2009年12月22日

成功する企業には新商品開発がある

第25回  山﨑登志雄

7.販売ルートの考え方 - 新製品の収穫を得る -

7-2.ルートへの攻勢

〔販売促進策をもって攻める〕
 大メーカーは資本力にものをいわせ、新商品を大々的な宣伝広告によって市場浸透させてきます。この直接的なはたらきかけだけで、消費者やユーザーが「新商品の存在を知り」十分に売れるなら、販売ルートまたはマーケティングルートへの新商品攻勢は後回しにしてもいいわけです。
 たしかに商品というものは、消費者やユーザーに『知られなければ』売れません。が、『知られるだけ』で売れるとはかぎりません。特に新商品は、ルートのパワーがプラスされないと売れないのです。
 その理由は明白で、商品が店先や販売員の手によって、消費者やユーザーに直接「見たり、聞いたり、試したり」させないと売れないものだという、ただそれだけのことです。
 商品の存在を知られることで、消費者やユーザーの『購買意欲』は喚起できます。が、さらにその上に売り手の一人ひとりが、購買意欲を満たすための積極的な売り込みをしないと、『購買行動』までは起きてこないというわけです。この売り込み即ちセールスこそ、ルートパワーの本領です。
 しかしまた、売り手側からの強力な売り込みがなければ、買い手側としてのルートに「仕入れ行動が起こってこない」のは、メーカーとルートの関係においても同じ理屈です。
 他社ルートを活用して新商品を売りたければ、メーカーはまずルートに『売り込み攻勢』を掛けなければなりません。そして消費者やユーザーへは、ルートが売り込みを掛けるという連鎖です。これが新商品をルート販売する手順です。
 ルートは「自分でも新商品を売りたい」パートナーですが、ルートより「もっと売りたい」メーカーが、自身がもてるすべての販売促進手段をもって、攻勢をかけなければ売れないということです。
 ルート攻勢には、図表7-9のような販促活動を繰り出すわけですが、手段の体系としては、消費者やユーザーへの販売促進手段と同質です。
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 異質な点は、攻勢をかける『対象範囲』と『タイミング』だけです。不特定多数の消費者やユーザーへは、浅く広くはたらきかけ、狭い範囲の特定なルートへは、『素早く』『深く』攻勢をかけるのです。
 ここで、価格政策を物的販促に入れるのは、異に感じられるかもしれませんが、平たくいえば『卸価格の設定方式』による販売促進のことです。価格政策のアレンジが、ルートに対する刺激になることだけはたしかです。
 ルートに対する販促策で最も効果的なのは、何といっても『人的販売促進』です。ルート側からみれば、新商品が売れるような指導・支援が欲しいのです。いくら卸値の割引率が大きくても、ルート側は「売れなければ粗利が稼げない」のです。
 ですから新商品の生みの親であり、かつその「売り方をよく知っている」メーカーの販売員に、売り方のコツのような『勘どころ』を教えて貰いたいのです。
 人的販促はどんなケースにおいても、人件費がかさむ『最も高価な手段』です。したがってメーカーは、自社ルートの販売員をもって他社ルート、すなわちディーラー側に多数いる販売員にはたらきかけます。
 消費者やユーザーには、ディーラーの販売員を通じて「間接的にたらきかける」形態が、メーカーとルートの連鎖的な販売活動になるのです。
 マーケティングとは、どんな企業にとっても最も重要な情報活動を意味します。ルートに対するセールスプロモーションは、人的販促と物的販促の情報活動をミックスし、相乗効果を狙います。
 事実、メーカーが「よくPRしている商品」は、ルートも強い関心を示し、メーカーの販売員は出張先のルートにおいて、新商品の普及活動がし易いということです。

〔情報キーマンを攻略する〕
 攻勢のきっかけは、ルート側の「馬を射る」ことです。ディーラーの社長や営業本部長など、トップ自らが興味を示さない新商品には、第一線のバイヤーやセールスマンが興味をもつはずがありません。
 その理由は、新商品販売によって「新しい利益源を確保」しようとするのはトップだということです。日常業務が多忙な第一線の現業セールスマンは、新商品の導入に対して保守的になりがちです。
 それはともかく、ここで「将を射ろう」とすれば、その馬はこちら側の「将が射る」必要があります。それが、いわゆるトップセールスです。
 トップ同士の合意があればメーカー側の現場が、ルート攻勢をやりやすくするのは当然です。が、現場の考え方は、図表7-10に示すように、これだけで必然的に変わるほど生やさしいものではありません。これを突破する仕掛けが、現場キーマンの存在です。
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 新商品導入の取り掛かり点で、普及活動をリードするキーマンが、ルートの拠点それぞれに最低1名でも居てくれれば助かります。キーマンが文字通り『核になって』、拠点の守備範囲内に「情報を伝播」してくれるからです。
 各々のキーマンが、次のキーマンを育ててくれれば、『ねずみ算的』に新商品がわかる販売員を増やします。ですから先ずキーマンをみつけて、重点教育することです。
 問題は、標的とするキーマン候補の動機付けです。標的は個人ですが、あくまでも他社ルートの一員ですから、個人的なリベートなど「金品の供与」を動機付け手段に使うのは絶対にいけません。
 新商品開発を機に新ルートを開拓するのなら、そのアプローチ段階で担当キーマンをトップに指名して貰う手もあります。が、そんなことをせずとも、ルート社員の中に新商品に興味をもちそうな人物は、平素のルートとの付き合いの中で目星をつけておくことです。

〔身方はあざむかない〕
 新商品や新サービスに関する教育原点は、メーカーからマーケティングルートへの商品知識の『移植』です。そのネタは図表7-11のような体系になるでしょう。が、問題は下線したように『標準原価』や『価格政策』、さらに『ウイークポイント』までも、ルート教育に取り入れることの真意です。
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 第一線の販売員は、競争現場でライバルに「新商品の弱点」を突かれたときの防戦に困るものです。また「価格競争」に巻き込まれたときは、撤退ラインがわかりません。が、販売の現場で孤軍奮闘する販売員の商品知識は、市場に発信する最も濃い商品情報ですから、正確を期さねばなりません。
 もちろん近時は、社会問題にさえなる『欠陥商品』は、発売されるべきでない『開発未熟品』ですから、その内容は商品知識ではありません。が、価格政策や未解決課題などは、いずれも重要な企業秘密の部類です。
 ですからこの種の商品情報を移入するのは、販売員に諸刃の剣を与えるようなところもあるわけです。したがって自社ルートと他社ルートの商品知識教育は、使い分ける必要がでてきます。
 自社の販売員は、新商品企画の初期段階から参画させていれば、開発終了時期にはかなりの商品知識が吸収されています。特に市場関係情報は、開発の各段階で販売員が自ら、市場導入の予備調査をしていれば、ルート教育用の「セールスマニアルさえ自分で書ける」ほど、詳しくなっているはずです。
 また開発過程の『仕様検討会』や『DR:デザイン・レビュー』など、開発の各段階に販売員を参画させることにより、開発担当者と同じくらいに「自分で開発した新商品」という愛着心が生まれます。
 この愛着心が、新商品の市場導入にエネルギー源となって、商品知識を深めさせる相乗効果があるのです。当然、参画してきた販売員は、社外ルートに対するインストラクター(指導員)が務まります。社内ルートの販売員は、自分の商品知識を「ルート販売員に教える」となると、大いに励んで商品知識を身につけようとします。

〔技術的知識を身につける〕
 技術的な理解を要する商品知識は、「門前の小僧式」だけで身につくものではありません。ものによっては、改めてかなりの時間と経費を投入する技術教育が必要です。
 また、対面販売をしないような新商品や新サービスであっても、ルートの技術的商品知識は必要です。それは情報そのものが、本質的に「人から人に伝播される」ものだからです。
 どんなに詳細なカタログなどの『商品説明ツール』があっても、売り場の関係者が「まったく知らない新商品の情報」は、消費者や最終ユーザーまで伝わり難いこと確実です。
 たとえば東京秋葉原の家電量販店の販売員は、競って新商品を拡販しているためか、大変な商品知識をもっています。あの場で、お客様の質問に答えられないような販売員のいるお店は、新商品の市場導入をする資格がありません。
 かなり以前から、エンジニアリングセールス、コンサルティングセールスのため、セールスエンジニアの敬称をもった販売員が注目されました。このような販売員の技術知識は、ルート要員を開発か生産の「プロセスに繰り入れ」て、実作業を通じて『現場実習的』に技術知識を身につけさせるのは非効率です。また、開発・生産技術を知ることが、商品知識を身につけることにはなりません。
 そこで、ルートの技術教育は、逆の方向を考えます。つまり新商品の市場導入時に、開発や生産部門が販売活動の応援に行きます。この考え方は、コンカレントエンジニアリングの理念が入っていますが、中小ベンチャービジネスでは手っ取り早く、ピカ一技術者を販売現場に出向させているわけです。
 ただ、開発技術者や生産技術者が、新商品の「市場反響を膚で感じ」自身で「市場実態を把握する」意味でならともかく、この種のルート教育の方法には問題が残ります。なぜなら、せっかく「ピカ一技術者が来てくれて」顧客に説明しているのに、ルートの販売員は技術者と「同行するだけの道案内人」となり、自分の知識にする態度を示しません。
 技術的な説明は、横から聞くだけで容易に理解できないので、仕方ない面もあるのですが、わからないことを放置すると、新商品や新サービス自体の興味を失わせます。挙句は、秋葉原のような、優れた販売員は生まれません。
 したがってこの場合はレクチャーなどの形式で、あらかじめ『基礎的知識』を身につけさせます。基礎知識が入っていれば、技術者同行のようなロールプレイング(実演)方式の教育は、具体的技術知識の習得に効果を発揮するのです。ルートの販売技術教育はどうしても、それだけの「時間と費用を掛ける」初期投資が必要です。
 セールスエンジニアの養成に限らず、産業教育は図表7-12のような、体系的な『カリキュラム』、ドキュメント類をベースにした『テキスト』、目で見たり手で触れたりする対象となる『教材』、三つの要素が欠かせません。
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 たしかに「教育投資まで手が回らない」という中小企業は多いでしょう。が、その実態は、教育のための投資余力がないからではなく、基礎的な三要素が整えられないことの方が大きいのです。もう30年以上も前に、筆者がサービス技術のルート教育を四年ほど実施したときの事例を、図表7-12に重ねておきます。
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 産業教育には図表7-13のような特性がありますが、いずれにせよこの種の教育は、メーカーもルートもコストがかかるものです。反面、対象はルートに勤める販売員とかサービス員個人ですから、「育ってきた人に辞められる」という損失もあります。メーカーには『人事権』の及ばないディーラー側の結果ですから、この損失を止めようがありません。
 結局、産業教育の効果は「歩留まりで考える」よりほかにないでしょう。が、それでもルート教育は、新商品情報が十分に伝わるように継続しなければならないのです。


7-3.新規ルートの開拓方法

〔開拓のベースづくり〕
 新商品は、技術革新によったり新しいアイデアが創造されたりして生まれます。これに対して新市場は、従来から知られていた潜在需要が、新商品の開発や供給を認識することによって顕在需要となり、その集積が市場となって創成されます。
 しかしルートは、新市場が生まれた時点から、新商品販売への対応がやっと始まります。つまりルートは商品を『仕入れ』顕在化市場に『売る』ビジネス体です。顕在化市場に新しく形成された需要を『飯の種』とするわけです。ですから自らの商品をもって、潜在需要を掘り起こしていくのではありません。
 こういう構成ですから新規ルートの開拓は、今まで自社商品を流通させていなかった、既存ルートに「新しく取引を求める」ことを意味します。その意味から、自社ルート内に新市場開拓プロジェクトチームなどを創設し、新商品に対する需要創成の活動を始める場合でも、それが新規ルートの開拓になるわけではありません。要するに、新市場開拓と新ルート開拓は別ものです。
 またルートを強化するために、別途の新しいルートを開設する場合もあります。が、それは既存市場へのパイプを太くする補強策であって、自社に今まではなかったルートを、新しく開拓することにはならないのです。
 大企業の場合は、既存ルートを新市場に仕向け、結果的に新ルート開拓と同じ効果を生むことができるでしょう。しかし「マーケティング力が弱い」中小企業や、全く「販路をもたない」ニュー・ベンチャーなどは、従来活用し切れなかったルートに、自社の新商品を流通させて、新規のルート開拓をするのです。
 自社で「需要を創造したか」「否か」にかかわりなく、自社にとっては新ルートであり、新市場であれば、新商品が売れていきます。自社からルートへのはたらきかけは、図表7-14のルート側からみたメーカー群の一角に、食い込みを図ることです。
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 いわばルートが築いてきた独自の『市場』『得意先』『顧客』『個々のお客様』などと、『販売力』といった、ルートが独自にもっている「経営資源を利用させてもらう」のです。そのためにメーカー側のベース、つまりルートと自社の繋がりが「メーカーの経営資源だ」といえるまで、着実に築いていかなくてはなりません。

〔既存ルートに食い込む〕
 メーカーとしては、ルートが独自に掌握する既存市場に、自社商品を流通させて貰うためのはたらきかけをしなければなりません。このような『新ルート開拓』のケースは、大企業のシェアー争いや中小企業の新商品発売においても多くみられます。
 とはいえ中小企業の場合は、ルート開拓のベースに弱さが残ります。その基盤とは、自社そのものの存在や商品の『市場認知度』です。たとえば未開の市場に、新商品を発売するにあたって、自社が単独で需要を喚起し、特定の地域的な新市場を形成する必要性があったとします。
 必要性を満たすひとつの方法は、自社が「単独で開拓」した新市場を、逆に地域の販売業者に認知させます。そうすればむしろ、地域業者の方から取引の申込みがあり、定常ルートの関係が確立する可能性が高まります。地域の販売業者にしてみれば、メーカーが開いてくれた市場を譲ろうとするのですから、こんな上手い話はありません。
 しかしこの方法は、その地域に営業拠点があり、拠点から新商品情報を地域に「流し続けている」ことが条件になります。メーカーはまず、対象地域のルートにあらかじめ『渡りを付けて』おきます。そして「既存ルートとともに新市場を開拓する」のと同じ要領で、市場を開拓していくわけです。
 ただしこの場合も、メーカーに相当な名声でもないかぎり、容易なものではないでしょう。市場実績と名声があれば「あの会社が開発した新商品だから」という期待がルート側に起こり、新市場開拓に独自の努力を惜しみません。
 しかし地域に『会社自体の知名度』が低ければ、これから渡りを付けようとするルート側で、新市場の芽が顔をだしていることが確認できるくらいに、メーカー独自に地域の地ならし、つまり『発売前PR』をしておくようにします。
 そうでないと、ルートは容易に関心を示しません。やはり開拓のベースは『新商品の存在』が何らかの情報として、ルート側に知られていることが必要です。

〔ホームページとパプリシティの活用法〕
 新商品をルートに知らしめる有力な手法は、能動的なパプリシティと受動的なホームページ(HP)の活用です。このどちらの方法も、広告宣伝費科目の経費・いわゆる『販売促進コスト』がほとんどかからないので、情報量あたりのコストパフォーマンスに優れた手段です。ですから中小・零細企業が、新商品の市場導入にもっとも適した情報伝達手段といえます。
 とはいえ、プロのWebデザイナーにHPの作成を依頼したり、インターネットの検索エンジンに有料掲載をしたりする場合は、もちろんそれなりの販促コストがかかります。もちろんかけたコストに相当する宣伝効果は、それなりに必ずあるものですから、予算があればWebデザイナーや検索エンジンの「選択だけ」が関心事になるわけです。
 ガリ版刷りではあるまいし、新商品ポスターやカタログなどの印刷物媒体は、予算のない中小企業などでは、どうしても粗末なものにならざるをえませんでした。しかしHPの作成なら、ブログなどで日常的に鍛えた技術で、プロはだしのページがつくれる可能性が増しました。
 さらに印刷物と違ってHPは、自分たちでつくれるなら『速報版』でも『簡易版』、『詳細版』、『今週版』、『来週予告版』等々、原版もゲラ校正もなく安く直ぐにつくれます。
 また印刷物媒体は販売員が持ち運び、またはダイレクトメールなどによって配布のための経費も嵩みます。が、得意先名簿などのデータベースさえ整備できていれば、HPはメルマガなどによって無料配布することも可能です。
 ただディーラーのほうから「見にきてもらう」必要がある点で、受動的にならざるをえません。が、定期発行のメールマガジン(メルマガ)とコンビネーションをつけるなどの情報ミックスが必要です。
 このようなニューメディアによる新商品紹介に対し、オールドメディアとはいわないものの、従来から中小企業でもよく用いられてきたのがパブリシティであるわけです。新商品情報を欲しているルートの人々は、IT化時代に苦戦しつつも健闘する新聞・雑誌は、貴重な情報源であることに違いありません。
 ですから新商品がもつ『話題性』や『意外性』は、新聞や雑誌に掲載して貰って販売拠点のない遠隔地ルートの関心を誘います。いわゆる販促手段のパブリシティの活用ですが、その手順は図表7-15のような要領です。
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 メーカーに名声があった方が、パブリシティに載り易いのは事実ですが、現在の情報化社会では、名もないベンチャービジネスが一発のグッドアイデアをもって、新聞紙上で一躍名声を上げることもめずらしくないのです。また各種の専門紙誌もあるものです。
 新商品が新聞、雑誌へ公表された場合、市場に認知される効果は絶大です。つまり自前でつくったHP、いわば「手前味噌な情報」よりも、元のコンテ(contents情報内容)も「手前味噌なのに」全国紙だと、掲載当日の午前中は電話が鳴り通しといった経験があります。
 したがって能動的なパブリシティがかかれば、新市場が自然に開けることもあるわけです。が、それよりも多いのは、常に飯の種を追い求めているルートの目に、新商品情報が触れるのですから、名も知らぬディーラーからの引き合いも、十分にあるということです。
 また、できれば無料掲載のパブリシティに併せ、有料の広告を打って相乗的なPR効果を考えます。つまり、お客様がパブシティで新商品を知った後で、まだ微かな記憶が残っている内に、別に広告を打つのです。
 すると「ああ、あの新商品が広告に載っているのか」とばかりお客様と同時に、ルートにも「より深く認識してもらえる」というわけです。もちろんHPとの併用は不可欠です。パブリシティに載せうる情報量の何倍も、HPの方が多く載せることが可能です。要はパブで『引き付け』、HPで『虜に』するのです。

〔各種の新規ルートに挑戦〕
 新商品が市場に認知されると、取引のなかったルートからも『引き合い』という形式でアプローチがあります。つまり新商品は、独自の商品力をもって新市場を創造していくのです。
 この引き合いに対し、メーカーは新商品の利益性を説くことになります。それはルートに対する「仕切マージン率の大きさ」よりも「この新商品はよく売れそうだ」という見通しを強調することです。いくら、取扱いの「利幅が大きく」ても、売れなければルートにとって『絵に画いた餅』であって、魅力などないわけです。
 開拓すべきルートの候補店は、広告クリエーターや宣伝媒体の選択と同じで、効果ある「その筋に的確に当たる」ことです。とはいえ業界事情がわからない新ルートの開拓ですから、「その筋」自体が容易にわかりません。
 しかし新商品企画のプロセスは、ずっとマーケットイン思考の態度できています。ですから新商品フレームの設定段階で、狙い市場はそれなりに定めているはずです。それは一般的な形で示すと、図表7-16のような範疇の流通業者に「アタックする」ことになるのでしょう。
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 これらのアタック先には、人的な販売促進手段、つまり自社のセールスマンを差し向けます。たしかに新ルート開拓は、トップにとってもセールスマンにとっても不安がいっぱいです。が、初めての接近は、何事もやってみなければわからないことばかりです。どこの会社でも、この不安を乗り越えて今日の流通ルートを確立してきたのです。
 そこで重要なことは、自社で開発した新商品は「絶対に売れる」という信念を『売り込み方』自身がもつことです。信念さえあれば、見ず知らずの企業へ『飛び込み』でアプローチする不安も、おのずと解消されるというものです。
 ところが多忙を極める相手先バイヤーは、全然スキがみえません。中小ベンチャー企業などは、あれほど果敢に新商品を開発したのに、ルートへの接触機会が少ないだけに、特に大手商社などの敷居を高く感じます。
 このため、ものの本には「まず、紹介者を得ること」などと書かれます。が、なまじ紹介者があると、その人脈の義理・人情に縛られ、機会損失を呼び込む可能性もでてきます。ですから、紹介者を探したりパソコンの前に座り込んだりする間があれば、アプローチすべき相手候補に飛び込んでみるべきです。
 ここで蛮勇を振るえる根拠は、アタック対象であるルートが「ビジネスの世界」にいて彼らの方でも、利益のあがる新商品を「懸命に探している」ことです。利益の源泉である商品は製造業者が生みだし、それを探している流通業者という構造があるのです。
 ビジネス界の取引構造から、新商品開発者としての立場をわきまえて、絶対に「自信をもってアプローチ」することです。
 自信がないためか、中小企業などが乏しい経営資源の中で「代理店募集」形式の広告を打つのをたまに見ますが、これは感心できません。新商品の安売りにみえるからです。

〔ルートの選択〕
 新商品の開発者は、特定業者と継続取引をするために販売ルートを開拓します。契約業者は『代理店』とか『特約店』とか称する特別な存在になります。したがって新ルートの候補店が、今後とも長年の取引ができる会社か否かを評価しなければなりません。
 売買契約という法的行為は、図表7-17に示すように、売り手と買い手の双方に権利と義務が生じます。長年にわたって、こんなに大変な約束をするのですから、契約の相手先を慎重に吟味選択するのは当然です。
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 流通業者は全く「自由にビジネスできる立場」にいます。市場を把握している強みをもっているので、お互いに権利・義務の生じる契約がなければ、いつでも自社に都合のいいときに、両者ともに権利だけを主張できることになります。
 反面ディーラー側は、新商品が売れないときに『経常的に売る義務』を果たさないからではなく、『商品に売れる力がない』からだと言い訳をして、売る努力を回避することさえできるのです。
 そこでメーカーとしては、図表7-18に示すように販売力と支払い能力の二つの基準で『継続売買契約』を結ぶべきディーラーを選択しなければなりません。
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 この他にも、流通業者側の社員教育に『自社商品の勉強会を組み入れる』、『販売促進政策への協力度』、『社長の人柄や社員の醸しだす企業風土』など、副次的な選択基準は慎重になればなるほど、数えきれないくらいあります。が、欲をいえばルート開拓ができなくなるほどたくさんの選択基準がでてきますので、『販売力』と『支払い能力』の二点だけを基準に選択すれば十分であろうと思います。
 新商品はディーラー側から見れば『目新しい』だけに、換金しやすい商品です。したがって代理店契約によって信用を供与されれば、ディーラーは『買掛仕入れ』によって、『安売り現金化』できる商品になるわけです。ですから契約しておいて、ディーラー側の資金繰り改善に、自社の新商品を使うことだってできるのです。
 継続契約の締結に当っては「よく売ってくれ」れば「社長の人柄などどうでもいい」とはいえません。逆に、ある業者に初めてアプローチしたとき、社長の印象が悪かったりすると、まだ「売ってくれるかどうかわからない」のに、それ以上の深追い調査はできにくいものです。
 また、調査自体が社長の悪印象によって色眼鏡を掛けられ、冷静な判断にならなくなります。逆に、友人や知人の店であったり、第一印象のよかったりの店には、見る目がつい甘くなって「支払いも確実」なのかまでは及びつかないのが人情です。
 ですから代理店など、新商品の継続取引契約を締結するときは『販売能力』と『支払い能力』の二点だけは確実に「当たりを付けて」新商品の売上を伸ばしていかねばならないということです。
以上、全巻の終わり
終わりにあたって
「アーカイブ」欄にあるように、このシリーズは2007年11月にはじまりました。メルマガに連載するハウツーものにしては長きに過ぎましたが、新商品開発はそれほど大変な事業活動だともいえます。
反面、文章にすれば長くなりますが、実務的にはどこの企業でも、多かれ少なかれ展開している事業です。ですから今日の事業が、継続するのです。ただその展開が体系立てられて、ここにまとめられたのだともいえます。
実はわがさいたま総研では、2009年5月からスタートした新体制によって、組合内にある知財を整理・登録しています。その一環として事業性評価システム構築のもとに、この『新商品開発』も再評価して事業家、経営者の方々をご支援できるように整備しています。
次の機会には「文書ではなく」、新商品開発の「実務、実践」面でサポートできるよう精進しますので、さいたま総研ともどもよろしくお願いいたします。
2009年12月22日                  のぼる経営 代表
中小企業診断士 山﨑登志雄

2009年11月18日

成功する企業には新商品開発がある

第24回  山﨑登志雄


7.販売ルートの考え方
- 新製品の収穫を得る -

パート7のポイント
[販 売] 販売ルートとのつながりを強めよう

 ここでは、新商品開発に関する読本などでは、あまり問題とされない新商品の販売に固有の流通ルート活用法を、筆者自身の体験に基づいてそのルートがもつ特性から順に、説きほぐしていくことにしましょう。

商品がもつ魅力をアピールする
 新商品は、消費者や最終ユーザーに向けて開発されます。開発者は当然ながら、想定する消費者や最終ユーザーのニーズに適合する、商品への意識が強いのです。が、この意識が強過ぎるあまり情報収集、商品企画、開発など、どの段階においても中間にいるはずの販売ルートへの意識が、弱まる傾向があるのです。
 しかし新商品販売の各段階において、最初の顧客でもある流通ルートには、新商品の魅力を「いかに伝えるか」そしてルートから「逆に何を学ぶか」など、ルート販売固有の課題があるわけです。
 これは開発者から、消費者やユーザーに直販する企業であっても、生産即消費に直結しているサービスを創造する企業であっても、経済社会の商流の仕組みとして意識しなければならないことです。つまりルート販売固有の課題を認識することは、とりもなおさず新商品企画・開発の最終段階になるわけです。


7-1.流通ルートとともに

〔マーケティングルートの特性〕
 開発製品や役務、つまりサービスを新商品として市場で販売するためには、マーケティングルートに商品を流さなければなりません。ここでマーケティングルートとは、開発企業から個別の消費者またはユーザーへ、商品を流通させる経済社会の仕組み、文字どおり『商品が通る道』のことです。
 ルートは一般的に、図表7-1のような形態の道筋をもっています。これは常識の範疇でしょうが、新商品が市場に導入されるのは、図に実線で示す自社ルートすなわち『直販ルート』と、代理店や卸売商、小売店といった、『独立して事業を営む』点線で示した他社ルートの二系統です。マーケティング政策では、これを分けて考えなければなりません。
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 他社ルートは、独立した法人もしくは個人の『消費者』や『ユーザー』ではなく、新商品や新サービスを事業対象とする『ビジネス体』です。たとえ全額出資の流通子会社であっても、ビジネス形態としては独立企業です。したがって子会社でも、マーケティング政策上は、他社ルートとして考えます。
 他社ルートの個々は、独立してビジネスを営む限り、それぞれの企業に固有の経営理念があります。個別の販売政策も、経営環境もあります。したがって他社ルートの『経営的な特性』は、原則として「客先と仕入れ先を自由に選択」できることです。
 つまり他社ルートは、それぞれの事情でメーカーに関係なく「自社固有の客先を確保」します。その客先が求める商品やサービスの仕入れ先は、独自に「選んで取引できる」ということです。
 このように、経営の自由度が大きいマーケティングルートの特性は、新商品を巡って開発・生産業者とは違った、図表7-2のような三つの事項に表れます。さらにこれは端的な絵にすると、図表7-3のようになるでしょう。
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 つまり新商品の開発・生産者側は、売れる新商品を目指したのですから、売れれば当然「儲かる」でしょう。が、もし万一売れなければ、莫大な「開発費と時間をロス」するのですから『大きな損』になります。
 ところが、他社ルートの企業としては多少の販促に「協力するコストがかかる」ものの、新商品が売れなくても、一向に『損をしない』のです。もちろん他社ルートでも、新商品が売れれば新しい『儲かり源』になるのは確実です。
 ですから新商品販売に関し、お互いに『儲かる』という共通点を頼りに『損をしてはならない』開発・生産者側から、あまり『損をしない』マーケティングルートに積極的に働きかけなければならない理屈になるわけです。
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〔流通コストが削減できるか〕
 第1次、2次産業において、完全下請け企業を除けば、多くの企業はルートを通して商品やサービスを販売します。自社ルートをもたない中小企業などは、オリジナル新商品を開発したとき、100%他社ルートを活用しなければ『売れる新商品開発』になりません。
 しかし中には「自社ルートしか使わない」生産業者がいます。意識的・政策的に、他社ルートを使わないのですがその基本的な理由は、だいたい次の三つの項目に整理できるようです。
 その理由の第一は流通コストの問題です。
 現在は人件費が高く、アウトソーシングの時代です。アウトソーシングは、有用性の問題から、各企業が個別に用いるとコスト高につく、ある経営機能を専門企業に集中させて活用しようという、社会経済的な制度というべきでしょう。要するに、外部の資源です。
 ですから販売についても社外の経営資源、つまり他社ルートにアウトソーシングする知恵がはたらきます。が、ルートを通さない直販政策は一般的に、消費者や最終ユーザーに「安い商品を提供」するために採ると考えられます。
 ただこの販売政策の特質は、開発した新商品が狙う市場範囲の広さに関係します。たとえば最近、頻繁にみられる『道の駅の産直農産物』のような販売方法は、まさに『新鮮な安い商品を迅速』に提供する直販体制の典型です。また情報網の発達から、いわゆる『ネット販売』という直販形態も増えてきました。
 しかし一般的な消費財など、新商品の市場規模が大きく、かつ、薄くて広い需要分布があるケースでは、自社独自のルートでカバーするには限界があります。自販能力の限度を越えた市場規模があれば、限度以上に他社ルートが売り増してくれます。販売量が増えれば、必然的に生産量が増加し、図表7-4のようなコストダウン効果が見込めます。
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 造り手の生産業者の立場からいえば、流通には俗にマージンという『販売価格の割引』をしなければなりません。つまり、市場販売価格と流通卸価格との割引幅のことです。
 生産業者は流通業者への割引のことを『流通コスト』と呼ぶ人もいます。しかしマージンは、自社ルートに要するコスト、すなわち自社の『販売員人件費』とか『宣伝広告費』のように、実際に支出されるお金ではありません。平均売価が割引幅だけ下がるのですから、この『仮装コスト』は直販したからといって削減し得ないのです。つまり消費者や最終ユーザーに「安い商品を提供」することにならないのです。
 直販で「頑張って売る」のはいいが、より広い範囲により拡販するために、別途に値引き販売すれば、新商品の『市場実勢価格』が下がります。流通マージンは、あらかじめ設定した定価でなく「実勢価格から割り引く」わけです。直販の値引きによって、市場の実勢価格が低くなると、マージンはますます捻出できなくなります。
 マージン幅の小さい商品は、流通にとっても魅力がありません。これでは販売数量が増加しないため、コストダウン効果が期待できず、ますます他社ルートが使えない悪循環に陥ります。
 専門用語で解説すれば、『仮装コスト』は『機会原価』であり、適切な販売戦略を採らないばっかりに『売り損ねる』のは『機会損失』です。原価も損失も、どちらも『得すること』の逆ですから、予想される大きな『損を避ける』戦略を採るのが得策です。ですから売り損ねを避ける『他社ルートの活用』があるべきだという理屈です。

〔直接サービスの提供〕
 開発・生産業者の販売政策で、意識的に他社ルートを使わない理由の第二は、ルート販売だと「お客様に対するサービスが薄まる」と考えることです。たとえば生産財・産業財など、特定の市場なり顧客に販売する商品が、十分な顧客満足(Customers Satisfaction CS)を得るひとつの手段は、各種のサービスです。
 生産財・産業財などでサービスが単独のビジネスとして成り立つのは、機器商品の供給だとオペレーション=操作または運転、リペア=修理、メンテナンス=保守、すなわちORMの三分野だといわれます。
 ルートが提供するCSのためのサービス業務は、配達などの『物流業務』やクレジットなどの『融資業務』など多様に繰り出せます。が、機器商品に付随して消費者やユーザーに、商品供給側が直接提供できるサービスは、R=修理業務が代表的な事例でしょう。
 新製品が故障すると修理サービスは、商品の販売量つまり「サービス機会の大きさ」と、サービスに要する人件費に対する「付加価値の大きさ」が、ビジネスの採算性を決めることになります。
 たとえば自動車整備工場のように、マーケティング活動に付随した業務は、単独で十分な付加価値が得られるため、やがて独立して「自動車整備業」というサービス産業に成長してきます。いわゆる『サービスの経済性』が高まるわけです。
 逆に、家電や時計のような比較的低価格の「普及型商品」は、かつて修理サービスがルートの独立した事業になっていました。が、今では買い替える方が安く、サービス単独では事業採算がとても合いません。
 しかし、市場には機器商品に対する修理ニーズが依然としてあるとき、これにメーカーとして応えるには、自ら直接「修理サービスを提供するよりほかにない」と考えます。が、市場が広がるとメーカーが単独で行うサービスだけで、十分なCSを得ることは望めません。
 つまり市場が『経済のサービス化』傾向を強め、メーカーは商品に各種のサービスを付加して生産・販売しなければ、十分なCSが得られなくなったということです。CSが得られない商品は誰も買わないから販売量の伸張は望めず、ますますサービス・コストが『割高』になります。
 ディーラー側の経営戦略も販売商品に関するCSの面では、メーカーと変わりません。ディーラーは量販店でなくても、各メーカーの商品を大量に扱っており、各社の商品にはそれぞれに付随する、多様なサービスがあります。各ルートはそれを集積し、専門化して効率をあげるのです。
 ですからメーカーは、こういったルートがもつサービスの集積力に、自社の機器商品のサービス業務を「乗せてもらう」のです。このためにも、新商品を流通ルートに通して各ディーラー独自のサービス力を活用させてもらった方が得策だということです。
 ディーラーのもつ『サービス力』を利用させてもらうのですから、サービスに要するコストは「流通コストの先払い」だと考えればよいわけです。
 また、サービスに「高度な技術が必要」だから、流通ルートを通せないというのは誤解です。高度な技術が必要なサービスは、経済性が高いのです。
 さらにルート側では、図表7-5のように、高度なサービス技術をもつことが、流通業者としてライバル店に対する差別化につながります。そのためディーラーは、サービス技術を「積極的に習得」しようとするのです。
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〔情報の直結は〕
 作り手企業が、流通業等の他社ルートを活用して新商品を販売しない理由の第三は、他社ルートを使うと、消費者やユーザーからの「正確な情報が入らない」と考えるケースがあります。
 この場合は、人から人へと伝達される情報ですから、ルートが長くなるとそれだけ『伝達スピード』が落ち、かつ『伝達機会誤差』が生じるような気がするのはたしかです。が、これは流通政策と情報収集の方法を混同した話です。図表7-6は、商流や物流と「逆に流れる」情報ルートがあることを示します。
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 マーケティングルートは、商・物・情報三位一体の流通で構成されています。情報収集としては、情報対象と内容別情報ルートの構築方法が問題です。したがって「正確な情報が入るか」「入らないか」の見地から行う流通政策の議論では、ルートの果たす情報機能が、自社にとって「有用な情報ルートとなりうるか」「否か」を検討しなければなりません。
 直販ルートの情報は、他社ルートを介する情報より信頼性が高いと錯覚します。が、情報の活用は「多くの情報の中から必要情報を選択」するテクニックに始まります。
 ですから情報ルートは自・他ルートの別なく、より多く存在することの方が、情報活用の要件として重要です。さらに情報の『選択技術』が、情報の『信頼性』を高めます。情報が少ないと、信頼性の高い情報が含まれる確率も、それだけ小さくなる理屈です。
 情報は『双方向性』を好みます。ある情報を伝達し、その反応をみること自体が、信頼性の確認になるわけです。ですから、まずメーカーはルートへ向けて、十分な新商品情報を流します。
 この口火が切られなければ、ルートに自社商品の存在が知られません。知られない商品はルートに流せないから、下流からの顧客情報も上流に昇らない道理です。
 ルートに商品情報を流すことは、消費者、ユーザーに商品情報を流すPR活動と同義です。したがって商流と物流ルートの形成は、情報ルートの形成と同義になるのです。
 メーカーは、意識的にルートを築かなければ、情報は入るはずがないのです。ルートが長いから多くの情報が入り難いのではなく、情報ルートが「無いから入らないだけ」だということを肝に命じることです。

〔新市場に既存ルートはない〕
 経営環境の変化に適応するために、開発・生産業者は新しい分野に指向しようとします。このとき独立ビジネス体であるかぎり、当然ながらディーラーでも同じ新分野を指向しようとするはずです。
 メーカーと流通ルートは経済活動において、平たくいえば「儲けたい気持ち」において運命共同体的な社会構造を形成しているのです。メーカーが良ければ既存のルートも良いし、悪ければ悪いのが、ディーラーとの経常的な取引関係というものです。
 逆のケースでは、情報力あるルートが先に、有望新分野を指向することも多くあります。ですから一般的な状況においてメーカーは、既存のルートとともに歩むかぎり、新商品開発のために改めて、新しいマーケティングルートを開拓しなくてすむわけです。
 企業経営では、新商品開発と新市場開拓が同じ活動形態として位置づけられます。新市場開拓は「既存市場分野へ新商品を売り込む」形式と、新商品をもって「新規需要を掘り起こし、市場を新しく形成する」ふたつの形態に分かれます。図表7-7のとおりです。
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 しかし、新ルート開拓の活動形態は新商品開発とも、新市場開拓とも違います。従来からあって「他社が得意としていた既存市場」へは、既存のルートがあるはずです。ただ、自社にとっては「従来からの取引がなかった」ため、異分野に見えていただけです。
 したがって新ルート開拓は、従来取引がなかった他の既存ルートに、自社の新商品を新しく流すことを意味します。図表7-6において点線で示した手順は、まずありえないであろうという理屈です。
 これに対し、新市場開拓は現在認識されていない「市場を創り出す」ことです。ですからエジソンが発明した電球のように、従来なかった「製品を創造」したり、電柱を建て電線を張って電力供給するような、従来なかった「サービスを創出」したりする『完全新製品』(図表1-5参照)の開発に似ています。
 今まで開けていなかった新市場には、既存のルートというものがありません。ですから、新商品開発にあたり改めて、ルート開拓が必要になるわけです。ここが新市場開拓と新ルート開拓との違いです。新市場に既存ルートがない理由は、流通業者のビジネス上の性質にあります。
 流通業者は、市場と製造業者を「商品で結ぶ」機能を果たすことで、生存している『社会的な機関』です。したがって需要がある市場も、商品の供給業者もいない経済状態では「売るものがない」のですから、いわば『幻の未実現市場』では流通業者が生きていけないのです。

〔ルートとともに歩む道〕
 新商品の新規需要を掘り起こすには、自社とつながる既存のルートとともに、市場開拓するように心がけなければなりません。
 例えばかつて、若者の間で大ヒットとなった、ヘッドフォンステレオという新製品がありました。この新製品は、既存のテープレコーダーから録音機能とスピーカーを除き、コンパクトにしただけですが、いわゆる当時の『アイデア製品』に違いないのです。
 もちろん、消費電力を少なくするためのパルスモーターの開発など、周辺技術の裏付けがあったからアイデアが活かせたのです。またニュー・ミュージックのカセット化など、ソフトウェアー供給サービスと一体になった新しいビジネス・モデルの発生もありました。
 ハードウェアーとしては「イヤホーン専用」のように、機能を縮小することで軽量、安価に仕上げられたのがヒット要素となり、かつ、小さくてもステレオ音質がよいことが認知されて売れに売れました。
 図表7-8のように、既存ルートは技術革新の進展に遅れをとらない速さで、新市場を開拓するのです。その理由は、有力商品の開拓を指向しなければ、ルートが生きていけないことです。
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 ほかの例でも、1950年代のテレビ、洗濯機、冷蔵庫といった三種の神器から、これに代わる次世代のカラーテレビ、クーラー、ステレオというポスト三種の神器を経て、市場が飽和すると、電気もちつき機、ふとん乾燥機そして家電業界救いの神であるビデオテープレコーダへと、ルート側の市場開拓が続いてきたものです。
 これらのヒット商品の追及努力は、やがてパソコンや携帯電話、ゲーム機、インターネットなどなど、通信、娯楽、教養などの異分野をも巻き込みながら、ただ自分たちの先見性によって育ってきたのだったといえば、メーカーとして思い上がりも甚だしいというべきです。
 ルートも情報のフイードバックや、献身的なアフターサービスなどでがんばりました。したがって正確には、専門店自身がパソコン屋や、従来は独占企業であった電気通信事業者の社会的機能も複合化した「総合家電ルートに変身」してきたというべきです。
 随分と古い話を持ち込んだようですが、新商品開発と新市場開拓の関係が、メーカーとディーラーの発展形態で、誰でも認識できるパターンを事例としたものです。ご了承あれ。

以上、第25回につづく

2009年10月26日

成功する企業には新商品開発がある

第23回  山﨑登志雄


6.開発管理の要点
- 新商品の果実を結ぶ -

6-6.開発から生産へ

〔意外な障壁があるものだ〕
 研究開発の結果、設計が完了したものは生産に移行されなければ、当然ながら新製品になりません。が、会社の業務としては、開発設計と生産との間にある壁が、意外に『高くて厚い』のです。同じ会社で、同じ釜の飯を食っている技術者同士でありながら、この間の業務移行がなかなかスムーズにいきません。
 この問題は、開発と生産が組織上明確に分離されていない、小企業においてさえいろいろな形態で存在します。ですからあながち、大企業組織のセクショナリズムだけでは片付きません。したがって、いわゆる『生産の立ち上がり過程』は、しっかりと押さえておかなければならないのです。
 製造業や建設業などのモノづくり業は、新商品開発に必要な専門分野別の固有技術と、モノづくりに必要な共通の生産技術や生産管理技術のバランスがとれていないと、開発設計が新商品になりません。もちろん会社の技術機能バランスがとれていなければ、開発設計業務そのものが機能しないわけです。
 生産技術や生産管理技術は、わが国が世界のトップレベルを誇る技術分野です。しかし個別企業のレベルでは、新商品開発を重視しすぎる余り、開発固有の技術だけに力を入れがちになります。要するに頭でっかちで、技術力バランスが取れない傾向は、成長途上の中小企業に多くみられます。
 消費者やユーザーの多様化時代は、製品ライフサイクルが短くなるため、『開発組織の流動性』や『クレーム対応の迅速性』、マーケティングルートを含めた『情報の総合的フイードバックシステム』などが要求されます。
 つまり極端にいえば、次から次へと新製品開発を実施し、開発と同時に製品化していかなければ、多様化した顧客ニーズに対応できないで、競争市場から落伍していくわけです。そこで新商品開発の最上流を重視した源流管理とか、生産移行時の初期流動管理といわれる図表6-15のような概念が生じるわけです。
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 試生産すなわち本生産で出来上がった製品は、販売まで直結するのです。総合的な情報を駆使し、開発、生産、販売を統合するコンカレント・エンジニアリングの概念が出現したのもこのことです。
 生産の品質、コスト、納期を規定する源流の設計段階が管理されます。が、このような管理概念をうまく進める手法は、必ずしも定着していないというべきかもしれません。

〔立ち上がりの阻害要因は〕
 開発から生産に移行するには、いろいろな課題を残します。図表6-16は、体験上考えられる「生産の立ち上げを阻害する」ことの特性要因分析図です。この特性で重要なのは、やはり源流である開発側の要因です。
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 源流側要因のチェックシステムには、開発設計段階で製品化に必要な項目を丹念に確認していく、デザインレビュー(DR)という技法があります。これには、チェックシートなどのDRツールが用意されます。
 開発作業が急がれるとDRの制度など、『後工程へ送るための作業』は無視されがちです。それどころか設計段階のコストダウン手法として、どうしても実施しておかなければならない価値分析(VA)などの手順さえも、開発業務でありながら忘れられるのは、同じく開発終了を早めるからです。
 その理由はDRやVAのような、開発工程途上のチェックシステムが「開発期間を伸ばす」要因になると、開発当事者に誤解されていることです。が、結果としては『不均質な品質生産』や『コスト高の生産』を続けることになります。
 製造品質の安定性が悪く、結果的にコスト高を招けば、生産の後では絶対にこれを取り戻せないのです。ですから開発工程中のDRやVAチェックを置き去りにしたのでは、いくら急いでも新商品開発にはならないということです。

〔ドキュメントの整備がなければ〕
 従来、生産を経験していない新製品は、生産移行の過程を通じて、生産側が新しい生産技術を構築していくことになります。この段階では、開発部門と生産部門が比較的よく協力するものです。ですからコンカレントエンジリニアリングの概念は、従来経験しなかった新製品の開発で、うまく展開されることがあります。
 これに対してモデルチェンジなど、従来製品に類する新製品開発の場合は、生産技術が生産側に既にあるための安心なのか、設計の未熟さが移行遅れに拍車をかけます。未熟設計やドキュメントの不備が、即座に生産立ち上げのマイナス要因となり得るのです。
 生産移行に必要なドキュメント(事実の記録)とは、図表6-17のような書類をさします。設計者側がその「意志を現場の生産者側に伝達」するための諸記録のことです。
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 また、時間を超越した意志伝達の機能があります。ですから、設計者の意志が生産現場にすぐに伝わる中小企業でも、口達やメモのように「記録に残せない方法で伝達」するのはいけません。
 いわゆる『一品料理』のような新規設計品であっても、基本的なドキュメントは残しておきます。記録を残さなかったつけを後で払うのが、中小企業の多くの実態です。
 大企業、中堅企業と小企業、零細企業の間の格差を一番感じられるのは、まさに『ドキュメント類の整備状況』です。
 また最近は、ISO9000Sの認証取得を希望する中小企業が増えました。が、ドキュメント類が整備されていなければ、認証は絶望です。ISOは製造体制を維持する制度と、体制の裏付けとなるドキュメントの整備を客観情勢として、「お客様の代人」である審査員に示せることを要求するからです。

〔製造品質で勝負する〕
 開発は製品の設計品質を『創り』、生産部門が製品の製造品質を『造り』ます。設計品質というのは、頭に描いた計算上の品質であり、製造品質は生産結果で実現する『仕上がり品質』のことで、まさに製品そのものの『でき栄え』を指しています。
 新商品が市場のニーズを満足させるのは、図表6-18で示すように、製造品質であることは明白です。
 つまり製造品質以上の商品は、市場に供給できません。しかし現実は、市場品質を狙った設計品質よりも、製造品質が劣りがちです。これでは「売れる新商品開発」に、当然のことながらなりません。
%E5%9B%B3%E8%A1%A86-18.gif
 ここで再び、第22回〔期間管理は価値を生む〕の図表6-9に示す、開発遅れと利益減少の関係を引用します。
 機械製品は製品性能が低下した割に利益の低下は小さいのですが、逆に電子製品は製品性能が少しでも低下すると、大幅な利益減少を招きます。機械製品は『製造品質で勝負する』傾向があるのでしょうが、電子製品は流行り廃りが激しく『設計品質のウエイトが大変高い』ことがわかります。
 要するに、市場のニーズが開発商品で満たせないから、利益は減少するのです。この例のように製品の種類によって、市場ニーズを掌握する手段は違ってきます。しかし、製造品質が市場で勝負している事実は、どんな種類の製品でもまったく同じだということです。
 新商品開発は、設計品質が生産現場で的確に製造品質へと具現化するのです。そして市場で、要求品質を満たす実現品質にならなければ、長い新商品開発のプロセスがすべてムダになるわけです。


6-7.販売への連結

〔商品化計画の機能〕
 造られたものは製品ですが、新製品は市場に販売される『商品』にしなければなりません。製品要素は製品の性能や外観デザインなど、開発段階で創造される設計品質と、生産段階で作り込まれる製造品質です。これに対し、市場の要求品質を満たす商品要素は、製造品質だけではありません。
 売るための開発ですから、もちろん新製品は初めから「商品を想定」しています。が、新製品を「より多く売る」ためには、さらに企業活動として「飾り付けて」いくのです。それが、開発計画に対する商品化計画という、別の仕事として考えられるというわけです。開発製品に飾り付けるべき商品化の要件は、図表6-19のような内容です。
%E5%9B%B3%E8%A1%A86-19.gif
 製品化のための開発期間が長期になるため、開発終了時に改めて商品化計画が必要になります。つまりアイデア開発など新製品企画の初期段階で、あまり細かい商品要件まで追及していると、全体的な構想に集中できなくなって、企画の大筋を見失う恐れがでます。
 また余りにも具体的な商品化目標は、細部の要件にこだわって開発業務を縛り付けかねません。さらに先走って商品化を考えすぎると、開発期間の変化に対応しにくい状況をつくってしまうことにもなります。
 開発期間中に起こりうる変化を考えると、後で考えた方がよい商品化検討項目がでてきます。新製品完成の時点でもう一度考え直すのが、商品化計画だというわけです。

〔価格設定の真髄〕
 製造業の『売価設定』も流通業の『値付け』も、商品の価格やサービスの対価を決めるのは、最も難しい経営政策の部類です。逆に売価設定の作業は、考えれば考えるほど難しいため、かえって安易なコストプラス法に依存しがちです。
 コストプラス法による売価設定の問題点は、経営実務において「コスト自体が変動」しており、市場での実勢価格も変動していることです。だのに『原価』に『経費の配布率』を『掛ける』一本調子で、販売価格を事務的に決めてしまいます。
     【販売価格=発生原価×(1+諸経費比率)】または
     【販売価格=発生原価÷(1-粗利益率)】
 計算式だけならこのとおりですが、さらに一部の中小企業では、原価計算制度自体があいまいです。さもなくば、税理士さん任せで自分では「数字をもっていない」場合があります。ですから『プラスされる元の原価』も、『プラスする配布率』もよくわからないまま、販売価格が決められている実態です。
 このような状況下での値付け方法は『ぐっとにらみ法』と呼んでいいでしょう。つまり原価資料がほとんどないので、経営者が商品をぐっとにらんで、過去の経験と勘から「よし、いくらに決めよう」という、いわゆるドンブリ勘定のことです。
 ただ一面で、これによって対象商品の世間相場に、迅速に迫れるなら『ぐっとにらみ法』も市場価格に沿い、かつ効率的で、合理性があるのかもしれません。が、せっかく開発した新製品の「死命を決する販売価格」が、安易に決定されたのでは、たまったものではありません。
 モノの販売価格は「需要と供給の関係で決まる」のが、物々交換が始まった太古の昔から通用する経済原則です。ですが個別経済の分野では、市場提案型の新製品開発は『新規供給者の登場』によって、従来はなかった『需要を喚起する』わけですから、経済原則さえ超越しています。したがって新商品の発売にあたっては、いろいろな価格政策を考えるというものです。
 もっとも単純なところでは、薄利多売があります。これに対し、高利少売とはいいませんが、適正価格政策の議論があります。またスキムプライス(上澄み価格)といって、競争者の現れない新商品の「発売時期は高値」を設定し、上澄みのいいところだけ吸い上げようという政策です。
 追従者が現れたら、その時点で価格競争に転じ、先行者の強みを発揮しようという政策です。他では、地域価格政策、特定顧客価格政策などがあります。
 しかしこれらの価格政策は、まさにプロダクトアウトのマーケティング態度です。ただプロダクトアウトが間違っているからといって、新商品の値付けに「この方式でやれば問題ない」という、うまい方法がありません。そこで考えるのは、「新商品企画がマーケットインの理念で貫かれてきた」ことです。
 ですから価格設定に当たっても、この理念は貫かなければ、ここまでのプロセスが無意味になるというものです。要するに「市場に受け入れられる価格」を設定する理念です。となると、売価設定だけは開発終了後の、商品化計画課題ではなくなります。
 つまり新商品が出来上がってしまってから、売価設定を考えるのではもう手遅れです。新製品で利益が生めるコストは「開発段階で品質とともに」つくりこみをしなければなりません。目標売価から必要限界利益を差し引いた、許容原価の範囲内に新製品をつくりこむというわけです。
     【許容減価=目標売価-必要限界利益】
 ここで製造業では『限界利益』といい、商業では『粗利益』という利益の概念があります。経営的にも会計的にも、これらの概念に違いがあります。が、経営最大の課題である価格政策自体は、一冊の本にしても余りあるところですから、ここではマーケットイン政策の真意だけを述べるに留めます。
 さて、商品化計画での売価設定は、開発期間中に起きる諸情勢の変化を見極めることです。開発活動の結果、品質、性能、原価は、初期目標に比べてどうであったかを、開発計画書と照合して評価します。
 それが開発段階の、DRに対するコスト・レビュー(CR)というものです。また、需給関係を規定する市場の景況、競合社の出現など「企画書を引っぱり出して」チェックし、できあがった結果を確認します。
 もちろん類似商品の市場実勢価格は、調査しなければなりません。そのうえで、お客様が求める商品価格に決めるのが、開発終了時点で行うマーケットインの売価設定です。
 しかし現実には、開発は終了したものの「コストが許容原価に納まらなかった」ということはよくあります。が、これは明らかに新商品開発の失敗です。こんな失敗がないように、開発過程でDRやCRを繰り返し、軌道修正しながら開発を進めるというわけです。
 これ以上は本題から外れるので、別の拙著にも詳述していますし、機会があればこのメルマガの次のシリーズでお目にかかることにいたしましょう。

〔ネーミングとパッケージ〕
 新商品に名称を付けるといった慣わしは、昔からありますが、最近は商品名によって、他社商品と差別化する、ネーミングのマーケティング的機能が重視されるようになりました。商品に付けたペットネームやニックネームは、商品に新しい魅力を加え、やがて強力なブランドに発展します。
 産業財の場合、従来は「波型鋼板」「NC工作機」のように、新製品のもつ形状や機能などの商品特性を名称としました。また、メーカーや問屋筋などの間で商品を整理するために、符丁のように使われる『モデル番号』や『型式番号』が、そのまま商品名に代わって通用しています。
 その典型がD-51(デゴイチ)ですが、蒸気機関車の愛称もこれほど有名になれば、商品の差別化手段として十分に使えます。が、この例は専門家の呼称が、SLフアンにも浸透したにすぎません。
 新商品のネームは、消費者やユーザーに強いインパクトを与え、短期間に市場浸透さるため、会社が意識的に付けなければなりません。ネーミングでは商品名の有意性、語呂のよさや響きのよさ、または連想されるイメージを強調するわけです。
 最近は名前を聞いただけで、どんな商品かわからないネーミングの『遊び心』が、飽食時代の若者の間で爆発します。しかしその愛称を市場浸透させるには、「相当のマーケィング費用が要る」のですから、資力のない中小企業などはネーミングに「奇をてらう」わけにいきません。
 商品が消費者やユーザーに届くには、物的流通(物流)が伴います。物流には図表6-20のような機能を果たすパッケージ(包装)を必要とします。
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 つまり新製品は、パッケージされて新商品になるわけです。「包装は無言のセールスマン」といわれるように、包装材の外観機能は格好のメッセージ媒体です。そのあり方は「売れる商品」をつくりこむ技というわけです。
 新製品は、いまだ市場に認知されていない商品です。ですから、商品を知っていただくためにネーミングします。この狙いがユーザーや消費者の「耳に響く」のに対し、「目に訴求」して商品の印象を焼き付けるのが、パッケージデザインです。
 ネームやパッージがおもしろいから、商品の存在が浸透して購買活動につながるのなら、パッケージデザインは会社にとって、新製品の研究開発と同じ意義をもつわけです。

〔商品メッセージの効果〕
 近時は、商品という物質の販売だけではなく「商品に情報を付けて売る」時代だといわれます。つまり会社側が商品とともに、消費者やユーザーへいろいろなメッセージを送らなければ、新製品であっても新商品ではないのです。
 メッセージの中には、薬事法や不当景品類及び不当表示防止法(景表法)により、添付が義務付けられた医薬品の効能書などがあります。もちろんこれは、消費者保護のための法規制です。が、仮に規制がなくてもこの種の商品メッセージは、供給者として積極的に提供すべきです。
 また近時は、PL(製造者責任)法が制化され、メッセージの様子が違ってきました。製品を取り扱ううえで、当然の注意事項が明記され、消費者に対して伝達されていなければ、供給者として無過失の対抗ができなくなったからです。
 しかしこれらの商品情報は、『消極的なメッセージ』といえます。これに対し、会社の意志により消費者やユーザーに独自の情報を伝えるための、『積極的メッセージ』があるはずです。
 メッセージの媒体には、包装紙やレッテルがよく使われます。が、積極的メッセージはもっと多くの情報が伝達したいのです。例えば菓子の銘選品や陶磁器、塗り物などに添付される『しおり』類、機器商品に添付される『パンフレット』類などは、消費後も取っておきたいほど、美しく楽しいものがあります。パソコンのハードやソフトの『マニアル』類は便利性もあって単行本として売れるほど、説明書自体で別の価値をもっています。
 マニアル類では、文字離れ人口の増大に伴い、写真や漫画イラストによる表現など、ビジュアルなメッセージが多くあります。近ごろのことですからメッセージ媒体は、コンパクトディスクやテープ、ビデオなどもあるし、ホームページによって直ぐに無償で検索することもできます。
 しかしイラストだけではなく、図面、スケッチなどのビジュアル要素は、インターネット時代になっても印刷物媒体の優位性は十分にあります。伝達する単位情報量当たりの経済性がよく、CGやディジタルカメラ、さらには印刷技術の向上で、品質も数段によくなっているからです。今後はこれら情報媒体の多様性が、新商品の高度化にともなって、新商品メッセージの意義をますます高めることだけはたしかです。

以上、第24回につづく

2009年09月23日

成功する企業には新商品開発がある

第22回   山﨑登志雄

6.開発管理の要点
- 新商品の果実を結ぶ -

6-5.新技術導入と開発管理

〔ピカ一技術者の特性〕
 研究開発要員は、科学技術的な知識の獲得力と、知識を駆使した創造的思考力といった個人的資質が要求されます。技術自体は人間の能力ですから、会社の役員・従業員および関係する人々が、技術を会社にもたらすものです。ですが必ずしも研究開発要員のすべてに、スーパーマン的なエキスパートであることが、要求されるわけではありません。
 たしかに昔は、超スーパー・スター的な技術者がいました。またそんなスターにかぎって残業、徹夜は厭わず、ちゃんとヒット商品をかっとばしたものです。今でも、どこかにそんな存在の技術者がいるかもしれないと、期待する経営者がおられるだろうことは、十分に推察できます。
 しかし現在の研究開発情勢は、多分野にわたる情報をミックスし、統合して練り上げなければ、確信のもてる方向性がだせなくなっています。新商品を『モノにする』には、学際的に複合化した技術が要求されることになります。また研究開発業務は発想、実験、仮設計、試作、試験、性能確認などのプロセスが、細分化・専門化されています。
 中小企業のワンマン経営者が「俺は一人で開発している」といっても、仕事の内容としてはこのように分化しているものです。
 つくれば何でも売れるという、モノのなかった時代はもう遠っくに過ぎ去りました。現在はいかに、スーパースター的技術者やワンマン経営者であっても、特定分野の専門技術者が一人だけでは、新商品開発になりません。
 にもかかわらず、処遇の面で「相当な無理」をしてでも、外から技術者をスカウトしたいと思っています。社内で「たった一人の研究開発要員」であっても、何とか高級技術者を確保したい気持ちも残っています。新商品開発を強く望む、中小企業の文系経営者などは、とりわけこの傾向が強くあるように見受けられます。
 また現在、このように複雑な研究開発情勢にあることは、技術者自身も知っています。ですから「月給を倍にする」といっても、オンリーワンの条件では、容易にスカウトに乗ってきません。
 中小企業には処遇が悪いから、技術者が集まらないだけではないのです。「倍の月給」が長続きするわけもなく、大きなプレッシャーがあるばかりです。「掃きだめに鶴」の条件では、やがて「鶴もカラス」になることを恐れているわけです。
 また逆に、鶴も「甘やかすと幻の鳥になる」ことも忘れてはなりません。鶴スーパーマン氏は、処遇面などで優遇されると、掃きだめ側の妬みを買って、スタッフとしての協力が得られなくなります。そんな開発環境では、鶴スーパーマン氏が舞い上がって鳳凰になってしまう、図表6-11のようなイメージが現実にあるのです。
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〔金の卵を生ませる〕
 ただオンリーワンの開発環境であっても、そのピカ一技術者に新商品開発に必要な「情報が集中」され、会社として彼をヘルプさせる体制がとれるなら、事情は相当に違います。
 例えば、異分野を含めて広く『情報収集が可能な環境』があり、ピカ一技術者に情報を『受け止める能力』があれば、カラスが「大勢でわあわあやっている」大きな『烏合の衆』がいるよりも、よほど効率的な開発ができることもたしかです。
 成功しているベンチャービジネスのリーダーや、大企業のプレイングマネージャーがこの例です。また、大学の研究者や試験研究機関の研究員、コンサルタントやシンクタンクなど、社外の英知を導入するアウトソーシングの場合でも同じです。
 これからの高齢化社会において、中小企業にも優秀な人材を確保できる機会が巡ってきました。
 たしかに大企業で優れた研究者が、中小企業の経営環境に向かない場合もあるので、ネームバリューだけに頼った人材確保には問題が残ることもあります。だけど定年退職者にかぎらず、リストラに遭遇してしまったような『優れた人材』に巡り合えるチャンスがきたこともたしかです。
 また仮にピカ一技術者が確保できても、その人材を『開発部長』などといった管理職位に就けて、全部「預けっ放し」にするのは危険です。そのわけは「名選手、名監督ならず」の名言です。
 かつての名選手は、自分の選手時代と目の前の選手を比べ「なんだ、たったこれだけのことができないのか」「君でも十分にできると思ったんだが」とやってしまいがちだからです。これは、『評価の対比誤差』という、誰にでも起こしがちな誤りです。
 さらに図表6-12のように、昔の技術で現在の技術を指導、統制しようとしたが、うまくいかないときは、監督も選手も悲劇です。しかもお客様である観客層が、新世代にいるとすれば、会社にとっての悲劇は倍増するわけです。
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 研究開発の仕事は、マネジメントの仕事と性質が全く異なります。文系の人は、研究開発の仕事を評価し難い事情があります。
 しかし唯一の評価基準は、「開発計画に明記」してある開発期限です。ですからマネジメントのP-D-C-Aサイクルにおいて、照合すべきC(チェック)の基準は、「期日内に開発できるか?」ですから、難しいことはなにもないわけです。
 研究開発そのものに対する評価は、消費者やユーザーが決めてくれます。要するに「新商品が売れない」という厳しい評価は、新商品企画に対して出されます。が、会社の開発管理は、どの技術者にも「自分の仕事」をさせ、開発スケジュールを守らせてやればよいだけです。ですから管理のためのモノサシは、いたってシンプルにあるわけです。
 中小企業などで技術管理者が人材不足なら、社内で最もマネンジメント技量に長けているはずの社長自身が、開発管理の機能を果たします。そしてトップのリーダーシップが有効に機能すれば、鶴はやがて輝く金の卵を生むでしょう。

〔名監督の秘策〕
 開発が予定のスケジュール通りに進まないのは、思わぬ「アクシデントが発生」したり、急な「ライバルが出現」したりで、基準となる『開発計画の方』のスケジュール変更を余儀なくされることもあるでしょう。
 技術者としては、自身の能力不足より「味方にエラーがでた」とか「相手が豪腕すぎた」とかの要因も配慮してもらいたいところかもしれません。
 しかしこのような外的要因がもとで、研究開発スケジュールが進展しないケースは、実態として少ないのです。また管理者の立場では、「逆風でストライクが取れなかった」「横風にカーブが流された」と弁解されても、風向きそのものは直せません。が、名監督ならば、横風を克服するのに最適なように、フォームを矯正しなければなりません。
 フォームが乱れる原因は、明らかに技術力不足が第一です。目指すテーマを「実現するために必要な技術力」が、現在「自社がもっている技術力」との間に違いがあるわけです。図表6-13に示すように、担当する開発要員の「個人的な技術力格差」ではなく、会社総体の技術レベルと技術系統の格差です。これを混同すると監督としては、どんな作戦がよいのか、見当がつきません。
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 技術水準または技術系統や技術分野の格差は、『新技術の導入』によらなければ埋める方法がないのです。一体に、技術知識も情報の範疇にあるのですから、新技術は一般情報と同様に「社外から導入」するものです。新技術導入は、技術社員の「個人的な資質や勉強熱心」に負うところが多分にあります。
 社外からの技術は「特許権買い取り」や「契約による技術移転」など、一挙に導入することもできるはずです。そして導入先は、大学であったり試験研究機関であったりします。親会社、取引先、お客様という場合もあれば、いわば選手トレードやM&A(企業の買収、合併)のようなこともあるでしょう。
 ときには新入社員に教えられる技術でも、一向に差し支えないわけで、必要とする新しい技術を『もっているところ』から入れられれば、導入した新技術の価値に変わりはないのです。要は、名監督の采配が「どちらに向かって振られるか」だけです。

〔技術水準の向上策〕
 新技術導入は、技術分野の格差を埋める手立てですが、技術水準の引き上げにも筆者の好きな野村克也氏のごとく、名監督の秘策が必要になるわけです。
 技術水準とは、社員個人の技量が『集積した総体』としての水準です。監督にとって、手持ち選手の『個別な資質』は、既に与えられた管理条件です。が、単純に社員の「経験に依存した技量」だけが頼りでは、勝てる自信につながりません。
 監督にとって与えられた『資質と時間』は動かせないようですが、選手のもてる資質だけは、最大限に発揮させるためのコーチング・テクニックをもたねばなりません。
 技術格差を補う方法は、図表6-13にも入れておいたようにO・J・T(企業内教育)が有効です。が、選手達の方は社内勉強会などの機会を与えても「現業が忙しくて参加できない」といいます。
 しかしそれは口実であって、本心は「勉強したくない」だけです。選手に異分野への興味と技術水準への向上心と基礎知識があれば、放っておいても自主トレという自己啓発は進むはずです。こうであれば、自主トレの動機付けも容易です。
 名監督としては、魅力的な教育企画づくりに努めますが、一方では勉強会の「必要性を説く」ことも大事です。またどんな選手側の職務にも『遂行責任』があるのですから、監督側のほうでも『指示命令権限』によって、ときには「研修を職務の一環」として自己研鑽を強制する必要もあります。
 ただ、どの選手を対象にして教育するかは、ここでの重要ポイントです。というのは、開発技術者全員の技術力を「一様に引き上げよう」とするのは、いかにも効率が悪いのです。産業の場では重点主義、英才教育を考えなければなりません。
 現実の市場では、特定な技術分野の知識と能力が、競合他社に比べて高くなければ勝てません。つまり企業間競争は、技術水準の『頂点と頂点で戦い』ます。新商品は会社の技術総力で開発されますが、企業全体の技術力は『トップ技術者に誘導』されるのです。
 優れたリードオフマンがいて、忠実なコマンドがはたらく姿が「組織と組織の戦い」に有利です。1~2名のリードオフマンなら、人材不足の中小企業でも十分に育ちます。
 ですから名監督は、選りすぐったリードオフマンを育て、ピンチヒッターにたてます。そしてピッチャーとバッターそれぞれの、オンリーワンをうまく配合し、協力させて味方を勝利に導いてこそ、名監督というものです。
 つまり図表6-11で云うなら、ピカ一のリードオフマンが「金の卵を産むツル」になるよう、コーチングするのです。

〔異分野への進出策〕
 分野が違う技術の格差は、異分野技術を習得しなければ、矯正することができません。世間でいわれる新技術導入は、まさにこれです。自社技術という根株に、異質の技術を継ぎ木して新しい芽を吹かせようとするようなものです。
 「りんごとみかんの入ったフルーツポンチが欲しい」と顧客に注文された場合は、一時的なニーズなら、従来から自社にある「固有技術のりんご」に「みかんを買って」きても提供できます。が、根強い「ウォンツを発見」したのであれば、継ぎ木でもして新技術のみかんを得なければなりません。
 最近はサービスの経済化に伴って、『技術の流動性』が大きくなってきました。つまり一般のサービスと同じように、技術も取引の対象となるのです。ですから、例えば「特許権の実施契約」や専門「コンサルタントの技術指導」を受ける形で異分野の技術が買ってこられるアウトソーシングです。
 必要な技術の仕入先は、これらの他に価格が比較的安い『公的技術移転機関』や、中小企業なら自治体の『試験研究機関』などの技術指導が、内容によっては無償で受けられます。また『大学のTLO』や民間では『大企業との共同研究』『異業種交流』など、異分野技術の習得策は、その気になって探せばいろいろとあるものです。
 ですからとりあえず『みかんの貸し鉢』を入れてみます。後で、みかんが長期にわたって必要なら、貸し鉢を育てた技術的ノウハウを使って、本格的にみかんを移植すればよいのです。イメージとしては、図表6-14の展開です。
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 外部から技術指導を受ける、いわば『技術のレンタル』で大切なのは、みかんの味を舌のどこかに残しておくことです。調理体験者として一度使ったのですから、みかんの良さは覚えます。
 一度覚えた味は、やがて継ぎ木で育つ『新種みかん』にも活かせます。外部指導を受けたのをきっかけに、社内に『新技術の土壌作り』ができると移植の成功は、間もなくだといえるでしょう。
以上、第23回につづく

2009年08月22日

成功する企業には新商品開発がある

第21回  山﨑登志雄

6.開発管理の要点
- 新商品の果実を結ぶ -

6-3.予算管理の要領

〔お金の側面から計画〕
 一時は、研究開発に力を入れ過ぎた『開発倒産』といったうわさを耳にしました。が、このような例は「開発投資が過ぎた」というよりも、投資に見合う売上高や利益がなかった、つまり計画に対する「見込み違い」だったとみるべきです。
 もちろんそれも「売れない新商品を開発した」という意味で、新商品開発の失敗に違いないでしょう。たしかに売上収入が見込めないのなら、支出を切り詰めるどころか、もともと予算など組めないのですから、予算管理などといえるレベルのものではありません。
 予算管理というと、どんな予算でも「経費の切り詰め」など、随分と窮屈な印象があります。が、予算管理は研究開発を『金銭的に計画』し、一定期間内に研究開発の実施を『金銭的に統制』するプロセスのことです。
 ここでの窮屈な印象は、統制でなく計画の中身である『予算不足』に対する感情であって、予算管理制度自体が窮屈なものではないのです。
 要するに予算不足への恨みですが、だいたい「有り余る資金を自由気ままに使ってよい」という「研究開発環境なんてない」はずです。当然、研究開発テーマに相応する必要投資の額というレベルがあるものです。
 また逆に「存分に使え」といわれても、無駄遣いでもしないかぎり会社のお金なんて、そんなに使えるものではありません。ですから「金は十分に出す」といわれるよりも、研究者の立場からは、きっと「人材と時間をくれ」といいたいところでしょう。
 一般的に研究開発予算は、図表6-7のように人件費、外注委託費、試験材料費、関係経費等で構成されます。つまり予算の範疇には、人材と所要時間、単位人件費と開発工数がそれぞれ含まれてきます。
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 ですから「金をくれるより人をくれ」という現場から要請があったとしても、企業経営的にみれば、予算管理の側面も要員管理の側面も同義です。つまり『人の管理』も『お金の管理』も同じだということです。「人は出せない」が「お金ならいくらでも出す」という研究開発環境なんてないわけです。
 業種や開発目標によって違いはあるでしょうし、中小企業では設備不足で『信頼性試験』などで『意外な外注委託費』が必要になるケースもあるでしょう。が、研究開発費予算の中では一般的に、『人件費が大部分』を占めるはずです。
 零細企業によくあるケースでは、社長が一人で研究開発費に没頭しているが、役員報酬が会計処理的に人件費でないため、開発コストの感覚がなくなります。しかし社内で一番付加価値の高い仕事をする人が、只働きをしていて会社がもつはずがありません。
 人件費はコストですから「開発資金は自由に使え」といわれても「金を使う人間がいなければ」意味がないことになります。アウトソーシングの時代、外注委託費予算をたっぷりとって、社外の機関に開発を委託すれば「金はいくらでも使えそう」に感じます。
 しかし研究開発という仕事は、社内の開発体制が万全でなければ、いわゆる「丸投げ外注」ができません。社外の開発会社を活用する企画会社などの場合でも、外注先に仕様書を提示するだけではないのです。
 企画会社では目的達成の「手段、方法を指示」し、開発費の「見積もり評価」ができ、技術的指導ができる「社内要員が新商品開発の全体を進展」させていくのです。その中に外部パワーが織り込まれているのに過ぎません。
 ですから、「儲かっているうちに、大先生にお願いして新商品を開発して貰う」とおっしゃる経営者がいたとしたら、その考えは間違いです。
 人件費の次に大きな開発予算は、研究開発設備ではないでしょうか。ですが変化の激しいとき、設備自体の陳腐化や研究開発テーマの急な変更などにより、高級な設備が不要になることがあります。ですから予算面で研究開発設備は、経営資源を固定化する減価償却費とするよりも、長期リースや短期レンタルなど、一般経費に組み込いれることを考えるのが得策かもしれません。

〔決めるときが肝心〕
 予算管理を窮屈に感じさせるもう一方の犯人は、予算要求から決定、実行、記録、統制といった、一連の手続きが面倒なことでしょう。
 まず、予算要求です。これは予測のつく限り、できるだけ「細かく積み上げ」させるべきです。そして決定と実施及び統制は、全体の大枠で融通を効かせながら管理するのが、研究開発における予算管理のコツになるでしょう。「的を大きくとって射させる」ため、まず「あらゆる可能性を広く予測」して、『的を大きく』とるのです。
 ところが多くのケースでは、予算を大まかに要求させます。これでは『的はずれ』なのですが、そのくせ実施段階で「稟議書を提出」させたり、内容を細かくチェックしたりします。この手順は「的を大きくとって射させる」のとは、まったく逆だというべきです。
 予算を細かく積み上げるためには、テーマの内容とその攻略方法をかなり練らないと、金額の予測がつきません。また予算要求時に、開発実施者が「テーマの細かい内容と、その攻略法の予定」を展開してくれると、トップにとっても「事前に判断するための情報」が伝わり、安心して予算を承認できます。
 こうしておくと確定した予算は、実施段階で予測のつかない事態が起こっても、後で「ストライクを取って」くれるよう、予算執行のリーダーに任せることができるわけです。
 予算というと、有名な格言が「入るを量りて、出ずるを為す」です。しかし、これは官庁予算など税金で賄われる予算のことです。たしかに、出ずるを先に量られて「これだけ必要だから」とばかり、どんどんと税金を取られてはかないません。
 したがって初めに、どれくらいの歳入があるかを計ってもらう必要があります。つまり「国勢に合った予算」を組むことです。ですから赤字国債の発行が、前提になった昨今の国家予算は、まったく論外だというべきです。
 それはともかく、企業経営の研究開発予算に関する格言は、図表6-8のごとく「出ずるを量りて、出ずるを制す」です。つまり支出は極力抑えなければならないのですが、必要と予測される研究開発予算の最低限だけは確保しないと、『開発業務の基本が進展しない』ということです。
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 その意味で「総枠、一律何%カット」式の予算決定方法は、官庁の予算編成では仕方ない場面もあるでしょうが、企業経営では戦略的予算編成にならないのです。だからといって、『研究開発費の垂れ流し』は絶対にだめです。結局、出るべきものは十分に量らなければならないのですが、なおかつ出費も、セーブしなくてはならないというわけです。
 オーバーな表現をすれば、新製品開発や新商品開発は企業が必要とするばかりでなく、社会経済的なニーズに基づくものです。売れる新商品、つまり人々の欲する新商品が生まれ、市場に供給されれば経済社会が潤ってくるのです。
 ですから行政機関でも、新商品開発のための経営資源のうち、少なくとも資金面では力の劣る中小企業に対し、各種の補助金や融資、税制上の優遇策などの支援策がとられていることを頭の隅においておくべきです。


6-4.開発スケジュールとは

〔期間管理は価値を生む〕
 『時は金なり』は、企業経営のどの場合にも当てはまるのですが、特に研究開発において『時は大金』です。
 例えば、発売が時期尚早で売れないこともあるでしょう。逆に、あきらめていた開発品が、忘れたころに売れ始めることもあります。が、それらは生きものである市場の、成熟度と開発時期のタイミングが違っただけです。
 また仮に、開発のタイミングが早すぎたとしても、依然として「他社に先駆ける優位性」に変わりはありません。ですから、計画を立てて実施段階に移った開発テーマは、とにかく早く完成させることです。
 古い記録で、著者のご芳名は失念して恐縮ですが、1988年の日経メカニカルに「新製品の開発期間短縮法」という興味ある論文がありました。そこには、図表6-9のようなデータが載っていました。このデータは、機械製品と電子製品にかなりの違いがあるものの「開発遅れがいかに大きな損失をまねくか」だけは十分にわかります。いくら古いデータであっても、このような傾向が未だに残っていることだけは確実です。
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 開発遅れと早期開発は意味が違いますが、ある研究開発テーマを完成させるためには、相応の開発工数を要します。研究開発計画を立てるにあたり、ある特定なテーマへの投入パワーの計画は「2名を2年間投入」するのも「4名を1年間投入」するのも開発工数としては同じです。
 さらに、結果的に生まれてくる新商品が同一水準の品質であるとすれば、投入量対獲得利益額の比も計算上は変わりません。さらに「現在価値は早いほうが高い」のですが、開発に「2年かかる」のと「1年で仕上げる」のとでは、その他計算に表せない総合的効果は、マーケティング的先行利益もあって、実に「倍以上の重み」を示すというものです。
 開発期間の短縮技法では、コンカレント・エンジニアリングの概念があります。端的にいえばこれは、『直列的な研究開発工程』に複数の人材を投入し、時間的に『並列的な工程に変更』して「仕掛かりから完結までの期間短縮」を図ろうとする手法です。
 わたし自身がこの開発管理手法を試みたこともありますが、プロセス管理上難しい問題もあったので、ここでの詳述は避けることにします。

〔早ければ早いほど〕
 会社の技術活動のうち、生産リードタイムが伸びては困りますが、決められた期日より早く作る必要もありません。最も必要な要件はtime is moneyではなく、むしろjust in timeです。したがって製造部門では、同じ期間内に必要な『一定の生産量』を、できるだけ『少ない人員』で達成することです。それに比べると、人数を「増してでも期間短縮を図る」方が得策な研究開発の仕事は、正反対の特質だというべきでしょう。
 もしも開発期間が半減できれば、開発資金の利息や信用保証金などの資金コストや、間接費などの期間原価が半分ですみます。逆に、開発資金の現在価値は、新商品の発売が早まることにより激増させます。
 さらにリスクの軽減は「マイナス要素の減少」であり、逸速く市場を押さえて開発競争に勝つことは「プラス要素の増加」です。まさに図表6-10のとおり、宝の山が築けるというものです。
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 宝の山を手にするための開発政策としては、社外の『シンクタンクの利用』や『研究者アシスタントのアルバイト利用』など、露骨な言い方ですが「金で買える時間」は金のある限り買っても十分に取り戻せる理屈です。
 また「開発リスクは開発期間に比例して増大する」のですから、早期開発、短期間開発は、新商品が『成功する最大要因』になります。が、反面「拙速を尊ぶ」ことができないのも、新商品開発の特性です。
 そこでせめて「計画した期間内には開発を完了させよう」とするのが、開発計画が遅れがちの昨今の傾向として、スケジュール管理の意義深いところだというわけです。

〔管理者の役割〕
 研究開発の部屋を覗いてみると、やたらにお茶を飲んでいる奴がいれば、夜遅くまで捩り鉢巻きで実験する者がいるかもしれません。が、研究開発という仕事は、テーマの難易度や開発要員の資質など、多くの要素がからんでひとつの結果がでるため、ここで『お茶飲み組』はだめだが『捩り鉢巻き組』はよいと決め付けるわけにいきません。
 開発要員は、あたかも企業内の開発請負人みたいなものです。発注者としては「家の建て方」や「大工さんの仕事ぶり」は総て任せるから、要するに期日までに「目標通りの建築物を引き渡してくれればよい」というのが請負契約です。ですからつい、業務の進捗は総て請負人たる棟梁の自覚に任せます。
 それにしても開発プロセスの途上で、業務の進捗度がまったくわからず、期限がきてから「家は建ちませんでした」では、スケジュール管理の意義がなくなります。スケジュール管理とは、設定した目標期日までにテーマを終了させるよう『プロセスを誘導』することです。
 請負業の大工さんにだって「棟梁という管理者」がいます。開発者の自主管理は結構なことですが、開発業務が「いつ頃まで」に「どの辺り」まで進むという、プロセスまでおさえないと、スケジュールを管理することになりません。
 トップが自身で、業務の内容がわからなければ、開発計画の策定時にテーマ終了までの全プロセスを担当技術者に予定させます。「的は大きく設定」するのですから、管理目標である「終点はいつ頃か」でもいいのですが、ストライクゾーンだけは押さえておかなければなりません。
 そこでトップが難しいのは「ボールと判定」した後に、次のスケジュール段階までには、きちんと「ストライクを投げさせる」ことです。できれば、四球を出す前に取り返して三振を奪えるように「アドバイスし、リードする」ことです。
 つまり名監督としては、本人が自覚しているにもかかわらず『前にボールを投げた』ことを責めるより、開発技術者自身も気付かない『フォームの乱れ』を正してやらなければなりません。それこそ管理者が、管理者としての『腕のみせどころ』だというものです。フォームの矯正方法は、重要なポイントなので次に述べることにいたします。
以上、第22回につづく

2009年07月27日

成功する企業には新商品開発がある

                                    第20回  山﨑登志雄


6.開発管理の要点
- 新商品の果実を結ぶ -

パート6のポイント

[開 発]開発管理のコツをつかもう
 開発管理は重要な経営機能です。が、技術がわからない管理者側にとって新商品開発のマネジメントは、開発者の自主管理に「任せてしまいたい」と思いたくなるくらいに、厄介に思えるものではないでしょうか。
 しかし、開発自体はたしかに技術行為ですが、開発業務も企業経営の一端であるに違いないのです。そのかぎりにおいては、管理対象から新商品開発を抜きにしたり、開発者任せにしたりするわけにはいきません。
 情報収集にはじまり、アイデア開発に基づく新商品企画を実際の商品にするまでには、開発環境を整備し、開発プロセスをコントロールし、ときには開発計画に修正を加えることでさえ必要になります。
 また開発が完了した時点では、商品自体に販売力が宿るように仕向けなければなりません。そのためには、理想的な開発のP-D-C-Aサイクルを築いていけるように、会社の総力を商品開発に注いでいくのです。

6-1.開発環境の整備

〔経営者精神と技術者意識〕
 企業は、人・モノ・金・情報・技術といった資源を最大限に活用しつつ経営を進めます。研究開発についても、技術者、施設、設備、開発資金といった、この分野専用の経営資源が注ぎ込まれる環境のもとで、新商品を生み出していかねばなりません。
 その経営活動の中において研究開発環境は、やや理想的な感がありますが、図表6-1のように考えられます。程度の差こそあれ、このような開発環境の整備は会社が主体となって、推進しなければなりません。
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 とはいえ、図表6-1は「国の試験研究機関」の、しかも「基礎研究の進め方」においての理想ですから、中小企業の目からみれば『雲上の戯言』に聞こえなくもありません。
 ただこれが項目、内容ともによくまとまっているので、ちょっと古い概念ですが引き合いに出しました。しかし「こうでなければ研究開発はできない」といっているのではありません。むしろこれらの諸条件と内容は、開発環境を考えるうえでの、一種のチェック・ポイントいわば留意点だと思っていただいて結構です。
 さて会社が考える、効率的な経営資源の投入は、なんと言ってもまず開発資金です。これは純粋に研究開発に要する資金力だけでなく、開発対象たる新商品や新サービスが「稼げる」ようになるまでの『運転資金』すなわち『つなぎ資金』もみておかねばなりません。
 開発に投入する資源は、成果との因果関係が確実にあります。ただ研究開発の成果は、無数の要因が絡まった結果として現れるため、投入資源の大きさだけで「成果を測る」ことはできません。しかし逆に、投入資源と成果の間に「因果関係が全くない」つまり「頑張りさえすれば、必ず良い結果が出る」というような、安易な答えは絶対にないのです。
 要するに図表6-2のように、開発への投入資源と成果の間に必ずしも因果関係がない中で、開発者の頑張りにベストの成果を引き出させるために、いわゆる「マネジメントの巧拙」が効くのです。
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 会社の開発投資には、いろいろな形態があります。場合によっては、優秀な人材の引き抜きをするために使われるかもしれません。何はさておき、閑静な環境に「中央研究所を設置したい」と考える経営者もいるでしょう。
 研究開発者には、豊富な調査費、実験材料費等の試験研究費を使わせていると思える会社もあるはずです。が、残念ながらこれらの開発資金には「これだけ投入すれば」「これだけの成果が上がる」という保証がありません。
 しかしそれは当然であって、もしも『投入成果が数値的に表示できる』なら、この世に失敗とかリスクという言葉がなくなります。経営の神様や伝説的な名経営者もいなくなれば、逆にお金のないベンチャー起業家の努力など、世の中に必要としなくなります。だからこそ、中小企業には新商品開発が、大企業と十分に戦える成功要因になるわけです。
 ただ、ベンチャー企業の親父さんが『命を懸けたねじり鉢巻き』で、ヒット商品を開発したエピソードは、たしかに多くあります。これには多少の誇張があるにせよ普通の会社では、開発環境を顧みずハングリー精神だけに、成功を求めていいわけがないのです。
 人間は誰でも「いい仕事をしたい」のですから、技術者には個人的な自己実現欲があるものです。中には「研究開発の仕事が飯より好き」な人もいますし、時には思考の集中度を増すために、ハングリーな環境で「背水の陣を敷いて頑張る」人もいるでしょう。
 しかし「どんな環境でも頑張れ」というのは、経営者の論理です。一般ビジネスマンには、いわんや昨今の若者には通じません。だからこそ新商品開発管理の、企業経営的な意義があるのです。

〔投資水準の決定〕
 贅沢な開発環境の整備を望めない中小企業では、開発投資について「とても無い袖は振れない」ことになります。が、分相応なレベルの内に開発リスクを避けて、ヒットを飛ばした事例は、エピソードがあるだけではないのです。
 どんな事業でもやがてそれを、大きなリスクに耐えられる規模に成長させていく道は、随所にあるものです。
 たしかに、分相応なレベル以外に「無い袖は振れない」のですが、新商品開発のためには「あらんかぎりの袖」を振らなければなりません。では、どの程度までなら「袖が振れる」か、投資水準の考え方です。
 データとしては、試験研究費の『対売上高比率』などをよくみます。特に高度成長期の経済誌などに、よく見られたこんな番付表などは、開発投資のひとつの目安となり業種別特性などがよくわかる指標です。
 またある経営者は「利益の半分が税金だから、税金で払う部分を研究開発投資に回せば、同じ投資額で倍の研究ができる計算だ」といっていました。が、これでは開発投資の資金計画が全く立たないばかりか「利益をあげるため」の商品開発が「利益をさげるため」の行為になってしまいます。
 投資水準を決める意思決定は、こんな錯覚がでるくらいに難問です。これなら「もてる袖を目一杯振る」という、抽象的な研究開発の投資水準を述べるにとどめた方が、まだましだというべきでしょう。
 結局、開発費の投入水準は、各企業別の与件を考慮したうえで、独自に意志決定するよりほかにないのです。要するに、経営者の『ハラで決める』ということです。

〔研究開発施設の要件〕
 研究開発施設は、投入資源を長期にわたって固定化します。分不相応な中央研究所の設立は、多額の資金を眠らせます。この不況期でなくても、そんなことは誰でも知っています。が、成功した中小企業経営者には、小さな研究開発施設でも持ちたいという憧れも見得もあるものです。
 それはともかく施設の立地は、情報収集に最適の地が一番だということです。しかも情報に直接触れられる、研究開発環境が最適立地です。たまたま社長が所有する別荘地が空いていて、研究開発にいい環境だからと、ささやかな研究所を設立しました。が、喜ぶはずの技術者は誰も、行きたがらなかったという実話を知っています。
 また仮に、筑波学園都市や大学立地などへの進出を検討するとすれば、会社がよほど確たる新商品コンセプトをもち、それを「中長期に継続追求」する覚悟がなければなりません。進出目的がはっきりしないと、会社が損するばかりか、派遣された技術者本人も「環境が醸し出す重圧」に潰されます。
 開発情報として、ウエイトが高いのは市場情報です。消費財商品の市場情報は別荘地ではなく、人口集積地に多く集まるに決まっています。消費者に直に触れて得る情報は、変化が激しくかつ急速です。いくら広々とした業務環境でも『山篭り状態』では、インターネット時代でさえも世情音痴に陥ります。
 これに対し技術情報は、日進月歩の変化があるとはいえ、研究機関や大学など情報のある場所へ、必要な時期に出掛けて行って、集中的な収集が可能です。また新商品開発が技術情報から始まると、プロダクトアウトの弊害に陥る危険性もあるわけです。
 「門前の小僧が経を覚える」式の情報接触機会は、技術情報よりもむしろ市場情報の方に必要です。研究開発施設は情報収集に適した場所にあることが設置の要件であっても、その情報は必ずしも科学技術情報だけではありません。


6-2.開発管理の手法

〔管理嫌いのわけ〕
 研究開発の管理は、大変難しいといわれます。研究開発には、よい管理手法がないから「当事者に全面的に委ねる」というトップさえいます。要は、技術者の良心と自覚を重んじた「自主管理に任せる」というのでしょう。一方、技術者サイドでも管理という「言葉さえ嫌い」だという人もいます。
 ですから「自由にのびのびと研究」してもらいたいトップと、「やりたいようにやらせる約束だった」といきまく技術者が登場するわけです。が、このような発言は、研究開発業務が会社の一機能として捉えられていないのです。
 いまさらですが、管理というものは計画、実行、統制つまりPlan Do Seeの三要素がセットで構成されています。ですから「自由にのびのび」に反しそうな『統制を外す』のでは、計画からして無用になります。ただ「実行あるのみ」では、研究開発という仕事が、会社経営の概念から外れます。
 管理ははじめに計画があり、それに照合して実行した結果を評価し、統制につながります。が、研究開発業務を的確に評価することは、たしかに難しいのです。
 研究開発の現場では、試行錯誤の中で『思わぬ発明・考案もある』代わりに、思わぬアクシデントに見舞われて『何も残らない』こともあります。
 しかし『のびのび』や『自由勝手』は、統制の「緩め方の問題」に過ぎないのです。緩めようが、厳しかろうが、統制は統制です。そこで図表6-3のように「ストライクゾーンを大きくする」から、三振を打ち取るほどの剛速球を「思い切って投げてこい」というような、管理態度が提唱できるというものです。
                   %E5%9B%B3%E8%A1%A86-3.gif
 ストライクゾーンがいくら広くても、ストライクはやはりストライクであり、ボールはボールです。ストライクとボールの『評価』、『判定』をしなければ野球になりません。

〔計画策定のポイント〕
 計画の構成は、他の経営計画と基本的に同じです。つまり一般の経営計画と同様に、図表6-4の類別があるわけです。
    %E5%9B%B3%E8%A1%A86-4.gif
 これまでのプロセスからすれば、開発計画の場合、あらかじめ新商品企画書ができています。したがって計画の内容は新商品企画を、より具体的にするするための『情報を追加』すればいいはずです。
 このうち長期計画は、会社の将来を規定する『考え方』に過ぎませんが、中期計画は具体的な実行計画ですから、経営計画の中では最も重要な位置付けになります。ただ、いつまでも開発上の諸問題、特に新技術導入や標的市場の問題が解決できず、「結果的に中期にわたる」ものが、中期計画ではないことです。このような場合は、その個別計画を一旦中止にすべきです。
 研究開発計画は、要員計画、開発日程、開発予算などで構成されます。が、その内容の細かさは、どこまで設定するかが『策定のコツ』になります。先の「的を大きくとって思いっきり投げさせる」管理方針から、計画内容は「詳細緻密に固め」あげることはしません。図表6-5の要領です。
       %E5%9B%B3%E8%A1%A86-5.gif
 計画で最も難しいのは、研究開発対象である新製品イメージを「どの程度まで具体化した目標値にするか」です。目標値の具体的項目としては、製品分野やサービスのジャンルによって異なってくるでしょうが、図表6-6のような事項が考えられます。
       %E5%9B%B3%E8%A1%A86-6.gif
 これらの項目は、既に企画書に5W2Hで大ざっぱに記載されているはずです。また、アイデア評価段階で再度検討され、開発内容が詳細になっています。したがって開発者に対する目標の付与としては、それらの事項を表すだけで十分でしょう。
 しかし、いよいよ開発を着手する段階で「計画目標設定会議」とか「新製品仕様検討会」などを開いたら、営業部門が「数段厳しい仕様」や「サービス形態」または常識破りの「低い売価水準」を要求したとします。
 それならとばかり「開発要員の増強」や「期間の延長」「予算の枠増し」または「目標スペックや予定価格変更」が、後で必要となるのでは、せっかくたてた計画が無意味になります。
 ですから、開発初期段階の修正は不要です。その理由は、開発計画が『走りながら考え』なければならない性質があることです。研究開発過程では、修正を余儀なくされることがよくあるものです。
 一般の経営計画が「どうせ後で修正するのだから」と思われるようでは、「ない方がまし」になるかもしれません。が、ある程度の修正が前提であっても、研究開発計画はなければならないということです。
 研究開発管理が難しいから、大きなストライクゾーンを設けるのです。それを第一球でホームラン性の大ファールを打たれたからといって、すぐにルールを変更したのでは、次に投げる球がなくなります。

                                     以上、第21回につづく

追 記
 KJ法を開発された、川喜田二郎先生が’09年7月8日、89歳でお亡くなりになったという報道に接しました。
 この『成功する企業には新商品開発がある』において、KJ法については’09年5月27日アップの第17回 4-3発想技法とアイデア開発の『図表4-11-2その他やや専門的な発想技法』の最後に、ちょっとご紹介しています。
 その他では、’09年6月27日アップの第18回 4-5新商品イメージへの接続の『図表4-17個々のアイデアを図表に描いてまとめる』の事例が、KJ法の形式を引用させていただいたものです。
 謹んで、哀悼の意を表します。

2009年06月27日

成功する企業には新商品開発がある

                                         第19回  山﨑登志雄


5.アイデア評価は企画書で
- 新商品には優れた苗だけを -

5-2.アイデア評価のポイント

〔入・出力の大きさを見積もる〕
 アイデア評価は、企画書に基づいて行われます。企画書に書かれている商品と市場の5W2H情報は、投入と成果の対比を評価の基準にします。つまり、新商品の『開発投資や市場導入費の投入額』と、新商品開発によって『獲得可能な利益』の比較です。
 まず、投入のレベルです。開発投資額の大きさは、会社によって「投資し得る額」が自ずと決まります。が、はじめに「投入額は1千万円以内」といった、提案に対する評価基準があると、重大な機会損失を招く恐れがあります。本当に「儲かるアイデア」が提案されたのなら、「借金をしてでも実現させる」べきです。
 インプットとアウトプットの比率関係で、開発投資は過去の実績から比較的容易に割り出せます。したがってまず、開発成果の確からしさを点検しなければなりません。新商品開発の成果を利益におけば、【利益 = 販売数量×(単位売価 - 単位原価)】です。
 このうちまず、原価は過去の実績から比較的容易に想定できます。しかし新製品に「どれくらいの販売価格が設定できるか」となると、需給関係の中で競争条件の変化があるため、容易に推測できません。
 販売数量は、新商品の対象市場に存在する総需要と、自社商品の占有率で決まります。この占有率を上げるために新商品を開発するのですが、売価の設定はその占有率を左右するという、因果関係があります。が、客観的なデータベースなどを引用し、総需要の調査ができれば「販売数量の予測」は、売価設定ほど難しい問題ではありません。
 仮にこの見積もりが、いくら難しい問題であっても、具体的な計画を立てるときは、開発目標として設定しなければならないものです。ですからアイデア評価段階では、企画書に記載された大雑把な総売上高予想から、開発成果を推測するよりほかになくても、仕方ないでしょう。実行段階ではこの売上高予想が、販売目標にもなるのですから。
 ただ同じ売上高でも、どの時点をとって比較するかの問題が残ります。このため、複数の企画を比較評価する場合は、開発費を売上高によって「何年間で」取り戻せるかを判断し、相互の優劣を決めることがあります。回収のパターンは図表5-4の概念です。
      %E5%9B%B3%E8%A1%A85-4.gif

〔絶対評価と相対評価〕
 企画書に記入される情報は、荒削りの不完全なものにすぎません。ですから評価者の方でも最後は、図表1-11のように K、D、U つまり『勘』と『度胸』と『運』を頼って判断せざるを得ない要素が、多分に含まれています。
 投資成果を予測するのが難しい技術者やセールスマンへの『教育投資』や、広告宣伝費のような『販促投資』は「投資効率だけ」が問題です。つまり投資額の決定も含め、効果的な方法や手段、タイミングの選択が、投資効率を決めるというわけです。
 しかし開発投資の場合は「完全に失敗する危険性」があります。つまり教育や販促への投資は、効果に大小があってもゼロということはないのです。が、開発投資はONかOFFであって、効果がゼロのケースさえあります。このような開発投資の不確定要素は、完全にカバーできる最適な評価方法がありません。
 そこで実務的には、数ある企画の『代替案』の中から「より好ましいアイデアを選ぶ」比較評価法が使われます。アイデアは、多ければ多いほどよいとされるのも、選ぶ範囲が広がって安心できるためです。
 一般的に代替案の評価理論は、絶対評価の正当性がいわれます。が、提案アイデアを絶対評価すれば、たったひとつの提案も十分に審議できます。また多数のアイデアが、開発能力を越えてまでも、全部採用しなければならない事態も起こります。
 逆に会社の開発投資に余裕があっても、採用できるアイデアがない場合もあるわけです。絶対評価には、「次善の案」というものがないから、ここはやはり相対評価でいくべきです。
 しかし評価を受ける提案者は、「絶対評価を受けるつもり」でなければなりません。提案者側の意識が相対評価なら、誰しも自分のアイデアが可愛いから、採用案と非採用案との間では、『提案者同士の葛藤』が起こります。
 この葛藤は、競争社会で「今度こそは」とばかり有効にはたらく場合もあります。が、多くの場合は「社長の親戚だから」や「どうせ俺なんかは」といった妬みや僻みなど、好ましくない方へ向かいます。
 葛藤が起こる理由は、責任と権限において「評価を受ける者と評価する者」の意識が、混同されているからです。例えばベンチャービジネスなどで、ワンマン社長が評価者と非評価者を兼ねる場合は、厳しい絶対評価をしないと、『己の愚案』をもって大切な経営資源を消耗させてしまいます。第三者的な立場から、そんな事例も診たものです。

〔開発リスクと評価基準〕
 アイデア評価では、時間の要素を考えます。つまり図表5-4のように、開発投資と成果の間にタイムラグがあるため、両者の比較評価には時間差を配慮するのです。
 企業会計がワンイヤールールに則って、1ヵ年以内に決算しなければならないのですから、研究開発費は『繰延資産』にしないかぎり期中の損失です。が、多くのケースで開発成果のほうは、2年後とか3年後でないと利益に計上されません。
 さらに投資資金には、回収終了まで利息等の資本コストが追加されます。同時に、時間の経過とともに、『期間原価が増大』するばかりか『強力なライバルの発生』や『急激な市場環境の変化』など、リスクはますます増大するのです。
 ところがリスクの大きさというものは、容易に評価できるものではありません。が、図表5-5のように考えることによって、リスクが「時間との関数」で表せるであろうと思っています。
     %E5%9B%B3%E8%A1%A85-5.gif
 つまりリスクに関連した入出力比の評価基準において、開発期間という時間要素を絡めると、『短期決戦型』と『長期展望型』とでも言うべく、二つの評価態度が方向付けられます。図表5-6の区分ですが、新商品開発には「わが社の救世主」的に意気込むところがあって、かっこいい長期戦展望型の評価態度に走りがちです。
    %E5%9B%B3%E8%A1%A85-6.gif
 危険を冒せば冒すほど儲けも大きいというのは、シルクロードのキャラバン隊に通用しても、現代の新商品開発には通じません。ですから長期戦展望型の勇ましさが、必ずしも「上手いアイデア評価」というわけにいかないのです。
 この評価態度によって、現在の企業を支えているベースの製品や売れ筋商品が、経営資源の分散によって弱体化でもすれば、勇ましいどころか惨めです。
 しかし反面で、アイデア開発は「大いに夢を抱け」とハッパをかけてきました。ですから評価段階になって、夢を砕くような現実に戻ってしまうのはどうでしょう。
 二つの評価態度から「短期の防御」と「長期の攻撃」のごとく、開発テーマをミックスして選ぶのが理想です。が、開発資源が不足がちの中小企業が、能力を遥かに越えた開発テーマを抱え込んだのでは理想どころか、消化不良の現実に悩みます。
 結局ここでの判断は、平たくいえば「投入費用回収期間まで会社がもつか」ということです。それが会社の『リスク耐力』ですから、総合的な判断基準は会社を「永続的な発展」に如何に導くか。これに尽きるのではないでしょうか。

5-3.動機づけに活かす

〔評価票の作成目的〕
 アイデア評価は、記録に残せる『評価票の形式』で、ペーパーを用いて行います。が、企画書と評価票は、後世に残す意味が違います。
 評価の基本は企画書の内容を確認し、企画書相互の利益率を比べることです。が、テストの答案用紙に採点するように、企画書の中に評点を書き入れるのはいけません。評価票は特定のフォーマットを、別に準備すべきです。
 ただ企画書が、時期を失することなく「アバウトの情報」で十分だったのに対し、評価票は提案審査だけを目的にしていません。ある新商品アイデアは評価の結果、開発テーマになると、終了後の実を結ぶまでの期間が長期にわたります。
 その間、市場環境の変化を何度もチェックし、急激な市場動向があれば、開発テーマそのものを見直すくらいでなければなりません。要するに、開発テーマを評価し直さなければ開発が終わる頃、売れる新製品になっていないかもしれないのです。
 そこでチェックすべき項目は、テーマ終了までのすべてを想定して網羅しておくと、そのチェック・リストが開発過程の各ステップで使えます。図表5-7は、その評価項目をリストにしたものです。
     %E5%9B%B3%E8%A1%A85-7%281%29.gif
     %E5%9B%B3%E8%A1%A85-7%282%29.gif
 このチェックリストが、図表5-1に提示した5W2Hよりも、やけに細かくなっているのは、欲張りすぎたのかもしれません。が、実務的にどこまでをチェックするか否かはともかく、これくらいの項目があるべきだということで網羅してみました。
 アイデア評価票は、このチェッリストをもとに作ります。もし評価ステップ毎に用紙を分けて作るなら、新商品評価と新技術評価が4ステップずつなので、8種類ができることになります。市場性評価と長・短所評価を分けるなら、全部で16種類にもなるため、自社で大切だと思える事項だけ、ケース・バイ・ケースで選んで利用してください。
 評価票に「項目」「ポイント」「方法」を全部記入すると、例えば開発見込みの難易度などをウエイト付けした「評点」の欄や、評価者の「コメント」欄が狭くなるでしょう。このため共通のチェックリストは全項目を網羅した一種類を作ります。そして項目以下の三欄は記号化し、用途別に8または16種類の白紙に近い評価票を作れば、A-4版一枚に納まり記録や保管が便利です。
 また、短期決戦型の目で評価すべき新商品イメージと、長期戦展望型の目で評価すべき新商品アイデアは、評定の日程を分けるといいでしょう。そうすれば、両者の重要性が区分されて評価できるのではないでしょうか。

〔評定の苦しみ〕
 評点は、評価票を前において企画書を見ながら、一件ずつチェックして付けます。が、実はこれがまた、大変な作業です。
 大きな組織では、部門ごとに一次評価をします。ある程度ふるいにかけた後に、選択されたアイデアだけを上層部にあげ、最終評価を求めることもできるでしょう。
 また評価者の側では、意志決定することも大変です。が、開発、生産、営業など、それぞれの思惑が違う各部門の関係者が集まって「小田原評定」に陥ってはなりません。
 中規模企業になると、評価票を『集め』『集計』し、結果を『再評価』するといった単純事務作業だけでも、大変な量になるでしょう。が、これを機械的に処理するだけでは、アイデアを「コンピュータ占い」か「人気投票」にかけているようなもので、当事者の意思が介在しなくなります。
 アイデア『開発』と『評価』の過程は、会社にとって「実務者を動機づける」絶好のチャンスです。中には「下手の横好き」もありますが、一般的には「好きこそものの上手なれ」が、ものごとの道理です。
 研究開発など「評価以後のプロセス」で、担当者が惚れ込んで提案する場合は、開発業務だけでなく会社の業務全体の効率が上がるものです。人間のやることは、何事も気が入ってやれば上手くいくことの証があるからです。
 開発者は自分で「やりたいテーマ」が、同時に「会社の目的に適い」、会社の「トップがそれを容認」する、三拍子揃った状態が、新商品開発で最も大きな成功要因になることに間違いはありません。まさに図表5-8に示すごとくです。
     %E5%9B%B3%E8%A1%A85-8.gif
 世間にあるピソードには「開発研究者がトップの反対を押し切り、夜中にこっそり実験を重ねて新商品開発を成功させた」結果「トップにアイデアの素晴らしさを認めさせた」というような話もあります。
 また『おらがアイデア』で『おらが開発した』んだから、「利益の半分はいただく」などとの主張が、マスコミを騒がせます。が、この開発活動に伴う最終的な「結果責任はトップが負う」のが、厳然たる企業の論理です。
 平たくいえば「会社の経営資源を活用」して「開発活動を展開」する結果、「大損をして」も「大儲けをして」も、後始末はアイデアの評価者たるトップが執るのです。「大損の補償」をアイデアの提案者に追及しません。
 ですからどうしても、提案者と評価者の「イメージが一致しない」新商品アイデアのときは、トップの意志を通すよりほかにありません。その場合は、まずトップ主導で実務者を説得して解決しなければなりません。これに対し実務者は納得という形で納めるべきです。
 このときトップは、開発や市場開拓に現場ではたらく実務者を、説得するだけの情報把握が必要です。トップの単純な好みや山勘で「損をするのは自分だから、命令に従え」と感情論で迫るのは説得ではなく、実務者の納得が得られるはずがありません。
 いくら「責任は自分でとる」といわれても、責任をとるのは経営者として当然のことです。そして部下が「感情論で強制された」と思うかぎり、結果的にその新商品が成功しても、後にしこりを残し生産にも販売にも支障をきたします。仮に失敗でもしようものなら、強制された方は「俺の人生どうしてくれる」と開き直ることになるでしょう。
 開発担当者には、職務を通じて社会人としての『自己実現を果たす権利』があります。このような上下関係のあり方が、産業民主主義というものです。その主権者の一人としては、評価時点の意見を別にして納得するかぎり、やはり「成功の美酒に酔いたい」ものです。特に今の若い人達は、この人間として当然の気持ちをはっきりと表します。
 時代はいつであっても、新商品開発や新市場開拓は、意志をもった人間がやる仕事だからです。むしろ、評価者たるトップも被評価者たるフォロワーも、自分の考えに対して葛藤が起きるくらいの『信念と誇り』をもって、けんけんがくがくの討論をすべきです。
 評価段階で、このようなプロセスを進行させることが、評価票を作るうえでの本当の意義なのでしょう。そしてアイデアの評価者も被評価者も、十分に納得があれば次のステップである研究開発へと進まなければなりません。

以上、第20回につづく

2009年05月27日

成功する企業には新商品開発がある

第18回  山﨑登志雄


4.中心課題アイデア開発
- 新商品の発芽は逞しく -

4-5.新商品イメージへの接続

〔猫でなければ〕
 「吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたか頓と見當がつかぬ。・・・」というのは、夏目漱石の処女作の出だし部分です。
 原文にあるように、発掘されたアイデアの名前は「まだなくて」もよいのです。が、はじめに「“猫”というイメージ」だけははっきりさせないと、プロローグ以後の筋が立ちません。同様に、商品イメージがはっきりしなければ、新商品開発が進まないのです。
 ただ小説のイメージキャラクターは、あくまでも”猫”です。犬であってもその他のペットであっても、たとえ主人公の迷亭先生や寒月君という登場人物の設定を同じにしても、この小説は『売れる新商品』になりません。
 引例は全くこじつけに過ぎませんが、創作という点では新製品企画も小説も変わらないでしょう。ですからこのこじつけは、図表4-17のようにKJ法的なまとめができるでしょう。また新製品イメージでなく、新サービスのアイデアを創出するのでも、このような方法で考え方をまとめていけるかもしれません。
%E5%9B%B3%E8%A1%A84-17.gif
 さてブレーン・ストーミング(BS)のルールでは、その場で「結論を求めない」ともいわれますが、この留意事項は「アイデアを多くださせるための配慮」にすぎません。決して「思い付きの出しっ放し」でよいはずはないのです。
 あれこれ考え、議論し蓄積した意見を総合して「やっぱり“猫”でいこう」とばかり、イメージをはっきりさせていきます。その狙いは、BSメンバーに「おらがアイデアだ」という意識を植え付け、参加社員をこれから先の取り組みに動機付けるためです。

〔BSをまとめたイメージ〕
 まずBSをまとめるチャンスは、断片的な思い付きがあても、同じ意見が繰り返されるようになってきたときです。座長は多少の無理があっても、まとめの方向に誘導します。
まとめの留意事項は図表4-18に示します。
%E5%9B%B3%E8%A1%A84-18.gif
 新サービスも新製品イメージも変わりませんが、重要なのは「猫なのか」「犬なのか」はっきりしなければ、このあと「どういうように考えていく」のか「何を作ればよい」のか、わらなくなります。
 たとえば商品フレームを「玩具に設定」している会社で、ただ「かわいい動物の縫いぐるみを開発しよう」といった商品イメージが出される場合です。これでは「縫いぐるみ」そのものが商品イメージになってしまい、“猫”であろうが“犬”であろうが「かわいい動物」でありさえすればいいことになります。
 ところがこの場合の「かわいい動物」は、単に製品条件にすぎません。商品イメージとして最終的にまとめるには、新商品に対する『条件付け』が必要になることもあるでしょう。それによって実際に開発するとき、“縫いぐるみの猫”をいかに「かわいらしくみせる」かが、デザイン課題となってきます。
 ここまで商品イメージがはっきりすれば、そこにまた新しいアイデアが生まれてくるというものです。しかし、製品条件を示されるだけの商品イメージが、先に出されたのでは「どんな縫いぐるみを作ればよいか」わからないわけです。それでは製品になりません。
 描いたイメージを商品像に結び付ける形態は、絵に画くか成文化です。上の例でいうならば、”猫の縫いぐるみ”を絵に示せばピタリです。また、縫いぐるみの「大きさはどれくらい」「材質は」「色彩は」というように、製品のもつ機能や仕様を成文化する方法なら、絵の下手な人にも示せます。
 このようなまとめは、後で評価する時点で「時期尚早」などと、仮に没になっても次の機会に日の目をみたり、別の機会に切り口を変えてみたり、新たに肉付けされることもあるわけです。
 ただ、商品フレームに外れたところで「素晴らしいと思える」脱線アイデアが出たときは、そのまま尻馬に乗って突っ走ってはなりません。必ず「商品フレームの見直し」に返って、フレーム自体を検討しなおすことです。
 だからといって、商品フレームを「玩具に設定」しているのに、フレームから全く外れた「こんな饅頭があったら売れるだろう」といった異端のアイデアは、まったく要らないわけではありません。出されたアイデアは、全部「企業の無形資産」です。
 会社のトップが、異分野の会合で聞いた話に「ピンと勘に響いて、このヒット商品が生まれた」といったようなエピソードは多くあります。したがって、他の商品フレームの分野でよいアイデアが続出するような場合は、原点に立ち返って「製品フレームの方を見直せ」というわけです。


5.アイデア評価は企画書で
- 新商品には優れた苗だけを -

パート5のポイント
[企画書]説得力のある企画書をつくる

 経営にとってリスキーな新商品開発では、アイデアを企画書に示し、トップの評価を受ける必要が当然あるわけです。と同時に、提案者側の遣り甲斐も、ここから始まりまるというべきでしょう。

新商品企画の真意を伝える
 企業経営にとっては大変リスキーな新商品開発は、アイデアをまとめてトップの承認を得てからでなければなりません。したがってまずここでは、トップにわかりやすく効果的に伝えられる企画書の作り方を示します。それとともに今度は、提示された企画書をもとにしたトップ側の、評価手法を紹介していきましょう。

5-1.新製品企画書のつくり方

〔企画書の役割〕
 描かれた新商品イメージは、新商品企画のプロセスを一歩進めて、企画書づくりのステップに移します。
 新商品開発は、「よし、何が何でもこれを開発しよう」という、トップの強い意志が大きな成功要因です。つまり「損をするのも設けるのも」すべての結果責任を負うトップが、新商品開発について「その気に」ならなければ、せっかく開発したアイデアが活かされないのは当然です。
 トップとて、人間であるからには好き嫌いもあるものです。アイデアに惚れ込むようでなければ、『その気』が興りません。そこで提案者は、アイデアに惚れ込ませるに十分な情報を『企画書の形式』で提供するのです。いわば企画書は、トップに対するアイデアのお見合用文書です。
 さらに文書になった企画書は、組織内の人々に発案者の『意図と内容』を知らせます。お見合いに差し出したアイデア姫の良さを、親戚縁者に知ってもらうのと同じです。ですからその内容は、企画書の「書式に設定」しておくと便利です。
 新商品開発は、企業経営の『命運を分ける大事業』ですから、開発が実行されたら初期の狙いと結果との差異を分析し、PDCAサイクルを回します。初期の企画書は、次の反省材料にするための資料でもあるわけです。これら企画書のもつ機能は、図表5-1にまとめます。
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〔企画書の要件とスタイル〕
 まず企画書のタイトルです。必ずしも名称は「新商品企画書」でなくて「開発計画案」「新商品提案書」「アイデア審議書」でも、気張らずに「新商品構想メモ」でもいいのです。要は「トップの承認」と「社内認識」を得る要件が備わっていればいいのですが、“書”というからには、記録、保存機能を備えた一定様式でなければなりません。
 企画書の要件は、常識的に5W2Hの形式で整理できるでしょう。図表5-2のとおりです。が、この表をご覧になると「ペテンにかかった」ように感じるかもしれません。
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 企画書の諸条件は常識的であっても「書き方は簡単」でないとの印象です。たしかに各項目は、新製品イメージを多面的に検証しなければ、埋めていくのが難しいことばかりでしょう。それを承知で、ここまで述べてきました。
 新商品イメージは、頭の中で描いた仮想の商品です。これを実際に『売れる新商品』に仕上げる前に、これら企画書の中に示す項目だけは、調べて検証しておかねばなりません。でないと、企画書づくりの目的が果たせず、「アイデアは開発した」が「新商品は企画できない」ことになります。このことは、新商品企画がアイデア開発と同じではない証拠です。
 企画書を巡ってトップ・サイドは、リスキーな新製品開発の「意志決定をする」のですから慎重です。が、提案サイドは企画書づくりに苦労しすぎると、それが故に評価段階で不採用になりそうだと、感情的にも容易に引けなくなるかもしれません。
 このような提案者と評価者の立場の違いから、第一次のアイデア評価を受けるために「どうしてもこれらの各項目」が、ざっと埋まっているだけの新商品企画書を考えます。それが図表5-3です。
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 この例示は、書式に図表5-2の5W2Hの要件をまとめただけです。たった一頁の企画書で物足りなければ、提案理由ともいうべき「書いた背景」の情報は、詳細な別紙にまとめて添付します。これはいわば、提案テクニックとでもいうところのコツです。が、企画書自体は一枚程度にまとめたほうが、訴求力が増すというものです。

〔企画書づくりのコツ〕
 アイデアの実現性という緊張感からか、企画書づくりは難しく考えがちです。が、企画書づくりのコツは「完璧な企画書を作ろう」と気張らないことです。完璧な企画書が、アイデアの実現を保証するはずがありません。
 いい企画書は、新商品イメージが、的確に表現されていることです。決して新製品の、実現性を表現する書面ではないのです。むしろ実現性を強調したいばかりに、誇張した情報を盛り込まれるのは困ります。
 書き方のコツは、まず「アイデアの強調項目」のアピールです。そのアイデアの目玉が、狙いとする『性能や機能』にあるのか、『市場規模』が大きいのか、『開発費』が安上がりになりそうか、『短期開発』が可能なのか、といった強調点です。
 次は、狙いや経済性の項目を「およそ、この程度」という概算であっても、必ず埋めることです。企画書をつくるため、随所で必要になってくる『予測はアバウト』で記入するわけです。
 その理由は、これからの新商品開発プロセスにおいて、何度も再確認を繰り返してアイデアの確実性を検証しなければならないからです。
 会社は激動する市場環境の変化に適応する新製品を、効率的かつ適時に開発したいでしょう。もちろん開発リスクは軽減したいところですが、リスク回避は、「どこまでやれば大丈夫か」完璧なレベルがわかりません。にもかかわらず、そのときに得られる情報は確度とタイミングとの兼合いで価値が変わってきます。
 情報の確度を上げるために「金と時間をかける」か、とりあえず情報収集の「迅速性を優先」するかです。ケースによって、この兼合い具合は変わるでしょう。が、タイミングを外すと新製品開発が成功し辛くなるものです。
 ですからアイデア提案に用いる企画書では、リスクを意識しつつも「拙速を尊ぶ」精神が優先されるべきであろうというのです。
 情報が完全に集まるまでは、アイデアをトップに提案し、評価が貰えないのでは、次の段階に進めません。企画書づくりに時間を要していては、好機を逸するおそれがあります。
 またどんな会社でも、数あるアイデアを全部採用できないはずですから、全ての提案に詳しいデータを揃えていると、かなりの部分の「調査費がムダ」になるはずです。
 企画書づくりの段階は、迅速性を優先した情報収集をもとに、大胆な予測をするわけです。が、まったく根拠のない予測と、大胆さとは違います。拙速のうちにも集めた情報に、勘(K)、度胸(D)、運(U)を大いにはたらかせようとするわけです。

以上、第19回につづく

2009年04月28日

成功する企業には新商品開発がある

第17回  山﨑登志雄


4.中心課題アイデア開発
- 新商品の発芽は逞しく -

4-3.発想技法とアイデア開発

〔技法上の共通原理〕
 アイデアを発掘するための、いわゆる発想技法は30種類以上もあるといわれます。ちなみに、よく知られる着想や発想の技法は、図表4-11のようなものです。
     %E5%9B%B3%E8%A1%A84-11.gif
 このように一覧表にして並べてみると、多くの技法や手法には、何となく共通点があることに気付きます。それは発想という人間の思考に関し、多分に心理学的な要素が加味されているからでしょう。その要素は、いわば発想の原理として、図表4-12のようにまとめられるのではないでしょうか。
     %E5%9B%B3%E8%A1%A84-12.gif
 発想は、沈着冷静に考えることも大切ですが、人々の思考を大いに振動させ、沸騰させた方がいいこともあるようです。つまり個人のヒラメキも大切ですが、各人のアイデアを掻き交ぜて反応させ、新しい物質を発現させようとする、いわば化学実験のような原理ではないかということです。
 こんなたわ言を発想の原理というのは、屁理屈かもしれません。が、「誰かの考え方や何らかのツールが、自分の思考にヒントを与えた」ことや「記録しなかったばかりに、インスピレーションを逃した」ことなど、どなたも経験しているのではないでしょうか。
 また、せっかく考えたことは、何らかの形で仕事に活かしたいと思うのも、ビジネスマンの心情です。ですから発想技法の理解には、それなりの意義があるわけです。
 それにしても人間が発想する過程は、あたかも彫刻を仕上げていく作業のように思いませんか。つまり製品フレーム(骨格)を立て、情報という粘土(アイデアの材料)を練って、アイデア(新商品イメージ)を自由にくっつけていくわけです。
 すると新商品イメージは、時間の経過とともに徐々に固まってくるというプロセスです。まさにアイデア開発は、図表4-13のような陶芸と同じ創造的な作業に違いありません。
     %E5%9B%B3%E8%A1%A84-13.gif

〔ブレーンストーミングの進め方のコツ〕
 発想技法がこんなに多くあるのは、こうすれば必ず「グッド・アイデアが生まれる」といった決め手がないからでしょう。しかしビジネス上の効率面からいえば、ただガムシャラに考えるよりも、やはり先人の考えた技法なり手法を用いて発想するほうが得策です。
 ただ難しい技法を駆使すれば、グッド・アイデアが保証されるわけではありません。したがってアイデア開発にあたっては、できるだけみんなに知られた、たとえばブレーンストーミング(BS)のような手法を選ぶのが賢明です。この進め方は図表4-14のような、ある種のコツがあるように思えます。
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 集中度をあげるためには、あらかじめ討論のテーマを明確にしておきます。できるだけ、関連情報のまとめを添えて、それを事前に提示しておくわけです。
 参加者の情報レベルは、プレBSのような形式で、事前に合わせることも必要になるでしょう。が、これには論理的な反論があるかもしれません。
 平素の情報交換はもちろん大切です。が「とにかくやって」みて、だめなら勉強して出直すのでは、BSという技法自体に失望を感じます。こうなると、やり直しの勉強会をやるとしても、それ自体がしらけます。
 技法の名称どおり「頭の中に嵐を起こす」ことは、決して「頭の中が空っぽ」であることを要求しているのではないはずです。既成概念を「嵐で吹き飛ばさない」ことには、新しいアイデアが盛り込めないからこう表現されるだけです。
 しかし吹き飛ばすべく概念さえなくては、嵐を呼ぶ必要もないでしょう。また、参加者にレベル格差があるまま、たとえば上長など特定の嵐に掻き回されたら、瓦礫の山ができこそすれ、新しいアイデアの構築など望めません。ですから実務的な経験上、プレBSの意義を認めるというわけです。

〔発案ローテーション〕
 発案は、数の多いほうがよいといわれます。が、BSの時間が経過すると発案件数は、はじめ多く、時間経過とともに急激に減少してきます。ですから発想は短時間に集中して行い、一休みして次の機会を待ったほうがいいのです。この一休みは、発想密度をあげる効果があります。
 7~8名以下でBSを行うのであれば、討論は40分~1時間までとし、2~3日後に再度2時間以内の議論を繰り返します。メンバー数は多すぎると、前段の情報レベル合わせも難しく、発言者に偏りがでてきます。逆に、少なすぎると議論が沸きにくく、空白の時間ができてきます。
 ひと休みの空き時間が長すぎると、集中度が落ちます。が、アイデア開発のプロセスでは、商品イメージが固まってきだすと、逆に、1週間ばかり休む方がイメージの内容を確認する時間がとれます。つまり先の引例でいえば、固まりかけた彫刻の粘土が本当に乾くには、そこから先の時間がかかるというわけです。
 連想の度合いをあげるために、発言者の意見は大きな紙に書いて面前に提示します。ただ現在では、電子黒板という便利な文明の利器もありますし、パソコンに整理してプロジェクターで皆が見られるようになりました。電子黒板を開発した沖電気工業の方々は、BSをやりながらこの着想を生んだのでしょうか。
 それはともかく第2回目のBSは、第1回目の記録も並べて提示し、第1回目と同じメンバーで繰り返します。またある程度、具体的な商品イメージが描けるまでは、交替要員でなく同一メンバーでやることです。


4-4.アイデア誕生の阻害要因

〔制約条件を与えない〕
 自由奔放に思考することは発想の原則ですが、事前に思考に対する制約条件を与えると、この原則が基本から破れます。たとえば、わが社には「技術がないのだから」「設備がない状態で」または「その市場を知らないのに」といった、現状への悲観論が発想への大きな制約条件になります。
 このように後ろ向きな、考えを念押しされると「そんな発案はできっこない」から「考えても無駄だ」と後で言われるだろうと、発案者に覚られます。発想する前に、こんなプロダクトアウト思考を条件付けるようでは、現状をブレークスルーする新しいアイデアなど、生まれるはずがありません。
 ところが多くのケースでは「わが社の現状の中で考える」ことが、より「現実的な発想」だと勘違いするのです。
 アイデア開発は「無から有を創造しよう」とするのです。ですから発想自体は、本来が非現実的な行為です。現実と離れるために『異分野の人』が加わって、『頭の中に嵐』を起こします。
 ですから制約条件は、「大いに夢を描け」といっておきながら、描くべき思考のキャンパスを狭めます。あたかも、図表4-15のごとくです。
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 トップが制約条件を付けたがる理由は、アイデア開発とアイデア評価を混同するからです。さらに過去の体験から、その混同が発想者側に意識されます。「前にこんなことを提案したとき、にべもなく断られた」ならまだいい方で「何とつまらない提案をするものだ」と叱られたとなると、現実的なアイデアどころではなく、アイデアそのものが生まれません。

〔結果責任はトップにあり〕
 アイデア開発とアイデア評価は、厳然と区別します。評価するのは組織のトップです。が、評価者側は発案者に「結果責任を押し付け」ようとする例をみます。
 たとえば「君が考えたことだから仕方なく採用する」が、「やってみた後の責任はあくまでも君がとる」つもりで「仕事に励んでくれ」といった調子です。ところが、評価者つまりトップのこのような態度は、発案者へ無用のプレッシャーをかけることになっても、決して励ましにはなりません。
 一体に結果責任というものは、発案者には取れないのです。業務の遂行責任は、業務遂行を託された開発、製造、販売、サービスの現業者にあります。
 しかし発掘されたアイデアの発案者と、業務遂行者は全く別の立場です。評価を受けた後のアイデアは、既に「発案者個人のもの」ではないからです。つまり特許権の帰属などと同じで、発想段階のアイデアは個人のものであったとしても、アイデアは「評価後に会社のもの」ひいては評価者たるトップのものになるのです。
 また発想者の側からみても、開発や仕入れ・生産・販売業務など、一部のプロセスを執行する業務遂行者にすぎません。しかしアイデアの実行は、これらすべての業務を総合して結果がでるのです。
 ときに『特許権益の争い』で、発明者が「何十億円の利益請求を主張した」などとマスコミを騒がせます。が、いくら優れた発明であっても、経営の『勇気ある意思決定』と『最適な生産設備』の確保、さらに多くの『生産・販売担当者の努力』があってこそ、「何十億円もの利益」があがるのです。その考案だけで、利益が生まれるはずはないのです。
 ですから、評価されたアイデアに基づく開発遂行の結果責任は、すべての業務を統括するトップに帰属するのは当然です。
 もっと平たく言えば、新商品開発の「成功によって儲かる」のも「失敗で損をする」のも、結果のすべてがトップに跳ね返ってくるということです。あたかも図表4-16のような循環です。
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 トップからすれば「誰でもいい」から、全く「無責任な発言でもいい」から、多くの意見を出させることです。一見無責任に思えるアイデアの中には、十分評価し得る本人さえも『自覚し得ないほどの名案』があるかもしれません。
 企業の発展につながる可能性が大きく、素晴らしいと評価できるアイデアが発掘できれば、その商品化に万全の努力を払うのが企業経営というものです。アイデア実現のためには「新しい技術を習得」させ、借金をしても「最適な新設備を導入」し、必要ならば「新しいマーケティングルート」を開拓するのが『トップの役目』というものです。
 提案者側が、発想前の制約条件や結果責任逃れのために、アイデアが出せない状況があるとすればトップにとって、また会社にとって大きな機会損失を招く要因になることを知らねばなりません。

                                        以上、第18回につづく

2009年03月27日

成功する企業には新商品開発がある

第16回  山﨑登志雄


4.中心課題アイデア開発
- 新商品の発芽は逞しく -

4-2.商品アイデアにかかわる情報とは

〔アイデアの深さ〕
 いわゆるアイデアには、図表4-6のような三つの類別があるでしょう。アイデアは人間の思考ですが、ヒラメキまたは思い付きと混同してはなりません。
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 思い付きは、設定したフレームや収集情報にかかわりなく、裏付けのない考えがポンポンと飛びだすものです。しかし思い付きの多い人は、世間からアイデアマンだと勘違いされます。一般的に、思い付きマンという呼称がないためか、勘違いされた本人もアイデアマンの称号を喜んで受けるふしがあります。
 ヒラメキは、たしかにアイデアの芽に違いないのです。それは、フレーム内で集めた豊富な情報を根拠に、考えに考え抜き、悩みに悩み抜いた揚げ句でないと、パッと閃かないからです。思い付きも、一種のヒラメキかもしれませんが、そのレベルが違います。したがって、ヒラメキマンという、ひやかしの呼称もないのでしょう。
 アイデアは、ヒラメキを核にして更に思考を発展させます。これは、商品化が実現可能なレベルまで高められた考案です。
 思い付きがヒラメキに発展していくには、図表4-7に示すように、大変なブレークスルーがなければならないのです。あらゆる情報をもとに、頭の中にこびりついた思い付きの「殻を突き破る」深い思考が必要です。
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 しかし必ずしも、思い付きとヒラメキの間に関連性はないでしょう。が、アイデアはヒラメキの発展形態であるはずです。部分的なヒラメキが、総合的で具体的な思考にまで高められます。
 ですからヒラメキだけでは、よくわからない思考であっても、アイデアになると客観的な認識を可能とします。多くの人々が、一つの開発にかかわる現代の新商品開発では、客観的な思考でなければ工業化することができません。
 アイデアと呼ばれる思考を商品にするためには、製品像やサービスの方法まで、具体的に浮かび上がらせておかなければなりません。サービスは容易に具体的な姿に描けないかもしれませんが、製品像は客観的に認識できるものです。ですから新商品開発段階で、具体的な製品像が、実験や試験を多くの社員が分業できるようになるわけです。
 中小企業の親父さんが一人で開発する場合でも、製品像は具体的にしておかなければなりません。単なる思い付きであっても、それがベースになってより高度な思考に発展する可能性は十分にあります。
 人間の思考には連鎖性があるのですが、思考の核や種になる思い付きほど消えやすいものです。メモを怠って種が消えると、次のアイデアに連鎖せず、「逃がした魚」を口惜しく思うことでしょう。

〔思い込みの危険性〕
 思考レベルの低い『思いつき』は、『思い込み』になりやすいのです。思い込みが製品像だと勘違いされると、ビジネス活動ではむしろ「危険な思考」に変わります。
 特にトップ層の思いつきは、自分の思考が「可愛い」が故に要注意です。トップ層は日常活動に追われているため、グローバル(広範囲)な情報をもっていない場合が多いのです。だのに幸先のよい「結果を急ぐ」ため、何の根拠もないところへ「のめり込んでしまう」危険性があるのです。
 思い付きからブレークスルーするには、多くのエピソードが生まれます。アルキメデスが「入浴中に身体が軽くなって浮力を発見」したり、ニユートンが「リンゴが落ちるのをみて万有引力を発見」したりの類いです。
 アルキメデスは、このヒラメキから「王冠の中に交ざった安物の金属」を「比重の違いから見付ける」アイデアに発展させます。思い込みだけでは、お客様である王様のニーズに応えられません。浮力を知ることは、それ自体で立派な大発見ですから、2300年以上たった今でもアルキメデスの原理として残ります。
 しかし現代風にいうと、自然現象の発見だけでは特許権になりません。が、この原理から、図表4-8のようなフロート式比重計に転じれば、特許などの工業所有権になるでしょう。
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 つまり、思い付きがビジネスにつながるアイデアにまで昇華し、新商品へと転じる機会を得るのです。

〔ユーザーニーズとアイデア開発〕
 ビジネス上のアイデア開発は、たまたま「耳寄りな話を聞いた」といった偶然性を待つだけではだめです。アイデアは必要なとき、意図的に生みださなければ、会社の仕事としてのアイデア開発になりません。
 もちろんアイデア開発には、根拠となる情報が必要です。だから日夜、血眼になって情報を収集するのですが、日常的な情報とアイデアがストレートに結び付くケースは、無くもないでしょうが希でしょう。
 仮に、耳寄り情報がストレートに結び付きそうでも、その間に人間の思考過程が入らなければ、意図的に開発したアイデアとはいえません。ですから会社のアイデア開発は図表4-9のような運びでやります。
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 新商品は「消費者やユーザーのニーズを基にしなければ」売れないといいます。が、市場で顕在化したニーズは、誰でもキャッチできます。そんな普遍化した情報を根拠に「こんなものならば売れるだろう」と、新商品イメージを描くのは容易なことです。が、そんな新商品アイデアが、他社と差別化された売れる商品になるはずはないでしょう。
 誰にも気付かれないニーズを懸命に求めるのは、隙間市場を探しているのと同じです。そんな暇があったら、むしろ「こんな商品ならばニーズにフイット(適合)するのではなかろうか」とばかり、企業側が新商品イメージをつくっていかなければなりません。それが、意図的なアイデア開発というものです。
 手順としては、そのアイデアを基に、ニーズにフィットするかどうかの裏付け情報を探します。その情報こそ、商品イメージに必要な供給要件、つまり新商品に盛り込まなければならない製品機能やサービス要件です。

〔提案型のアイデア開発〕
 ニーズが市場に顕在化しているにもかかわらず、いまだ満たされてないとします。するとその理由は明らかで、企業側の技術水準が、供給要件を満たすだけの技術レベルに達していないのです。
 ニーズを満たす技術がなければ、商品化できないのは道理です。が、実際は「できもしない新商品を求める」感覚、それがニーズだとは言わないのではないですか。
 また逆に、現在の技術で十分に満たし得るはずのニーズ(要求)が、ウオンツ(欲求)の形式で潜在化していたとします。するとウォンツは、企業側も「同じ人間として想定できる」のですから、この場合は新商品企画に大いなるヒントを与えます。
 そのアプローチは先ず、思考の対象分野で顕在化しているニーズの周辺に、別の「ウォンツがある」であろうと推測します。推測の確からしさは情報収集で検証し、それを基に新商品イメージを描きます。次に、元のウォンツは、会社が一方的に推測したのですから、実際の製品やサービスに具現化して、消費者やユーザーに認識していただかなくてはなりません。図表4-10に事例を示します。
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 このような手順がとれる理由は、消費者やユーザーが自分自身のウォンツを満たすアイデアなり、生産手段をもっていないことです。生産手段は供給側である会社がもっています。
 ですから会社がアイデアを開発し、具体的な新製品や新サービスの形にして消費者やユーザーに提案するのです。新商品を知れば、消費者やユーザーはウォンツをニーズに変えて「あれが欲しい」となるわけです。
 ただ、提案型のアイデア開発といっても、新商品イメージだけで市場に示せば、ライバルに気付かれます。新商品アイデアは最高の企業秘密ですから、現物なりシステムにしてから市場に披露します。
 しかし実物にした新商品が、ウォンツにフィットするとは限りません。この当たり外れが、いわゆる『開発リスク』というものです。
 いわばウォンツの推測が、リスクの程度を決めるわけですから、提案型のアイデアを開発する場合は、リスク軽減のための情報収集が不可欠です。

以上、第17回につづく