成功する企業には新商品開発がある
第19回 山﨑登志雄
5.アイデア評価は企画書で
- 新商品には優れた苗だけを -
5-2.アイデア評価のポイント
〔入・出力の大きさを見積もる〕
アイデア評価は、企画書に基づいて行われます。企画書に書かれている商品と市場の5W2H情報は、投入と成果の対比を評価の基準にします。つまり、新商品の『開発投資や市場導入費の投入額』と、新商品開発によって『獲得可能な利益』の比較です。
まず、投入のレベルです。開発投資額の大きさは、会社によって「投資し得る額」が自ずと決まります。が、はじめに「投入額は1千万円以内」といった、提案に対する評価基準があると、重大な機会損失を招く恐れがあります。本当に「儲かるアイデア」が提案されたのなら、「借金をしてでも実現させる」べきです。
インプットとアウトプットの比率関係で、開発投資は過去の実績から比較的容易に割り出せます。したがってまず、開発成果の確からしさを点検しなければなりません。新商品開発の成果を利益におけば、【利益 = 販売数量×(単位売価 - 単位原価)】です。
このうちまず、原価は過去の実績から比較的容易に想定できます。しかし新製品に「どれくらいの販売価格が設定できるか」となると、需給関係の中で競争条件の変化があるため、容易に推測できません。
販売数量は、新商品の対象市場に存在する総需要と、自社商品の占有率で決まります。この占有率を上げるために新商品を開発するのですが、売価の設定はその占有率を左右するという、因果関係があります。が、客観的なデータベースなどを引用し、総需要の調査ができれば「販売数量の予測」は、売価設定ほど難しい問題ではありません。
仮にこの見積もりが、いくら難しい問題であっても、具体的な計画を立てるときは、開発目標として設定しなければならないものです。ですからアイデア評価段階では、企画書に記載された大雑把な総売上高予想から、開発成果を推測するよりほかになくても、仕方ないでしょう。実行段階ではこの売上高予想が、販売目標にもなるのですから。
ただ同じ売上高でも、どの時点をとって比較するかの問題が残ります。このため、複数の企画を比較評価する場合は、開発費を売上高によって「何年間で」取り戻せるかを判断し、相互の優劣を決めることがあります。回収のパターンは図表5-4の概念です。

〔絶対評価と相対評価〕
企画書に記入される情報は、荒削りの不完全なものにすぎません。ですから評価者の方でも最後は、図表1-11のように K、D、U つまり『勘』と『度胸』と『運』を頼って判断せざるを得ない要素が、多分に含まれています。
投資成果を予測するのが難しい技術者やセールスマンへの『教育投資』や、広告宣伝費のような『販促投資』は「投資効率だけ」が問題です。つまり投資額の決定も含め、効果的な方法や手段、タイミングの選択が、投資効率を決めるというわけです。
しかし開発投資の場合は「完全に失敗する危険性」があります。つまり教育や販促への投資は、効果に大小があってもゼロということはないのです。が、開発投資はONかOFFであって、効果がゼロのケースさえあります。このような開発投資の不確定要素は、完全にカバーできる最適な評価方法がありません。
そこで実務的には、数ある企画の『代替案』の中から「より好ましいアイデアを選ぶ」比較評価法が使われます。アイデアは、多ければ多いほどよいとされるのも、選ぶ範囲が広がって安心できるためです。
一般的に代替案の評価理論は、絶対評価の正当性がいわれます。が、提案アイデアを絶対評価すれば、たったひとつの提案も十分に審議できます。また多数のアイデアが、開発能力を越えてまでも、全部採用しなければならない事態も起こります。
逆に会社の開発投資に余裕があっても、採用できるアイデアがない場合もあるわけです。絶対評価には、「次善の案」というものがないから、ここはやはり相対評価でいくべきです。
しかし評価を受ける提案者は、「絶対評価を受けるつもり」でなければなりません。提案者側の意識が相対評価なら、誰しも自分のアイデアが可愛いから、採用案と非採用案との間では、『提案者同士の葛藤』が起こります。
この葛藤は、競争社会で「今度こそは」とばかり有効にはたらく場合もあります。が、多くの場合は「社長の親戚だから」や「どうせ俺なんかは」といった妬みや僻みなど、好ましくない方へ向かいます。
葛藤が起こる理由は、責任と権限において「評価を受ける者と評価する者」の意識が、混同されているからです。例えばベンチャービジネスなどで、ワンマン社長が評価者と非評価者を兼ねる場合は、厳しい絶対評価をしないと、『己の愚案』をもって大切な経営資源を消耗させてしまいます。第三者的な立場から、そんな事例も診たものです。
〔開発リスクと評価基準〕
アイデア評価では、時間の要素を考えます。つまり図表5-4のように、開発投資と成果の間にタイムラグがあるため、両者の比較評価には時間差を配慮するのです。
企業会計がワンイヤールールに則って、1ヵ年以内に決算しなければならないのですから、研究開発費は『繰延資産』にしないかぎり期中の損失です。が、多くのケースで開発成果のほうは、2年後とか3年後でないと利益に計上されません。
さらに投資資金には、回収終了まで利息等の資本コストが追加されます。同時に、時間の経過とともに、『期間原価が増大』するばかりか『強力なライバルの発生』や『急激な市場環境の変化』など、リスクはますます増大するのです。
ところがリスクの大きさというものは、容易に評価できるものではありません。が、図表5-5のように考えることによって、リスクが「時間との関数」で表せるであろうと思っています。

つまりリスクに関連した入出力比の評価基準において、開発期間という時間要素を絡めると、『短期決戦型』と『長期展望型』とでも言うべく、二つの評価態度が方向付けられます。図表5-6の区分ですが、新商品開発には「わが社の救世主」的に意気込むところがあって、かっこいい長期戦展望型の評価態度に走りがちです。

危険を冒せば冒すほど儲けも大きいというのは、シルクロードのキャラバン隊に通用しても、現代の新商品開発には通じません。ですから長期戦展望型の勇ましさが、必ずしも「上手いアイデア評価」というわけにいかないのです。
この評価態度によって、現在の企業を支えているベースの製品や売れ筋商品が、経営資源の分散によって弱体化でもすれば、勇ましいどころか惨めです。
しかし反面で、アイデア開発は「大いに夢を抱け」とハッパをかけてきました。ですから評価段階になって、夢を砕くような現実に戻ってしまうのはどうでしょう。
二つの評価態度から「短期の防御」と「長期の攻撃」のごとく、開発テーマをミックスして選ぶのが理想です。が、開発資源が不足がちの中小企業が、能力を遥かに越えた開発テーマを抱え込んだのでは理想どころか、消化不良の現実に悩みます。
結局ここでの判断は、平たくいえば「投入費用回収期間まで会社がもつか」ということです。それが会社の『リスク耐力』ですから、総合的な判断基準は会社を「永続的な発展」に如何に導くか。これに尽きるのではないでしょうか。
5-3.動機づけに活かす
〔評価票の作成目的〕
アイデア評価は、記録に残せる『評価票の形式』で、ペーパーを用いて行います。が、企画書と評価票は、後世に残す意味が違います。
評価の基本は企画書の内容を確認し、企画書相互の利益率を比べることです。が、テストの答案用紙に採点するように、企画書の中に評点を書き入れるのはいけません。評価票は特定のフォーマットを、別に準備すべきです。
ただ企画書が、時期を失することなく「アバウトの情報」で十分だったのに対し、評価票は提案審査だけを目的にしていません。ある新商品アイデアは評価の結果、開発テーマになると、終了後の実を結ぶまでの期間が長期にわたります。
その間、市場環境の変化を何度もチェックし、急激な市場動向があれば、開発テーマそのものを見直すくらいでなければなりません。要するに、開発テーマを評価し直さなければ開発が終わる頃、売れる新製品になっていないかもしれないのです。
そこでチェックすべき項目は、テーマ終了までのすべてを想定して網羅しておくと、そのチェック・リストが開発過程の各ステップで使えます。図表5-7は、その評価項目をリストにしたものです。


このチェックリストが、図表5-1に提示した5W2Hよりも、やけに細かくなっているのは、欲張りすぎたのかもしれません。が、実務的にどこまでをチェックするか否かはともかく、これくらいの項目があるべきだということで網羅してみました。
アイデア評価票は、このチェッリストをもとに作ります。もし評価ステップ毎に用紙を分けて作るなら、新商品評価と新技術評価が4ステップずつなので、8種類ができることになります。市場性評価と長・短所評価を分けるなら、全部で16種類にもなるため、自社で大切だと思える事項だけ、ケース・バイ・ケースで選んで利用してください。
評価票に「項目」「ポイント」「方法」を全部記入すると、例えば開発見込みの難易度などをウエイト付けした「評点」の欄や、評価者の「コメント」欄が狭くなるでしょう。このため共通のチェックリストは全項目を網羅した一種類を作ります。そして項目以下の三欄は記号化し、用途別に8または16種類の白紙に近い評価票を作れば、A-4版一枚に納まり記録や保管が便利です。
また、短期決戦型の目で評価すべき新商品イメージと、長期戦展望型の目で評価すべき新商品アイデアは、評定の日程を分けるといいでしょう。そうすれば、両者の重要性が区分されて評価できるのではないでしょうか。
〔評定の苦しみ〕
評点は、評価票を前において企画書を見ながら、一件ずつチェックして付けます。が、実はこれがまた、大変な作業です。
大きな組織では、部門ごとに一次評価をします。ある程度ふるいにかけた後に、選択されたアイデアだけを上層部にあげ、最終評価を求めることもできるでしょう。
また評価者の側では、意志決定することも大変です。が、開発、生産、営業など、それぞれの思惑が違う各部門の関係者が集まって「小田原評定」に陥ってはなりません。
中規模企業になると、評価票を『集め』『集計』し、結果を『再評価』するといった単純事務作業だけでも、大変な量になるでしょう。が、これを機械的に処理するだけでは、アイデアを「コンピュータ占い」か「人気投票」にかけているようなもので、当事者の意思が介在しなくなります。
アイデア『開発』と『評価』の過程は、会社にとって「実務者を動機づける」絶好のチャンスです。中には「下手の横好き」もありますが、一般的には「好きこそものの上手なれ」が、ものごとの道理です。
研究開発など「評価以後のプロセス」で、担当者が惚れ込んで提案する場合は、開発業務だけでなく会社の業務全体の効率が上がるものです。人間のやることは、何事も気が入ってやれば上手くいくことの証があるからです。
開発者は自分で「やりたいテーマ」が、同時に「会社の目的に適い」、会社の「トップがそれを容認」する、三拍子揃った状態が、新商品開発で最も大きな成功要因になることに間違いはありません。まさに図表5-8に示すごとくです。

世間にあるピソードには「開発研究者がトップの反対を押し切り、夜中にこっそり実験を重ねて新商品開発を成功させた」結果「トップにアイデアの素晴らしさを認めさせた」というような話もあります。
また『おらがアイデア』で『おらが開発した』んだから、「利益の半分はいただく」などとの主張が、マスコミを騒がせます。が、この開発活動に伴う最終的な「結果責任はトップが負う」のが、厳然たる企業の論理です。
平たくいえば「会社の経営資源を活用」して「開発活動を展開」する結果、「大損をして」も「大儲けをして」も、後始末はアイデアの評価者たるトップが執るのです。「大損の補償」をアイデアの提案者に追及しません。
ですからどうしても、提案者と評価者の「イメージが一致しない」新商品アイデアのときは、トップの意志を通すよりほかにありません。その場合は、まずトップ主導で実務者を説得して解決しなければなりません。これに対し実務者は納得という形で納めるべきです。
このときトップは、開発や市場開拓に現場ではたらく実務者を、説得するだけの情報把握が必要です。トップの単純な好みや山勘で「損をするのは自分だから、命令に従え」と感情論で迫るのは説得ではなく、実務者の納得が得られるはずがありません。
いくら「責任は自分でとる」といわれても、責任をとるのは経営者として当然のことです。そして部下が「感情論で強制された」と思うかぎり、結果的にその新商品が成功しても、後にしこりを残し生産にも販売にも支障をきたします。仮に失敗でもしようものなら、強制された方は「俺の人生どうしてくれる」と開き直ることになるでしょう。
開発担当者には、職務を通じて社会人としての『自己実現を果たす権利』があります。このような上下関係のあり方が、産業民主主義というものです。その主権者の一人としては、評価時点の意見を別にして納得するかぎり、やはり「成功の美酒に酔いたい」ものです。特に今の若い人達は、この人間として当然の気持ちをはっきりと表します。
時代はいつであっても、新商品開発や新市場開拓は、意志をもった人間がやる仕事だからです。むしろ、評価者たるトップも被評価者たるフォロワーも、自分の考えに対して葛藤が起きるくらいの『信念と誇り』をもって、けんけんがくがくの討論をすべきです。
評価段階で、このようなプロセスを進行させることが、評価票を作るうえでの本当の意義なのでしょう。そしてアイデアの評価者も被評価者も、十分に納得があれば次のステップである研究開発へと進まなければなりません。
以上、第20回につづく



































