率的な経営資源の投入は、なんと言ってもまず開発資金です。これは純粋に研究開発に要する資金力だけでなく、開発対象たる新商品や新サービスが「稼げる」ようになるまでの『運転資金』すなわち『つなぎ資金』もみておかねばなりません。
 開発に投入する資源は、成果との因果関係が確実にあります。ただ研究開発の成果は、無数の要因が絡まった結果として現れるため、投入資源の大きさだけで「成果を測る」ことはできません。しかし逆に、投入資源と成果の間に「因果関係が全くない」つまり「頑張りさえすれば、必ず良い結果が出る」というような、安易な答えは絶対にないのです。
 要するに図表6-2のように、開発への投入資源と成果の間に必ずしも因果関係がない中で、開発者の頑張りにベストの成果を引き出させるために、いわゆる「マネジメントの巧拙」が効くのです。
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 会社の開発投資には、いろいろな形態があります。場合によっては、優秀な人材の引き抜きをするために使われるかもしれません。何はさておき、閑静な環境に「中央研究所を設置したい」と考える経営者もいるでしょう。
 研究開発者には、豊富な調査費、実験材料費等の試験研究費を使わせていると思える会社もあるはずです。が、残念ながらこれらの開発資金には「これだけ投入すれば」「これだけの成果が上がる」という保証がありません。
 しかしそれは当然であって、もしも『投入成果が数値的に表示できる』なら、この世に失敗とかリスクという言葉がなくなります。経営の神様や伝説的な名経営者もいなくなれば、逆にお金のないベンチャー起業家の努力など、世の中に必要としなくなります。だからこそ、中小企業には新商品開発が、大企業と十分に戦える成功要因になるわけです。
 ただ、ベンチャー企業の親父さんが『命を懸けたねじり鉢巻き』で、ヒット商品を開発したエピソードは、たしかに多くあります。これには多少の誇張があるにせよ普通の会社では、開発環境を顧みずハングリー精神だけに、成功を求めていいわけがないのです。
 人間は誰でも「いい仕事をしたい」のですから、技術者には個人的な自己実現欲があるものです。中には「研究開発の仕事が飯より好き」な人もいますし、時には思考の集中度を増すために、ハングリーな環境で「背水の陣を敷いて頑張る」人もいるでしょう。
 しかし「どんな環境でも頑張れ」というのは、経営者の論理です。一般ビジネスマンには、いわんや昨今の若者には通じません。だからこそ新商品開発管理の、企業経営的な意義があるのです。

〔投資水準の決定〕
 贅沢な開発環境の整備を望めない中小企業では、開発投資について「とても無い袖は振れない」ことになります。が、分相応なレベルの内に開発リスクを避けて、ヒットを飛ばした事例は、エピソードがあるだけではないのです。
 どんな事業でもやがてそれを、大きなリスクに耐えられる規模に成長させていく道は、随所にあるものです。
 たしかに、分相応なレベル以外に「無い袖は振れない」のですが、新商品開発のためには「あらんかぎりの袖」を振らなければなりません。では、どの程度までなら「袖が振れる」か、投資水準の考え方です。
 データとしては、試験研究費の『対売上高比率』などをよくみます。特に高度成長期の経済誌などに、よく見られたこんな番付表などは、開発投資のひとつの目安となり業種別特性などがよくわかる指標です。
 またある経営者は「利益の半分が税金だから、税金で払う部分を研究開発投資に回せば、同じ投資額で倍の研究ができる計算だ」といっていました。が、これでは開発投資の資金計画が全く立たないばかりか「利益をあげるため」の商品開発が「利益をさげるため」の行為になってしまいます。
 投資水準を決める意思決定は、こんな錯覚がでるくらいに難問です。これなら「もてる袖を目一杯振る」という、抽象的な研究開発の投資水準を述べるにとどめた方が、まだましだというべきでしょう。
 結局、開発費の投入水準は、各企業別の与件を考慮したうえで、独自に意志決定するよりほかにないのです。要するに、経営者の『ハラで決める』ということです。

〔研究開発施設の要件〕
 研究開発施設は、投入資源を長期にわたって固定化します。分不相応な中央研究所の設立は、多額の資金を眠らせます。この不況期でなくても、そんなことは誰でも知っています。が、成功した中小企業経営者には、小さな研究開発施設でも持ちたいという憧れも見得もあるものです。
 それはともかく施設の立地は、情報収集に最適の地が一番だということです。しかも情報に直接触れられる、研究開発環境が最適立地です。たまたま社長が所有する別荘地が空いていて、研究開発にいい環境だからと、ささやかな研究所を設立しました。が、喜ぶはずの技術者は誰も、行きたがらなかったという実話を知っています。
 また仮に、筑波学園都市や大学立地などへの進出を検討するとすれば、会社がよほど確たる新商品コンセプトをもち、それを「中長期に継続追求」する覚悟がなければなりません。進出目的がはっきりしないと、会社が損するばかりか、派遣された技術者本人も「環境が醸し出す重圧」に潰されます。
 開発情報として、ウエイトが高いのは市場情報です。消費財商品の市場情報は別荘地ではなく、人口集積地に多く集まるに決まっています。消費者に直に触れて得る情報は、変化が激しくかつ急速です。いくら広々とした業務環境でも『山篭り状態』では、インターネット時代でさえも世情音痴に陥ります。
 これに対し技術情報は、日進月歩の変化があるとはいえ、研究機関や大学など情報のある場所へ、必要な時期に出掛けて行って、集中的な収集が可能です。また新商品開発が技術情報から始まると、プロダクトアウトの弊害に陥る危険性もあるわけです。
 「門前の小僧が経を覚える」式の情報接触機会は、技術情報よりもむしろ市場情報の方に必要です。研究開発施設は情報収集に適した場所にあることが設置の要件であっても、その情報は必ずしも科学技術情報だけではありません。


6-2.開発管理の手法

〔管理嫌いのわけ〕
 研究開発の管理は、大変難しいといわれます。研究開発には、よい管理手法がないから「当事者に全面的に委ねる」というトップさえいます。要は、技術者の良心と自覚を重んじた「自主管理に任せる」というのでしょう。一方、技術者サイドでも管理という「言葉さえ嫌い」だという人もいます。
 ですから「自由にのびのびと研究」してもらいたいトップと、「やりたいようにやらせる約束だった」といきまく技術者が登場するわけです。が、このような発言は、研究開発業務が会社の一機能として捉えられていないのです。
 いまさらですが、管理というものは計画、実行、統制つまりPlan Do Seeの三要素がセットで構成されています。ですから「自由にのびのび」に反しそうな『統制を外す』のでは、計画からして無用になります。ただ「実行あるのみ」では、研究開発という仕事が、会社経営の概念から外れます。
 管理ははじめに計画があり、それに照合して実行した結果を評価し、統制につながります。が、研究開発業務を的確に評価することは、たしかに難しいのです。
 研究開発の現場では、試行錯誤の中で『思わぬ発明・考案もある』代わりに、思わぬアクシデントに見舞われて『何も残らない』こともあります。
 しかし『のびのび』や『自由勝手』は、統制の「緩め方の問題」に過ぎないのです。緩めようが、厳しかろうが、統制は統制です。そこで図表6-3のように「ストライクゾーンを大きくする」から、三振を打ち取るほどの剛速球を「思い切って投げてこい」というような、管理態度が提唱できるというものです。
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 ストライクゾーンがいくら広くても、ストライクはやはりストライクであり、ボールはボールです。ストライクとボールの『評価』、『判定』をしなければ野球になりません。

〔計画策定のポイント〕
 計画の構成は、他の経営計画と基本的に同じです。つまり一般の経営計画と同様に、図表6-4の類別があるわけです。
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 これまでのプロセスからすれば、開発計画の場合、あらかじめ新商品企画書ができています。したがって計画の内容は新商品企画を、より具体的にするするための『情報を追加』すればいいはずです。
 このうち長期計画は、会社の将来を規定する『考え方』に過ぎませんが、中期計画は具体的な実行計画ですから、経営計画の中では最も重要な位置付けになります。ただ、いつまでも開発上の諸問題、特に新技術導入や標的市場の問題が解決できず、「結果的に中期にわたる」ものが、中期計画ではないことです。このような場合は、その個別計画を一旦中止にすべきです。
 研究開発計画は、要員計画、開発日程、開発予算などで構成されます。が、その内容の細かさは、どこまで設定するかが『策定のコツ』になります。先の「的を大きくとって思いっきり投げさせる」管理方針から、計画内容は「詳細緻密に固め」あげることはしません。図表6-5の要領です。
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 計画で最も難しいのは、研究開発対象である新製品イメージを「どの程度まで具体化した目標値にするか」です。目標値の具体的項目としては、製品分野やサービスのジャンルによって異なってくるでしょうが、図表6-6のような事項が考えられます。
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 これらの項目は、既に企画書に5W2Hで大ざっぱに記載されているはずです。また、アイデア評価段階で再度検討され、開発内容が詳細になっています。したがって開発者に対する目標の付与としては、それらの事項を表すだけで十分でしょう。
 しかし、いよいよ開発を着手する段階で「計画目標設定会議」とか「新製品仕様検討会」などを開いたら、営業部門が「数段厳しい仕様」や「サービス形態」または常識破りの「低い売価水準」を要求したとします。
 それならとばかり「開発要員の増強」や「期間の延長」「予算の枠増し」または「目標スペックや予定価格変更」が、後で必要となるのでは、せっかくたてた計画が無意味になります。
 ですから、開発初期段階の修正は不要です。その理由は、開発計画が『走りながら考え』なければならない性質があることです。研究開発過程では、修正を余儀なくされることがよくあるものです。
 一般の経営計画が「どうせ後で修正するのだから」と思われるようでは、「ない方がまし」になるかもしれません。が、ある程度の修正が前提であっても、研究開発計画はなければならないということです。
 研究開発管理が難しいから、大きなストライクゾーンを設けるのです。それを第一球でホームラン性の大ファールを打たれたからといって、すぐにルールを変更したのでは、次に投げる球がなくなります。

                                     以上、第21回につづく

追 記
 KJ法を開発された、川喜田二郎先生が’09年7月8日、89歳でお亡くなりになったという報道に接しました。
 この『成功する企業には新商品開発がある』において、KJ法については’09年5月27日アップの第17回 4-3発想技法とアイデア開発の『図表4-11-2その他やや専門的な発想技法』の最後に、ちょっとご紹介しています。
 その他では、’09年6月27日アップの第18回 4-5新商品イメージへの接続の『図表4-17個々のアイデアを図表に描いてまとめる』の事例が、KJ法の形式を引用させていただいたものです。
 謹んで、哀悼の意を表します。

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2009年07月27日 10:34に投稿されたエントリーのページです。

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